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口自販機



ぱしゃり、そんな機械音で目が覚めた。

すがっている自動販売機の冷蔵の轟音を右耳から左耳へながして、俺は目の前の携帯をむけている馬鹿真崎に眉間のしわを増やす。


「ぶ、はっくく、あ?犬飼起きた」


自販機そんなに好きたっだっけ?

ぱしゃりはどうやら携帯のシャッター音らしい。
真崎がこちらに見せてきた携帯の画面には、ちぢこまって自動販売機にすがり寝ている俺の情けない姿が写しだされていた。いやイケメン姿な。
つーか俺はべつに自販機が好きなわけじゃない。寒かったんだ。伊神がカードキーも無しに部屋から追い出すから上着もなくて寒くて仕方なかった。あの鬼畜野郎。真崎が泊りにきたから人生ゲームとかして遊びたかったのに「うるせえ」のひとことで追い出しやがって。
おかげで自販機が好きな奴みたいになってしまったが、微かに温かい自販機は本当に神様からの贈り物だと思った。

ずず、鼻をすすると真崎がこちらをみて、携帯を閉じる。

ぽけっとからお財布をだすと、五百円玉を入れてなにか迷わずにボタンを押す。
がこん、出てきた缶をのんびり取りだして「あっつ」と言うからホットを買ったんだろう。


「はい」

「……おしるこ苦手」

「わがまま。じゃーどれが良いんだよ」

「初めから聞けよ、ホットレモン」


おつり口から小銭を出して、十円高いじゃんとか文句を言いながら点灯したボタンをもう一度押す。
こんどはペットボトルだから熱くなかったみたいで、取りだすと俺に投げるようにくれた。あったか。おしるこは真崎に返そうとしたけど、熱いから持ちたくないらしく持っといてと言われたのでありがたく持っておくことにする。あったけー。


「ありがと真崎ー」

「ん、どーいたしましてー。早く帰ろう」

「伊神殴りに帰る」

「人生ゲームは?」

「あ、する」

「じゃあ帰ったらしようぜ」


場所わかんないから準備よろしく、と笑ってる真崎は鼻が真っ赤だった。

よく見たら上着も羽織ってなくて、薄いパーカーだけで俺と似たような格好で。寒くないのかなんて愚問、寒いだろう。寒くないなんて言ったらお前は白クマさんかと疑う。
そういえば俺は部屋から追い出されて勝手に放浪して、遠くのこの休憩所に来ているのによく見つけたよな。エスパー?いや、そんなに探したのか。

じっと目の前を歩く黒髪を眺め、真崎が手を突っ込んでいるポケットにホットレモンをねじ込んだ。


「うわっ、びっくりした!え、要らないのかよ」

「優しい犬飼さんが暖を分けてやるんだよ」

「えー買ったの俺だし」


怪訝そうな顔をした後、ホットレモンごとぽっけから手を出して両手に持ち直す真崎。
ラベルをみて何読んでんだか、と思いきや「ありがと、」と呟くように言うから、別に真崎が言う台詞じゃないけどなーなんて思いながらどういたしましてと返す。
ちょっとだけシンとした空気が流れたから、何か言いだそうかと真崎をみて言葉に詰まる。ものすごく嬉しそうに笑いながら、ホットレモンを両手で転がしている。
ああ、この笑顔めちゃくちゃ好き。

こんなことなら俺がジュース買ってやれば良かった。

奢らせた後悔半分、自分で買ったものを人から分け与えられても心底喜べる真崎が、純粋に可愛いと思う。
つられてにやける口元を隠しもせず、真崎の肩をガシリ抱き寄せて「帰ったら俺の隠しお菓子やるからなー!」と大声で言った。迷惑そうに、どこかくすぐったそうに笑う真崎、俺の伊神への怒りなんてもうこれっぽっちも残ってなかった。




(ただいまんもす)
(犬飼古ぃ。ただいまんとひひ伊神ずっと玄関居たの?)
(真崎も大概古ぃよ。さっきから居た、おかえり)



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