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口三嶋 和也







「三嶋くーん!今日もバイトなの?」



もう帰ろうと外靴に履き替えていると、派手めな女子2人に止められた。

この偏差値高めの高校にはめずらしいタイプのその子たちからは、薄っすら甘い匂いが漂ってくる。綺麗にブローされた髪や整えられた爪が好印象。


「そう、今日もバイト」


えー!なんて声を揃えて言われると、高めの声が更に響く。

まわりがちらちらこっちを見てくるのがわかって、背負っていたリュックを引っ掛け直した。
きらいでもないけど好きでもない。そんな目の前の2人のうちの右の子、確かクラスの奴らが俺に気がある子だと言っていたっけ。羨ましいだとか付き合っちゃえだとか散々冷やかされたから、あまり話してる所を人に見られたくなかった。


「バイト先遠いの?」

「んーまあまあ遠い」

「今度行ってもいいかな!」

「それはダメ」


えー!再び重なるその声にちょっと面白くて笑ってしまう。

しばらくなんで、ケチ、と駄々をこねる女子をあしらって遅刻するからと話を終わらせて駅へと向かう。途中までついて来てた2人はさすがに押し切っては来ないようで、別々のホームへ向かいながら手を振った。すぐに来た電車に予定通り乗れて安心だ。

カタタン…カタタン……
眠くなるような揺れる音を聞きながら、バイトの勤務表を眺める。今日の出勤メンバーにばつ印がついていないのを確かめて、スマホを閉じた。






「おはよ」


店の前でメニューボードをいじってたその人は、おれの挨拶のあとにそう短く返してくれた。
いつも通り短い作業だからとシャツのままなにも羽織ってないその姿は、見てるこちらが寒くなる。
すこし赤くなった鼻先をみながら、コートのポッケに手を突っ込んで仁王立ちで待機してると「……なんだよ」と睨まれて首を振る。


「別になんも、一緒に中入りましょう西野さん」

「ひとりで先行け」


こどもか。なんて、子供じゃない。

そう言いたいけど、子供じゃないと否定することが余計にこの人との年の差を感じるようでやめた。
通りすがりにしゃがんでるその人の頭をポンと叩きながら店へ入ると、後ろから後で覚えてろよーなんて絶対向こうが先に忘れそうなほど遣る瀬無い声が聞こえて笑う。マフラーで顔が隠れてて良かった。

店長やキッチンのほうにも挨拶して、のんびり着替えてタイムカードを押す。
その頃にはもう西野さんがホールに帰ってきていて、ほらすっかり覚えてろよの言葉を忘れている。おれに今日の日替わりメニューを説明しながら、予約のはなしや業務的なことばかり話してどこかへ行ってしまった。あの人は本当に単細胞だと思う。


「あれー和也なんか身長伸びたなあ」


キッチンの谷やんが手を洗ってるおれに手をかざしながらそう言うから、最近行われた身体測定で3センチのびてた話をすると成長期だねえと感心された。
もうすぐ西野さん超えるんですと言いたくて周りを見回すけど、その本人がホールのバーカウンターで他の仕事してるからやっぱりやめた。

にしのさん。

そう、勢いで話しかけたかったけど、あの人はいつも話を切り上げてしまう。仕事中だから仕方ないのかもしれないけど、たまに仕事中でもくだらない話をしてくれるのを知ってしまうともっと話したいなと欲が出てしまう。これが子供なんだろうか、彼の方が性格的に子供だと思うけど業務態度をみているとなぜか凄く大人に感じる。不思議だな。


「和也、これ運んで」

「はい」


4番テーブルな、と谷やんに渡された軽食をトレーに乗せてホールへでる。
どこかの学生なんだろう、冬用のブレザーを着た女の子2人が一瞬声かけてきた子達とかぶって驚いた。よくよく見れば違うのに、ついさっきあんな事があったからだろう。軽い笑みだけうかべて「苺のフレンチトーストです」とそのテーブルに軽食を置くと女の子はちいさく会釈を返してくれた。


「……すっごいイケメンなんだけど!」


鍔を返したうしろで、声を控えて言ってるようだけどお客さん少ないから聞こえてるって。
キッチンに帰る前に片されていない空いたテーブルのグラスを手に取る。


「わかる、ここの人みんな格好いい!」

「え?みんな?」

「さっき来てくれたお兄さんも良かったぁ」

「え〜…うーん、イケメン?ではないけど」


ふはは、西野さんじゃん絶対。

言われてやんのなんて心で思いながらダスターでテーブルを拭き終わると、キッチンに食器を置きに行こうとしてふと足を止める。


「イケメンではないけど、好みの顔だなあ」


顔?声?物腰?なんて色々あげるその子たちに、気がついたら身体が引き寄せられていた。

なにも無いのに戻ってきたおれに、びっくりしてから焦り出すその女の子たちは話が聞こえてしまって怒られるかと思ってるんだろう。その通りだ。一言言わないと収まらない。


「おれの方が良いと思う、あの人はダメ」


ぽかん、としてる片方の子と顔を真っ赤にして頷いてるその子にとっておきの営業スマイルを向けてキッチンへ帰った。






(これが初めてでは無い)
(常習犯の爽やかバイト)



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