小説 のコピー | ナノ
口
どんなに山あり谷ありな小説も、かならずハッピーエンドになる。
平凡受けにはバッドエンドなんてほとんどなくて、たぶんそんなところを好きになった。
雄大が幸せになる終わりを考えて前まで、いろんな奴とくっつけたりする癖があったのが最近はできなくなった。
あまりにリアルだから。
雄大のひとことや、仕草や、そのすべてが。近づきすぎて感情移入しすぎたのかもしれない。
何度もスマホを確認する仕草がきらいだった。
おれと居るのに寂しそうな顔するその顔も、きらいだった。
きらいなんていうと、絶対理由も聞かずにただ傷付く雄大が目に浮かぶようで言えなかった。
「あ、眉クマさん」
クラスのやつが雄大のストラップを構う。
そう、画面拭くやつ。と雄大が軽く拭いてみせると、なんか眉クマさんが可哀想だと言われる。
「だって、せーや。眉クマさん可哀想だって」
俺があげたから、わざとらしく俺に言う雄大。
日誌を書いていた手を止めて雄大の手元の眉クマさんと目をあわせると、綺麗な状態のままで笑みが零れた。
「確かに、可哀想だな」
ほらあ、と言うクラスメイトに口を尖らせる雄大は眉クマさんを親指で撫でる。
なんでもない仕草なのに、自分があげた物に触れるやさしい手つきに嬉しさが込み上げた。
伊神も犬飼も、こういう小さい幸せが積み重なっていることに気づかないんだろう。人からの好意を好意で返せる、すこし利己的でもそれを自覚してより一層ひとにやさしくできる。そんな彼の性格。あたり前のようで、あたり前じゃない。
すこし目を逸らしていると霞んでしまうほどの優しさが、ずっと一緒にいるとたくさん積もって溢れるほど。
おれは少し、手遅れなくらい貰ってしまった。
《明日からまた神童と伊神と犬飼が、朝一緒にいくって》
そんなメールを雄大から貰って、ついに帰って来たかと思った。
覚悟はしてた。伊神も犬飼も、雄大にもどってくるんだろうと予想はしてた。でも改めて帰ってきてしまうと小さな苛立ちが見え隠れする。
なんであんな悲しい顔させたのに、戻って来れるんだ。
こんなの俺がとやかく言うことじゃないのに、近くで見ていたぶんもやもやしてしまう。笑顔の雄大を見ていれば、もう全く気にしていないことがわかるのに。その全く気にしていない雄大にも少し苛立った。
(わがまま)
(滅多に言わないから、きいて)
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