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怠惰の二年生2






恋人欲しいとは言ったけど。それをきいて紹介すると言ったのは唯一無二の友人だけど。

なぜか紹介されたのは男だったんだけど。


「なー萩谷、恋人欲しいって思わねー?」


唐突に、友人がそう言ってきて、まあ否定することもなく欲しいねと頷く。反対隣の奴がおれも欲しーと言ったのは、恋人ではなくてゲームのポケット怪獣だったけど、おれも今捕まえたばかりのレアものあげるつもりがないので無視した。ピコピコと奇天烈な音を消音でたてながら2人でポケット怪獣を集めに行っていると、知らない間にいなくなっていた友人が男を連れて帰ってきた。

「萩谷の恋人候補連れてきてあげた」

おれはなにか悪い夢でも見てるんじゃないかとこめかみをグリグリと押し潰して、その痛みに眉をひそめる。


「おれはいつから男色家に……」


片手では野生の怪獣と戦ったまま、話を続ける。


「お前の条件に合うの、あんま居ねえだろ?」


そもそもの条件とはなんだったか……。

じぶんの何となく口にした理想を思い出してみるが、昔過ぎて思い出せないレベルだ。
たぶん映画鑑賞が好きだから邪魔されるのは嫌だとか。LINEは返事を急かされるのは嫌だとか。ただ存在として付き合っているという程が欲しいとか。年頃の男子として、付き合っている人がいることを盾に少し 心に余裕が欲しいと思っただけとかとか。そんな野暮ったいことを言っていた気はするが、あれは本気で欲しい奴のセリフではないことを友人もわかっているだろう。
反対隣の一緒にポケット怪獣つかまえてたやつが、おれの画面も触って進めてくれる。


「ていうか」

「ん?」

「恋人候補って静間かよ」


よく来たね。

なんて、こんな教室の端でゲームしてるような俺らに呼ばれた静間をみた。
つい先日話したことが奇跡的だと思うほど、クラスの中心に居たそいつは少し目を瞬かせるとその整った唇で弧を描く。薄暗い部室ではなく、日差しが差し込む教室でみる静間は顔色も明るくて爽やかさを感じさせる。女子にモテないはずないクラスカースト上位のそいつは、明らかに俺らとはつるまないタイプだというのに友人はいつの間に。


「条件が合う子がいるってきたら、萩谷だった」

「子、っていうか、奴な」


男でした残念でした。

そう言って携帯ゲーム機で怪獣を捕まえる。
げっとだぜ!なんて嬉しそうに喋る画面の中の主人公。おれもそんな風に従者をゲットしたい。

散れ散れ、と手で2人をあおぐと友人はぶーぶーと口を尖らせる。気持ちはありがたいが、さすがに静間だって男を相手にするわけない。
告ってもないのに振られるなんてごめんだ、さきに断らせてもらうぞ。


……と、思ってたのに。


「おれ言わなかったっけ、BL」


あ。

ゲームから視線をあげて、その声の主を唖然と見上げる。


「BLじゃなくて……」


おまえはゲイなんだけど……という単語は周りに人がいる中で言うには気が引けた。

反対隣の奴がBLTじゃないの?とすかさずツッコミしてくるからそうそうベーコンレタストマトなと頷いてから、サンドイッチの話じゃねえよと返す。いや別に漫才したつもりじゃないから、おもんないとか言わないでくれる?こちとらアマチュアなんですよ。え、アマチュアですらない?素人だとわかってるなら尚更聞き流してくれよ。静間はそんなやり取りを表情1つ崩さずに笑みを保ったまま見つめてくるから、自然と語尾も尻すぼみしていき……とりあえず話の軸を戻そうと「で、なんでしたっけ…」と続ける。


「いいじゃん、お互い条件が合うなんてなかなか無いんだから」

「条件?静間の条件ってなんだよ」

「必要以上にベタベタされたくないかな」


それは友達以下なのでは。

未だに捕まえたポケット怪獣に名前をつける画面で止まっているおれは、飲み込めない言葉に追い打ちをかけるように「まあものは試しで」とか押し切られるように握手する。は?は?だれか面白がってないで止めろよ。勝手におれの怪獣に名前つけてんじゃねえよ反対隣。

おれの机にあるノートにつらつらと文字を書きむ。
骨ばって大きいけど白くて綺麗な手、それが書き綴る字は想像したより達筆で おぉと感嘆の声を上げる。

なにこの英数字の並び。暗号かな。


「じゃ、授業はじまるから。ばいびぃ」

「古い……」


かれぴ誕生おめでとう〜なんて面白おかしそうに笑う友人どもは、本当にたまに凄いことをやってのける。普段おとなしいグループのくせに、ふざける行動力だけは働くからやめてほしい。授業のはじまるチャイムでじぶんの席に戻る友人を見送り、手元のノートに綴られた文字に視線を落とす。LINEかなあ。

