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口クラスでポッキーの日






「ポッキーゲームしようぜ!」


ぜったい誰か言うと思っていた台詞を、朝一から塩田がいいだして教室が賑わう。

「ポッキーゲーム……?」

大きな瞳を瞬かせた神童は、目の前に掲げられた赤いパッケージによくわからない様子。だがしかし、だがお菓子、神童はお菓子と分かれば首を縦に振る一択に決まっている。
誠也がちょっと楽しそうに隣でそわそわしだしたからそちらを見れば、案の定膝上にカメラが出ていた。


「せーや……」

「誰が王道主人公とキスするのか…生徒会が割り込んでくるのか、他が来るのか……」


今日は一日、王道主人公から離れられないな。

なんておれに向かって喋っているのか独り言なのかわからない瞳で遠くを見つめているから、おれも同じような方向をみつめて神童たちを視界に入れる。たった一つのポッキーの箱であんなにも楽しそうな奴らは幸せそうでなによりだ。


「おいこら!ポッキーゲームだって言ってんだろ姫」


塩田の困った声に、神童がきょとんと首をかしげた。


「え……まさかポッキーゲームを知らない、だと」

「ポッキー食べるだけじゃねえの?」

「違うちがーう!」


こうやってー、と一本咥えた塩田が神童に反対から食べるように指示すると、疑問符を頭の上にたくさん出しながら神童は指示に従う。
こっちからみればすでにキスしてるように見えるそれに、隣からのシャッター音がうるさい。

ちょ、誠也それデジタルカメラだろシャッター音消したほうがいいよ。


「こおぉおるああぁぁぁ!!!」


ポキーーーッ。

ポッキーの悲鳴が教室にこだました。
どこへ行っていたやら沢山の菓子箱を抱えた犬飼が、神童と塩田のあいだに手刀を落としているじゃないか。背後にいる伊神も、塩田から神童を保護すると「あんなゲームは低俗だからダメだ」うんぬん言い聞かせている。


「てめぇ塩田こらぁ、何も知らない生粋の生娘つかまえてこんなゲーム持ちかけて変態か!」

「え待って、男じゃん。男と男のふざけあいじゃん」


そうだね生娘ではねえな。


「ちえ…あ!」


あ。目があった。

肩肘ついて眺めていたおれは、急に賑わっていた中心がこちらに向いたから姿勢を起こす。


「まさやん!まさやんなら生娘じゃないよねー」

「え」

「する?」


するするっと机の間をぬってやって来た塩田は、有無を言わさずにずいっと一本差し出して来るじゃないか。
となりが写真撮りそうで嫌だな、と思って横目でみてみるが急な展開で驚いてそれどころじゃないようだ。え、とおれ以上に固まってる誠也を見てるとなんだか可笑しくて、差し出されてるポッキーをぱくりと咥える。

「わーい」なんて喜ぶ塩田はクラスメイトみんなにまさやんがしてくれるって!なんて自慢しに周りを見るから、早くしないと咥えたままのチョコの部分が溶けそうだ。


「ん!」


はやくしろ!と意思を込めて塩田の袖を引っ張ると、振り向いた塩田が一瞬固まった。かかかっと顔を赤くすると、少しおれから距離をとって自分の口元を隠すようにして喋る。


「待って、まさやんのキス顔照れる」


ポキーーーッ。

またもポッキーの悲鳴が近くでしたと思ったら、おれの咥えていたポッキーが消し飛ばされていた。

い、いつの間に……!?

ジャパニーズニンジャの如く目に見えぬ早業に、一瞬何が起こったか分からなかったけどすぐに塩田の横の殺気で誰かわかった。真顔。真顔で先端の折られたポッキーを片手に持つ伊神が、塩田の頭を鷲掴んでいる。
しぬしぬしぬギブギブギブと許しを請うてる塩田は、素早く走って来た犬飼に新品のポッキーを束で食わされる刑を受けた。美味しいけど口の周りがチョコ塗れだし口渇くだろうと思うと遠慮したい刑だ。

唇についたチョコをぺろりと舐めながら、かばんの中のお茶を取り出そうとしたら伊神がスッと食べかけのポッキーを向けて来た。


あ、おれの食べかけかこれ。


そう思って口を開けた瞬間、すすすっとポッキーを下げられて思わず追いかけてしまってハッとする。餌を追いかける鯉みたいなことしたな。


「ちょ…恥ずかし……」

「あほ、恥ずかしがるとこが違ぇんだよ」


ぱくり。結局、おれの口に入らなかったポッキーは伊神に無残に食べられて「あー、俺がもらったやつなのに」と文句を垂れたら口をもぐもぐさせたまま新しいのを箱ごとくれた。これは犬飼のやつなのでは?と疑問に思ったけど、まあ、机に山積みになるほど買ってきたみたいなので一箱くらいもらっても罪はないだろう。誠也と半分こして食べようと、袋を1つあげるとどこかトリップしていた意識が戻ってきたのか眼鏡を直しながらお礼を言われた。お礼は犬飼に言ってあげてほしい。



(今日のおやつはポッキーを買おう)
(きっと先生も喜ぶ)



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