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「ココア買ってきて」


小銭がはいってない財布からお札を取り出す。

きょとん、カウンターで仕事している西野弥栄は目を見開いてた。
じぶんの手に持つオーダー表と、おれの顔と、おれの手にあるお札。何度も行き来して一拍置くと口をひらく。


「え、とみりさん今?」


あ、買ってきてくれるんだ。

なんとなく反応でそう察したので、笑みを深めて頷くと厨房の方を振り返りながら一度考えるそぶりをみせる。眉間にシワが寄っているのもなんだか見慣れてきた。


「お店のココアじゃだめなんですか」

「やえからのココアがいい」

「どーゆーこと」


おかしそうに眉を下げて苦笑する西野は、お札をおれの手から抜き取ると、3分待っててねと厨房に引っ込んでいった。いやべつに今じゃなくても良かったんだけど、なにあいつ学生時代パシリでもしてたのかな。あまりの従順さに頼んだおれが困惑していたのを他所に、ほんとに買いに行った西野の代わりですといわんばかりに谷やんがホールに出てきた。目が合うと、よおと手をあげてくる。それにおれもへらりと笑って手をあげた。


「ごめんやえパシっちゃった〜」

「ああ、なんか裏の自販機行ったのとみりのせいか」

「裏に自販機あるんだ」


てことは缶のココア買ってくるんだ。

なんとなくあったか〜いのボタンを思い浮かべたらそれに向かい合う西野の姿がうかんで、無性に邪魔したい衝動に駆られる。西野が押したいボタンと違うやつを押したら、怒るだろうか呆れるだろうか。いやおれのお金だから笑って終わるかもしれない。

ふん、と納得したように最後のサンドイッチに手を伸ばす。


「そういえばやえ、パシられ慣れてるの?」

「え?」

「めっちゃすぐ了解したけど」

「ああサボりたいだけだろ」


空いた皿をさげながら谷やんが苦笑する。


「あひゃひゃサボりたいとかあるんだ、意外〜」


いつもは喋り掛ける暇もないくらい、手が空けば何か仕事を探してまで動いてる印象が強い。


「なー。でもまあ、理由がなきゃサボらないくらいには、真面目よ」

「それは真面目というかヘタレ」

「おい!」


あ。

おれも谷やんも厨房のほうをみて驚き半分にやけてしまった。
アルミ缶をいくつか抱えてる西野が怪訝そうに片目を細めてそこに居て、怒るような口調でこちらに近づいてくる。ほんとにすぐ裏にあるんだな、3分もかからなかったと思う。


「せっかく買ってきたのに、あげないからな!」

「え〜やだやだ」

「子供みたいな駄々っ子だなとみ」


おれの嫌がり方に谷やんがけらけらと笑う。

ていうか、おれココアって言ったのにコーヒーとか粒々オレンジとか何本買ってるの。まあいいけど。

ちょうだい、と手を差し出すと口をへの字に曲げて睨んだあと、ココアとお釣りを渡してくる西野。お釣りはちゃんと返すんだ、と思いつつ見てみれば350円しか無くてちょっと笑った。


「なに沢山買ってんの〜?」

「お駄賃ですー」


はい谷やん。そう言って谷やんに微糖を渡す。

ありがとーと西野の頭を撫でる谷やんにムッとして、おれのお金ですけどとツッコミをいれると俺も頭を撫でられた。でも西野のときとは違って2、3回叩くようにされただけなので西野には甘いなこいつと目を細める。
どこか楽しそうな西野は、残りの缶をカウンターに並べるとハニかむように笑う。


「ありがととみりさん」


谷やんの真似しておれの頭をぽんっと叩くけど、おれもそれに対して目を細めるのではなくて笑ってしまった。おれも西野に対してはちょっと気が緩んで甘くなるのかもしれない。手元のあったか〜いココア程ではないけれど、粒々オレンジくらいだろうか。


「そういえば、なんで急にココア?」

「やえ今日バレンタインだよ」

「うん、知って……え?」

「やえからのチョコげっとー」


そんなんで嬉しいの!
なんて笑う西野は知らないだろう。

これからおれが、ありすにゆゆからバレンタインを貰ったと自慢することを。あひゃひゃと色んな意味で笑いながら、明日の呟きが楽しみで仕方なかった。




(てめえ……)
(え?なんでありすちゃん怒って、え、なんでゆゆに怒って……??)



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