まあ……冗談なのかもしれないし、本気で捉えるのはやめておこう。

メモ書きのページだけ切り離すと、畳んで数学の教科書に挟んだ。





わーきゃー。楽しそうな声が響く昼休み。

あの、クラスの中心人物から付き合おう宣言をされてから何事もなく1週間がすぎた。
なんの行動もお互いとることなく、なんとなく目が合うと挨拶するような仲には昇進したが。付き合うとかもはや本当に冗談だったんだ思い始めてる。
ひとりで委員会の会議室から帰っていると、お昼ご飯食べ終わった生徒がバスケットコートにたむろっているのがみえた。ここは三階だから、プールサイドのバスケットコートに誰がいるかまでは見えにくい。それでも、なんとなく静間がいるのはわかった。

3人だけボールで楽しそうに遊んでいて、そのうちの1人。

なぜだか目を惹く。たぶん、付き合っているのかと言う疑問がそちらへ向かせている気がする。
冗談だという反面で、どこかその付き合うという言葉がおれの中で滞って洗濯機みたいにくるくる回って乾燥してを繰り返している。そらせないままバスケットコートを眺めていると自然と足も止まっていて、窓枠に手を置いた。


なんちゃってなバスケしてる3人を取り囲む男女。

眩しいほど、青春を謳歌してるようなやつらばかり。


「眩しいな………」


バスケが羨ましいわけじゃない。

人目を気にしないような、その楽しそうな雰囲気がなんだか俺には無縁な気がして。

はあ と重めのため息をついた。





「じゃあなー」


ばいびぃ。

なんて、おれの重たさを吹き飛ばすアホさで
静間の真似した友人を前に呆れた顔をする。最近ずっとその真似してるけど流行らせるの?おれ絶対乗らないから。
漫画研究部と言ういわゆる帰宅部に所属するおれは、チャリには乗るのでチャリ小屋からじぶんのをひっぱりだすと、そのまま一直線に帰路につく。


つもりだったのだが、


校門を出てすぐを右に曲がると、ずっと先に静間が歩いてるじゃないか。

なんと後ろ姿で分かるようになってしまったのが少し恥ずかしいが、どうやらイヤホンをつけて一人で下校らしい。珍しい、あいつ何部だっけ。だいたいの生徒が部活に精を出すなか、帰るやつの姿は浮いてみえる。あと3メートル、あと2メートル、あと1……素通り……は、失礼かな?

自転車をゆるく走らせながら、だんだん近くなる静間の背中にイタズラしたい気持ちを抑えた。

こいつはいつもの友人達とは違うんだ気軽にふざけて「は?」とか返されたら家に帰って寝る前までずっと後悔してしまう。
すれ違う手前でころばない程度に速度を落とすと、ひらっとそいつの前で手を振ってみる。目の前だけを見ていたそいつは、少し驚いたようにして視線をこちらに寄越した。

ば、い、ば、い。

ぱくぱくと声を出さずに、口パクでそう言って手を振ってやる。
イヤホン付けたままのそいつの反応を見るのも気恥ずかしくて、はやく去ろうとペダルを踏み込むと、後ろを急にグッと掴まれた。


「わ!お、……あぶなっ!」

「やっほ萩谷」


キキッ、軋んだブレーキ音を響かせて咄嗟にハンドルにしがみ付いた俺をよそに、イヤホンを外しながらにっこりと笑う静間。
は?とおれの方がが口に出したかは定かじゃないが、勝手に後ろの荷台にまたがりだして「おい!」と言うと「駅までよろしく」だとか。


「捕まったらどうすんだよ」

「いやそこはキョーハンでしょ、てかほんとに乗せてくれるの?」

「乗ってるやつの台詞かよ、いいよ」


いひひ、なんて悪戯っ子みたいに笑うからそんな笑い方もするんだなと思ったり。


「なんか、萩谷この間と雰囲気違うくない?」


この間がよくわからなくて、漕ぎ出した勢いに任せてうーんと適当な返事をする。


「絶対おれのこと嫌いだと思ってた」

「え?なにそれいつの話」


いまも別にそんなに好きではないんだけど。


「部室、初めて話した日」


はじめてだって、お互いに思ってた割にはやけに話しやすかった記憶がある。

仲良くしようという気がさらさら無かったのと、おれの虫の居所が悪かったおかげだろう。


「あとさ、LINE、いつ登録してくれんの」


薄着になったばかりのシャツごしに、あいつがもたれ掛かって来たのがわかる。顎が痛いんだよ、背中に顎を刺して喋んな。


「あの紙の暗号は、やっぱりLINEか」

「それ以外になにが」


いやまあ現代っ子からしたらそうかもしれないがこちとら漫画研究部からすれば暗号の1つや2つ急に投げ渡されるからね。
副部長とか特に脱出ゲーム好きで、たまに音楽室とかに閉じ込められるし。謎解かないと出してもらえないから下校時間とか余裕ですぎることがある。あれはやめてほしい。


「まあとりあえず、気が向いたら登録してよ」


なんて事ないように、怒るでもなく急かすでもなくそう言った静間にはあいと返事をした。

ゆるい坂道に差し掛かるとおれの背中にくっ付けていた頭を持ち上げる静間。それに気づいて少し後ろをみようとして、道路の左が視界に入ると薄紅色がたくさん並んでいた。

この人は桜が好きなんだろうか。



(無事に駅まで送るとお駄賃をくれた)
(人から貰ったらしい、四角いチョコレート)