小説 のコピー | ナノ
口
いつから意識しはじめたかなんて覚えてない。
でもこれといって例をあげるなら、顔色でなんとなく思ってること読めるあいつが曇った表情をみせるようになった頃からかもしれない。
「言わなきゃわかんないよ」
悲しいときに上手く隠せない真崎の顔が、素直過ぎて心配になる。
でも顔にでても言葉にはしなかった。何を隠すっていうんだよ。なんて冗談交えて本音は出さないからどうしようにもない。口が裂けても言わなさそうな真崎は、気持ちには素直じゃないなと呆れた。
うまくもない愛想笑い、周りに溶け込む話術。ひとに嫌悪感を与えない配慮。じぶんの意識下でやってることなんだろうけど、それが一線引いてる行為だと真崎は知らない。自然とやってのけるから、きっと気づく人しか気づかないし、気づいてもまあいいかと思う程度なんだろう。
他の人からみて普通のことでも、俺から見るとひどく気に障った。
友達として受け止めてあげられると思う。
そんなただ頼ってくれたらいいのに、みたいな気持ちはずっと昔からあった。
でも俺の知らないところで少し立ち直った真崎をみたら、そんな気持ちが変わった。
……だれに弱音を吐いたんだろう。どうでも良い疑問が浮かぶとほかにも気泡のように沸々沸き上がってくる。そんなときに、
「寂しかった」
です、なんて。絶対言わないと思っていたことば。
敬語交じりに吐き出すと、恥ずかしさが襲ってきたのか他のことまでまくし立てるように喋りだす真崎。それを愛しいと思ってしまった。
泣いた真崎をみて、泥のように滞っていた気持ちの原因がやっとわかって。今まで悩んでただろう真崎が誰かに相談したのかな、と思うのも全てが嫉妬に変わっていた。
俺なら、俺のほうが、
ずっと心配してたんだ、なんて。
真崎の弱音を吐く場所は、俺であってほしい。
ほかの誰かに気を許すことが、こんなに嫌なんて、
「伊神!」
「は?」
「はじゃねえよ、アイス買ってきたんだろうな」
コンビニの袋を投げ渡すと、しっかり受け止めて冷たいと騒ぐ真崎。
じゃんけんで負けたとはいえパシリにされるなんて滅多にあるもんじゃない、こいつは俺をなめてる。でも。
「半分個できるやつわざと買っただろ、伊神」
仕方ないなあなんて、ふざけた口調で渡されるアイス。眉尻をさげて笑う笑顔。この雰囲気。
(全部が俺のものであればいいのに)
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