「ミミロル、れいとうビーム!
飛び跳ねてフィニッシュよ!!」
「ミミロ〜〜!!」



ヒカリが支持を出し頭上に向かって人差し指を立てたアクション後、ステージ上に巨大な氷のクローバーが姿を現した。
その上にミミロルは得意のとびはねるで軽々と頂上に達し、可愛くポーズを決めてみせた。

「ミッ☆」

「うおーー!!何と美しい氷の結晶!!
ヒカリ選手とミミロル、息の合ったパフォーマンスでした!!」

「ヨツノハだけにクローバー…好きですねー」
「ミミロルのジャンプ力が生かされた演技、見事でした」
「ミミロルらしさのある可愛らしい素敵な演技でしたね!
見ていてとても楽しめました!」

「審査員席からの高評価、こちらも得点が期待できそうですね!」

再度客席に頭を下げ、拍手を受けてヒカリはその場を後にした。

(やっぱりノゾミの言ってた通り、「主役はポケモン!」よね)

良きコンテストライバルであるノゾミに感謝しつつ、ヒカリは赤いカーテンが閉まるのを確認してから肩の力を抜いた。

(だ、ダメダメ。ここで気を抜いちゃ!)

先程抜いた気を再び締め直し、ヒカリはまた緊張を取り戻す。

「私にとって…みんなにとって、まだまだ安心出来る状況じゃない」




(第3話 VSカクレオン)



早く控室に戻ろうと足を進めた瞬間、ヒカリの目に見知った人物の姿が映った。
あの長身長髪に肩から下がったマント、間違いない。

「~ッナオシさん!」
「…おや、ヒカリさんじゃないですか!」

振り返り笑顔を作った青年はナオシ。
ヒカリ同様コーディネーターでもあり、サトシと同じくシンオウリーグを目指す吟遊詩人だ。

「ナオシさんも参加されてたんですね!気付かなかったなぁ。
ヨツノハにはいつ来られたんですか?」
「確か…一週間くらい前だったかと…」
「へぇ…大分余裕をもって来られたんですね」
「それがそうでもないんですよ」
「??」

意味が分からないと言いたげな顔をしたヒカリにナオシは苦笑し、横手に持っていたハープを正面に持ち直して見せた。

「実は最近ハープの手入れが行き届かず、弦の音が乱れていたのです。
それで、今日のコンテストの為に急いでこちらの楽器屋へ修理に出しまして…。
私としては、コンテストまでに修理が間に合うかハラハラドキドキだったのです」
「ナオシさんでもそういう事あるんですね…
私はよくモンスターボールの手入れが出来なくてタケシに注意されたりするんですよ!」
「あはは、そうですか…!
ヒカリさんはもうパフォーマンスステージを終了されたのですか?」
「はい!たった今」
「そうですか…見られなかったのが残念です。
でも、そのお顔を拝見するからに…自信がおありの様子。
良いステージだったのでしょう?」
「そうですね…。ミミロルの良い所は全部出し切れたと思います!
ナオシさんはこれからですか?」
「はい、そろそろ呼ばれる頃だと思います。
…所でヒカリさん、少しお聞きたい事があるのですが」
「へ…何ですか?」

ヒカリが首を傾げると、ナオシは急に歯切れ悪く話し始めた。

「その、ですね…私の…思い違いかと、思うのですが…」
「??」
「何だかこの会場…嫌な感じがしませんか?」
「え…」

ナオシの言葉の意味に動揺し、ヒカリは肩を思わず上下させて驚いた。

(アタシのバカ!何でこんな分かりやすいリアクション!!?)

