小説 のコピー | ナノ
口
もしも、恋人ができたらこんな感じかな。
なんて柄にもなく思ってしまったのは、年下のくせに甘やかしてくる後輩に居心地の良さを感じたからだ。
「もー蜂谷先輩飲み終わったらパック潰してくださいよ」
「今しようと思ってました〜」
絶対うそ。なんてけらけら笑いつつ、俺のストローくわえたままのパックを取り上げる。
噛んでいた噛み跡だらけのストローが痛々しい。帰りに一緒に俺のぶんも捨ててくれるらしいのでありがたく捨ててもらうことにする。一気に寂しくなった口に、お昼に親衛隊の子にもらったのど飴を入れるとハチミツレモンが思いの外酸っぱくて。真崎に残りはぜんぶあげた。
「先輩、髪つぎいつ染めるんですか?」
ソファーに寝転がってる俺の髪を見つめる。確かに、プリンもプリン。
「もういっそこのまま黒に戻るかなぁ」
「ふーん。先輩なんでも似合いそう」
「ふーん」
真崎の返事を真似して冷静を装う。
別にクールぶらなくても、いつもなら「そぉ?ありがとう君も可愛いよ」くらい口が回るものなのだが…。真崎には口ばかりの褒め言葉は必要ない。親衛隊でもなんでもないし、だからと言って仲間達みたいに貶してコミュニケーション取るわけでもない。必要以上の言葉をだすと、取り繕うみたいになってしまうのが嫌なので自然と沈黙が生まれる。
この沈黙の時間も、嫌いではない。
お互い気ぃ使いどころが似ているのか、真崎も沈黙は苦手ではないのだろう。
俺が前に読んでいた資料をぱらぱらとめくり、静かに資料室の空気を流していく。俺はそれを聴きながら目を閉じた。
しばらくして微睡んできた頃、真崎が立ち上がる気配がして意識を取り戻す。あ、寝かけてた。口の中の飴玉がカラリ 音を立てる。
「起きてます?」
問いかけられると悪戯心が芽生えてしまって、寝たふりをした。
これで出て行ってしまう可能性もある。真崎は親衛隊とかと違って、別に俺といる時間を特別だとか思っちゃいない。勝手に出ていくし、名残惜しいとさえ思わないんだろう。それは少し、寂しいな。
そんなことを考えていたら、ぱさり毛布を掛けられた。
「おいこら寝たふり」
ソファーの俺が寝転んでるところに無理矢理空きを作って座る真崎は、毛布の上から俺の腹を優しく叩く。
なんだバレてたのか、なんて目を開けると仕方ないって顔で笑う真崎が「飴玉出して寝ないと危ないですよ」とじぶんの頬を指差す。
その仕草が可愛くて、その手を引っ張る。
「わ!ちょ、先輩…」
「寒いなあ〜あっためて?」
俺はカイロじゃありません。
引っ張った身体をぎゅっと抱きしめると、諦めたように俺の上でじぶんの楽な体勢を探して良いところで脱力した。適度な重さが上半身に乗っかって安心する。
「飴だして」この状況で、それ言う?
「じゃあ取って」
「指突っ込みますよ」
「ん」
「しないから」
なんだ。本当にしたら指でも舐めてその気にしてやろうかと思ったのに。
俺の首元で呆れたように溜息をつく真崎には、手なんかだせないけど。
(甘えたな先輩)(可愛がる後輩)
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