無題(1/37)
《スットラ〜イク!》
画面が切り替わりガコーンという音に紛れてそういった。
ボーリング場特有の雑音をききながらオレンジジュースを飲んで、拍手をしながら「凄い」と褒め称える女子をみる。
それなりに化粧しててちっちゃくて日頃お目にかかれないぶん、やけに可愛らしく見えるから何マジックかと思ったり思わなかったり。
「いえー!真崎みたか俺の必殺スリップをっ」
でれでれと女子にピースしては自慢気に俺の横に座った友人に適当に笑ってすげーすげーと言ったけど、おまえあれボーリングの玉回転させただけじゃん。スリップじゃねーからあほだなあ。
飽きれ半分になった笑いをどうとったのか知らないが、反対隣の友人が「あいつバカ丸出しだな」と俺に同意を求めるから女子の前で言ってやるなよと笑った。
これはいわゆる合コンなんだけど、なーんかな。違う。
「まさきくん…だっけ?」
隣の友人が女子の隣に移ったから、むこうの女子が俺の隣に座った。
合コンの場には不馴れなかんじがひしひし伝わってくる、染めてない黒髪が綺麗な子。
「そう、真崎雄大よろしく」
人並みな顔の俺は笑うでもしなくちゃ好かれはしなくて、じぶんでもそれをわかっているから人が良さそうに目元を緩めて笑う。
どんな不細工だって愛想さえよければ先輩に好かれていた。昔の俺はそんなこともわからなかったから、無愛想で少しでも部活で先輩に愛でられた記憶はない。
今ではほんの少し、変わったんじゃないだろうか。
「あ、あの…真崎君たちは白学なんだよね?」
白雪北斗学園、通称 白学。
おれは白雪と通称してるから一瞬なにを言われているかわからなかったけど、スリップを得意とする友人が横から「そうだよ!」と割り込んではまたボーリング玉を持って行ったから顔をしかめる。
おれの順番どうしたよ。
「それでその…男子ばかりなわけでしょ?」
あれから話を繋げて問いかけてきたわりに、やけに歯切れの悪い話し方をする子に疑問を抱きつつ、うなづくと照れたようにやっぱりなんでも無いと手を振った。
しぐさ的には俺に気がありそうだけどなにか違う、この子はもしかして白雪に好きな人がいるとかそうゆう感じだろうか。
空になったオレンジジュースの瓶を眺めて、とりあえず立ち上がる。
「ごめん、空瓶捨ててくるわ」
苦笑混じりに携帯もつかんで、すこし離れた出入口付近のゴミ箱へとむかった。
あ、ここにも自販機ある。空瓶を捨ててから暇潰しに眺めて、財布をとりだす。もっかいオレンジジュースでも買おうかな好きじゃないけど飲みたい気分。
小銭を入れようとしたら、コイン投入口を筋張った男の手がふさぐ。
「いいご身分だな、学園抜け出して」
誰だよ、と手をたどり顔をみて、血の気が引いていくのを感じた。
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