こんな動揺の仕草を見せれば嫌でもヒカリはその状況を理解していると言いざるを得ない。何とか言い訳を考えようと思った瞬間、ヒカリよりも先にナオシの口が開いた。

「い、いえ!決してそんな!
アルベリック家のコンテストを批判する訳ではないんです!
ただ、何となく…そんな感じがしたものでつい…
ハープの音色が悪いのをコンテストのせいにするなんてバカな事を。
皆さんはこのコンテストに参加される事を非常に光栄に思っているのに…
私ときたら…嫌な思いをさせてしまってすみません」

「い、いえそんな!!気にしないで下さい」

どうやらナオシは、ヒカリの反応はコンテストを中傷された怒りからくる物だと受け取った様だ。
ヒカリとしては非常に有難い勘違いである。
だが少し、ヒカリの心に疑問が浮き上がる。

…今、ナオシさんは何て言った?

「ナオシさん、ハープの調子…悪いんですか?」
「え?ええ」
「でもさっき、修理したって言われてましたよね?」
「そう、それが不思議なんです…
このハープは元々このヨツノハタウンの楽器屋で購入したもので、この土地で奏でるメロディが一番軽やかで綺麗な音色なんです。
なのに、この会場に入ってハープの調整をしようと控室から出て
バルコニーで練習をしようと弦を弾いたら…
急に音色が重くなってしまったんです」

試(ためし)にポロンとナオシが弦を弾く。
ヒカリが聞いてもよく分からない音色であるが、ナオシのガッカリとした表情を見ればやはり音色は悪いという事が分かる。

「最高のコンディションでパフォーマンス出来ないのが残念です」
「・・・・・・」

(いつもなら…ナオシさんも頑張って下さいねって、そう言えるのに…)

今のナオシの表情を見ると実に言い辛い。

掛ける言葉が見つからず、ヒカリはしばらく棒の用に立ちつくした。
数秒経ち、選手呼び出しのアナウンスが鳴る。

「私の番の様です。では、」

ナオシはマントをはためかせ、そのままヒカリの前から姿を消した。

「これって…何か関係、あるのかな」

誰もいない廊下でヒカリは一人、か細い声で呟いた。


◇◇◇


「はい、図書室でしたら左手にある通路の突き当りにございますが…宜しいのですか?
コンテストはまもなく中盤になって大変盛り上がると思うのですが…」
「はい、僕が見たかったコーディネーターのパフォーマンスは終わったので。
それに…コンテストは好きなんですが、人が多い所は少し苦手で…」

少し気恥ずかしそうにシゲルがそう話すと、インフォメーションの女性はそうですかと疑いなく微笑んだ。

「もし借りたい本がありましたらこちらまでお持ちください。
図書カードの発行や貸し出しの手続きをさせて頂きますので」

「はい、ありがとうございます」

さすが僕!!素晴らしい演技力だ、などと内心思いながら軽く会釈してシゲルは案内された図書室を目指した。

何故シゲルが図書室に向かおうとしているのか。
理由は昨日の夜、4人で話し合った作戦会議にさかのぼる。

◇◇◇


「え?本当にそれだけかい?」
「ええ、丁寧に案内はしてくれたけど…」
「確かエントランスから衣装室と待合室…あとはそのままコンテスト会場の広間に案内されたなぁ」

(外観からしてもかなり大きい建物だったのに…他に部屋はないんだろうか)

「え?そんな所通ったっけ?オレよく覚えてないや。
あ、そういえばあの後時計塔に行ったよなぁ!」

若干話が反れるサトシにヒカリはため息を吐く。

「もー!あんなに色々案内してもらったのに、サトシったら!」
「まぁまぁ、サトシはあの時それ所じゃなかったから覚えてないんだろうな」

ボルダンさんの一件を聞くまでサトシの心ここにあらずの状態だったので無理はないだろう。
意味が分からず不思議そうにサトシを見るシゲルに気付いたタケシはそこで話を切った。
何とか話を元に戻そうとタケシはヒカリに目配せをする。
ボルダンの事は出来るだけ内密にしておきたいのだ。

(ヒカリ、頼む!)

