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午前の診察が終わると、午後の診察まで二時間ほど時間ができる。
その間に予約の患者さんのカルテを確認したり、小さい病棟をまわったりするわけだが今日は土曜日。息子が休みだからお昼をいつものカフェで食べる約束をしている。
羽織っていた白衣を脱いでコートを着るとまわりに頭を下げながら外出の勤務カード押した。


「桐嶋さん、息子さんとお昼ですか?」


おれより少し若い男の看護師に声をかけられて、歩きながらそちらを見る。


「ああ」

「ほんと良いパパですよね、ナース達のなかで桐嶋さん騒がれてました」

「どうせ嫁に逃げられた男だって馬鹿にされてるだろう…」

「え!?ないです、そんな。むしろこんな良い人逃したお嫁さん勿体無いって」


病院の裏出口近くまでついてきた若い看護師はつい最近彼女ができたと騒いでいた気がする。扉を開ける前にすこし立ち止まってお礼を言う。


「ありがとう。君は、相手を大事にするんだよ」


若い看護師は、驚いた後に覚えててくれたんですねと笑って頷いた。




電車でたった一駅となり、むしろ歩いたほうがはやいので早足でそのカフェへむかうと白い息がだんだんと濃さを増す。今日はとくに寒いから息子よりもさきにカフェに着きたいところだが、約束の時間はもう目前。きっと律儀な息子のことだから教えを守り5分前には必ずついているはずだ。もう気持ち、急ぎ足になった瞬間、とんと後ろから肩を叩かれた。

ハッと振り返ると、そこには肩で息する男の子がいて目を見開く。


「西野くん…?」

「ぱ、パパさん…足のリーチが長すぎて…はあ…」


膝に手をついて屈んでいた西野くんは、足を止めたぼくを見上げると嬉しそうに笑った。


「やっと追いつきました」


思わず同じ目線まで屈んで「ごめんね」と謝ると、なんでパパさんが謝るんですかと苦笑される。それもそうか。落ち着いたのか手に持ってる買い物袋を持ち直して歩きだした西野くんの隣を歩けば、なにを話していいのか分からなくてただ白い息を吐き出した。
普段から人と話なんてしない自分には、こういう時に気の利いた言葉なんて思い浮かばない。ただ歩幅を合わせて、同じ方向へと黙々と歩く。西野くんも結構そういうタイプなのか、気にした様子もなく空いた手をポケットに手を突っ込んで寒そうに肩をすぼめている。


「よく、後ろ姿でわかったね」


そしてよく、何も会話がないのに声をかけれたね。と、言わないけど、思った。走った名残りなのか頬の上を赤く染めたままこちらを見上げた西野くんは、マフラーにほぼ顔が埋まったままちょっと笑う。


「見慣れた後ろ姿だったから」


近くに来るまで確信は持てなかったけど。
と付け足されたその発言は、きっとぼくがよく店の前で待ち合わせしている姿を見ているからだろう。
なんだか見慣れたと言われるのは少し照れる。


「ほんとは、声掛けていいか悩んだんですけど」

「悩んだんだ」

「パパさんだって思ったら、つい手が伸びてて」

「ふふ……ありがとう西野くん」


お礼言うところかな、なんて首を傾げながら道なりを歩く西野くんと、ぽつりぽつりテンポの悪い会話を続けて歩く。
道の直線上にみえるおなじみのカフェに小さい影がみえると、あ。と声を発したのはどっちだったのか。多分ぼくも西野くんもで、そんな些細なことで顔を見合わせて笑い合う。


「真宙さーん」


おおきく隣で手を振る西野くんに気づいた小さな影は、一瞬動きを止めてすぐにこちらへ駆け寄ってきた。我が息子ながら可愛いな、と微笑ましくみていたらじぶんの方じゃなくて西野くんのほうへ向かっていくじゃないか。そして足を止めることなく、がばっと抱き着くから驚いて目を見開いた。

息子を持ち上げた西野くんは、至極幸せそうに頬を緩めて大事そうにするから安心して見ていられる。けど、なんでパパの方じゃないんだろうか、そしていつの間にそんなに西野くんに懐いているのか。


「ほら、真宙さんぱぱにお仕事お疲れさまですって」

「……パパお仕事お疲れさまです」


です、は真宙さんはいいんだよ〜と教える西野くん。それに頷く息子も2人揃って可愛すぎて目を細めて眼鏡を指で押し上げる。


「あ、わ、荷物が」

「おっと」


西野くんの指ぎりぎりで支えられていた買い物袋を受け取れば、息子を下ろせないでいる西野くんは目をぱちぱちさせながら俺を見た。


「あ!ありがとうございます…ごめんなさい、おれ非力で」


真宙さんくらい買い物袋持ったまま抱っこできると思ったんだけどな、とぶつくさ口を尖らせながら息子を下ろす。残念そうな息子も、しょんぼりした西野くんも本当に仲がいい。


「買い物袋くらい持ちますよ」

「いやいや!これはおれの仕事のおつかいなんで、駄目です」


そういってお礼を言いながらおれの手から買い物袋を受け取った西野くんは、閃いたように息子に囁いた。もうこっちにまで聞こえる声で、わざとらしく囁いたふりをするものだから苦笑してしまう。
息子にそれを頼まれたり、そういったことをせがまれた事がないので期待はしていないけど……と思いながらも何も言わずに息子を見る。

「……」

眉をハの字に下げながら、ぼくをみる顔は困っていてつい笑う。やっぱり抱っこしてなんて、息子が頼んでくるとは思えない。


「無理しなくて大丈夫だから」

「あの、パパ…」


抱っこして、とははっきり言わずとも、両手をこちらに伸ばす息子は抱き上げられることを待っているじゃないか。
その不安げな瞳と視線がかち合うと、なにも言わないまま反射的にその小さい体を抱き上げる。ふわり、思っていたより軽くて、そうか寝ていないときに持ち上げるとこんなに軽く感じるのかと思った。

「わあ…」と小さく感嘆の悲鳴をあげる息子は、ぼくをみて西野くんをみて 何故かもう一度ぼくをみる。


「パパのほうが高い」

「もー真宙さん抱っこしない!」

「え!?」


濁音がつきそうな息子の声に、肩を揺らして笑ってしまった。





(な、なんで)
(嘘、冗談です、泣かないで)



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