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口クリスマスをカフェ組で



出勤する1分前が一番憂鬱で、なんとかならないかと考えている間に1分が過ぎてしまった。遅刻してしまう。ギリギリに出るようになった自分に鞭を打つように早歩きで職場に向かう。
朝の支度なんて顔洗って歯を磨いて服着替えながらパン食べるくらいなもので、10分もあれば余裕、いや3分でもいい気がする。でもトースト焼くのに3分かかるからそれは無理か。

待てよ?

3分で焼いて咥えながら出ればいいんじゃないか。
でもそんなことしたら運命の人と曲がり角でぶつかって「あの時の!」なんて展開になってしまわないか。……なんて妄想を繰り広げていたら、職場近くの曲がり角まで差し掛かった。


「おはよー」


ゴスッと、曲がり角でぶつかって来たのは谷やんだった。
おれの思ってた曲がり角でパン咥えたままぶつかるのとは違って、うしろから原チャリで轢かれたのだが。警察のひとこの人取り締まってください。


「イヤホン付けてると原チャリの音聞こえないのかよ」


いや多分考え込み過ぎて周りの音が聞こえてなかっただけというか、それでも原チャリなんてもん乗ったままぶつかってくるなよ。一種の人身事故なんだけど警察まだかな。ぶつかってきたタイヤを蹴りながらおはようと挨拶を返す。


「あ、そうだ」


はあと白い息を吐き出しながら原チャリをとめる谷やんを待っていたら、そんなおれを見て頬を緩める谷やんがポッケから封筒を取りだした。


「……え、なに俺に?」

「当たり前だろこの流れで」

「ラブレターとかはじめて」

「ラブレターではないんだけど貰うの初めてとかどんだけモテないの」


は?

キレ気味に返すとモテてただろう顔で余裕そうに笑みを返されるから、無視して封筒を開ける。

あ これは、おれの観たかった映画のチケット…。


「クリスマスプレゼント」

「えー…えー、わ、嬉しい……!」


両手に掴まれたチケットを掲げて、目を大きく開く。
この歳になってクリスマスなんてあまり期待していなかったけど、こうして何か貰うとイベントなんだなあと実感する。嬉しさで緩む口元を隠しながらチケットの面を読んでいたら、ぐしゃりと頭を撫でられて「西野は子供みたいに喜ぶねえ」なんて言われた。


「2枚あるよ、一緒に行く?」

「西野の行きたいひと誘いな」

「谷やん行こうよ」


すぐにそう返したおれにびっくりしたらしく、目を見開いてからすぐに破顔した。


「いいよ」


そういえば、職場の人と遊ぶという感覚がなかったおれは叔父の店で働きはじめてから変わったのかもしれない。
働きはじめこそ、ほぼ私語はせずに黙々と働いていたけど最近はゆるいアットホームな職場に毒されている気がする。じゃなきゃ、先に働いているいわゆる先輩を映画になんか誘えやしないだろう。

ちょっと、しくったかな、やっぱり先輩は先輩だから出過ぎた真似をしてしまったかな。

ぐるぐる回る不安と後悔に口数が減った。


「チケット俺だから、ポップコーン買うの西野な」


あたたかい店に裏口からはいると、谷やんにそう言われてパッと顔を上げる。


「もちろん」

「よしよし、飲み物はコーラな」

「仕方ないなエルサイズね」

「ちょっとそれはデカイ」


くすくすと笑い声の響くキッチンで、谷やんの優しさに触れた日だった。





(は、西野さん谷崎さんと映画行くんですか)
(和也も行きたいの?)
(……課金したばっかり)
(じゃあ和也のは俺が奢るよ、クリスマスプレゼントとして)
(は?……好き過ぎる)
(現金だなてめえ)



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