「…そ、そっか!あれだけ大きな建物なんだから他にも部屋がありそうよね?
そ、そういう事よね!?シゲル!!」

シゲルの先程の疑問点に気付いたヒカリは若干慌て気味に話を始める。
その点は的を得たようで、シゲルは頷く。

「ああ。それで、ジラルダンさんの話を聞いて思ったんだけど、あの建物には恐らく展示物か文献を置けるような図書室…もしくは資料室があるんじゃないかと思うんだ」

「どうして?」

「僕が研究者を目指してるって祭りの時に言ったろ?
そしたらジラルダンさんは文献の話を持ち出して話が弾んだんだけど…。
それがちょっと引っかかってね」

「え…でも、その話だけじゃ根拠がないような気がするんだけど」

「ああ、それは思いついたきっかけで、本題はここから。
僕は外部の警備を任されていたからこの町に着いて色々調べていたんだけど、最近この町に唯一あった古い図書館が閉館になったらしいんだ。
で、それと同時期に建てられたのがこのコンテスト会場らしい」

「なるほど…!情報を収める場所が町に一つもなくなると言うのはおかしい。
となると、新しく建て替えるか大きな建物と合併するかを考えるな。
で、それが可能な大きな建物…しかも図書館と入れ替わりに建った新しい施設と言えば…!」

タケシの読みがシゲルの言い分と繋がり、顔を合わせてシゲルは頷く。

「そう、それが可能なのはこのコンテスト会場だけだと思うんだ」

「あー、うん。なるほどな、ふんふん」

「サトシ…話分かってるの?」
「え!?ま、まぁ要するに怪しい部屋なんだろ!?」
「間違ってはないけど…」
「チャ~、ピカピ…」ヒカリと相棒のピカチュウに疑いの眼差しで見られ、サトシは視線を上下左右に忙しく動かした。
明らかに動揺しているサトシに一同は苦笑した。

「僕は内部警備班じゃないから、中での行動は出来ないけど。
今回の誘拐事件だけ予告状が届けられた、というのがどうも気になるんだ。
もしかしたら犯人の動機はこのヨツノハタウンに関係しているのかもしれない。
だから、その手がかりがその図書室にあるかもしれない…」

「なぁ、オレ達でその部屋調べた方がいいか?」

「いや、出来るだけ君たちはヒカリと一緒に同伴していた方がいいだろう。
何が起こるか分からないし…。
まぁ、悪魔でこれは僕の感だからあまり気にしないでくれ。
一応警察の人や研究員達には知らせておくから」

◇◇◇

「―…まさかその内部警備班が立ち入り禁止になって自ら当日になって調べられるとは夢にも思わなかったな」

突き当りのドアには確かに図書室の文字。
ゆっくり扉を開けると、しんと静まった広い室内に本棚がずらりと並んでいた。
こんな状況で不謹慎だなと思いながらも今度じっくり読んでみたいなぁ、とシゲルは興味を抱いた。

「自分で言っておいてアレだけど…犯人の動機って一体何なんだろう。
ここに来れば何か思いつくかもしれないと思ったけど…」

(いや、焦っちゃダメだ)

ここならきっと落ち着いて考えられるはずだとシゲルは目を閉じた。

(そもそも、犯人は何故誘拐事件何て事をしたんだ?
最初はポケモンだけだったのにコーディネーターまで一緒に誘拐して…
更には予告状を警察にわざわざ出したのは何故なんだ。
やっぱりこの町には特別な何かがあるんじゃ…)

「特別…そう言えば確か文献にヨツノハの由来が書いてあったな。
確か町の形がクローバーの形で…」

(あ、そういえばあの後時計塔に行ったよなぁ!)

