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こどもの頃の思い出はガラスの小瓶に入った、きらきらしたモノばかり。大事な物は触れられないようにそうやって保管するんだよと、教えてくれたのは君だった。じゃあ君が大事な俺は、君をどうやって保管したらいいんだろう。傷つけないように、触れないように。それは触りたい話したい、傷つけてでもこっちを見てほしいなんて自分の気持ちとはかけ離れたものだから僕は君のそばには居てはいけないってこと?

―――…懐かしい。こどもの頃の夢を見た。
おとこのこと、おんなのこの格好をした、ぼく。ちいさいながらに知ってしまった恋心が、苦く記憶を濁す。今の俺は女みたいな格好をしてなくて、とっくに開き直って男を抱いてる。あの頃は同性が結婚できないなんてことにショックを受けて女になろうとしたけど、それは無駄だったな。


「お、探したぞケイ」

「兄貴」


実家に忘れていた、大事なかばんを受け取る。中身の小瓶が割れてなくて安心した。


「ケイ、ユウちゃんにまだ話しかけてないんだって?」


ユウちゃん。その懐かしい響きに顔を上げる。


「ユウちゃんと話したの?」

「ああ、ユウちゃん。お前の事やっぱり気づいてなかったよ」


はなした時のことを思い出しているのか、可笑しそうに笑う兄貴に顔をしかめる。


「おまえの初恋の人だとは、教えてないから安心して」


握りしめたかばんの紐がぎしりと悲鳴をあげるようだった。

俺の周りのだれもが、ユウちゃんを知っている。それだけで俺の意思が揺らぐ。


“大切なものは触れられないように保管する”


自らも触れてしまわぬよう、中学に上がる頃には地元から少し離れたこの学園に入ったというのに。
いつの間にか同じ園舎で学んでいたなんて、最近知った。成長した姿が変わっていたというのもあるけど、空気やそこらへんに馴染みすぎて全然わかんなかった。ビビッとくるような再会なんてなくて「あれ、なんか見たことある……」そんなこと口に出してしまったくらい。

むしろ、自分を同性愛でも大丈夫だと受け入れてくれた姫のほうがビビッと来たんだ。なのに。


「ユウちゃん……」


初恋とは恐いもので、心の奥底で眠っている。

綺麗なまま残したい記憶を、だれにも触れられないように心に秘める。
けど、姿を見るたびにふと惹きつけられる。いっそ話しかけてしまえばこの引きずるような気持ちは消化されるのかもしれない。
おれたちの関係を生徒会や千鶴たちにバレないように、ユウちゃんが目の前にいても話しかけたりなんかしないけど。

でももしも、もしも、

俺の知ってる奴が1人もいなくて。

ユウちゃんの周りにも誰もいなくて、そんな奇跡みたいな場面で会ってしまったら。





(話しかけても、いいだろうか)



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