昨日のサトシの言葉を思い出す。

「そうだ、確か時計塔は古くから経っていて町全体が見渡せて…そこにはミュウの石像が…ミュウ…!!!?」

何かに弾かれたように直感が騒ぎ出す。

「そうだ、ヨツノハで一番特別な事と言ったら…!!!」

文化、歴史の本棚のコーナーに走る。

「確か…ミュウがヨツノハタウンを救った伝説が文献に…ここに着く前に一度博士の研究所で読んだ事が…あった!この本だ!」

慌てて取り出した為、両隣にあった本が落下したが構わずシゲルはその本の目次欄を急いで目で追う。

「やっぱり…犯人の目的はこれだったのか…!?」

だとすれば恐らく誘拐されたポケモンやコーディネーターは無事だろう。
だが、このヨツノハタウン自体にとてつもない危険が迫っている事になる。

「早く知らせないと…」
「誰に?」
「勿論ナナカマド…!!!?」
「ほう、キミはもしや研究員ですか?
その若さで立派ですねぇ」
「・・・・」

聞き覚えのある声に一瞬安堵したが、背中から伝わる空気に恐怖を感じて硬直する。
意を決して振り返ると、そこにはやはり見知った顔の人物が立っていた。

「否定しないという事はやはりそういう事ですか」
「何で…あなたがここに?」
「それはこちらが聞きたいです。
会場から一人抜け出しているお客様がいると言われて来てみれば…
はぁ…キミも私の邪魔をするんですか」

(…も?)

「仕方ない、キミには少し大人しくしていて頂きます」

目の前の人物がモンスターボールに手を掛けた瞬間、シゲルも手持ちのポケモンに手を伸ばしたが直ぐさまボールが全て弾かれた。

「なっ、カクレオン!?」

「ええ、実は最初から景色に同化させていました。
このモンスターボールの中は空です」

くすくすと笑う人物にシゲルはキッと睨みつけた。

「ではこちらもお返ししましょう、カクレオン【にらみつける】」

「!!!くっ、(とにかく外へ!)」
「行かせませんよ、あなたは知りすぎてしまった。
これ以上計画を無茶苦茶にされては困ります!!
カクレオン、【サイコキネシス!】」
「カックレーー!!!」
「ぐっ!!!体が…くそっ!!」

シゲルの体が浮遊し、目の前の人物が手元のスイッチを押すとシゲルの足元に丸い筒状の穴が開いた。

「しばらくあなたには地下で大人しくして頂きます。
決して私の邪魔をしないように!!」

サイコキネシスの力を失い、浮遊したシゲルの体はそのまま重力に従って筒状の地下、深い暗闇に落下し、【ダン】と鈍い音が響いた。
背中に痛みを感じながら、シゲルは暗闇の中手探りでポケギアを探す。

「〜っあった!…くっ、壊れてる…こっちもダメか…」

落下した衝撃のせいでポケギアの電源が入らず、頼りにしていたサトシ達との通信機器も壊れてしまっていた。

「…気を付けろ、サトシ、ヒカリ、タケシ!犯人は…っ」

シゲルは悔しげに拳を握り、光を失った天井を見上げて呟いた。






「犯人は・・・ジラルダンさんだ・・」



TO BE CONTINUED...





あとがき。。。
半年くらいして一話更新って…わぁお(滝汗)
タイトルが何故かポケスペ風(タイトルが思いつかず)
はい、ここからお話が色々楽しくなる予定です(え)
ネタバレになるのであまり深く言えませんが…
私はボルダンさんが好きです。←(何言い出すんだオイ)
だから決して悪い人ではないです(ヤバイしゃべりすぎだ(汗))
とりあえずシゲルは犯人の目的には気づきましたが…可愛いそうな事になってしまいました。
でも活躍しますのでご安心をww
次回はサトシ達の視点で話が進みます。
あと、今回登場したナオシさんとも絡みます。
皆様お気づきでしょうが、前回の冒頭で登場したハープの青年はナオシさんです(一応説明)
ダイスケもこれからガンガン絡む予定です。
ではでは、停滞ぎみですが連載は続きますのでまた第4話でお会い出来ると嬉しいですww
ここまでお読み頂きありがとうございました!!!
追記■若干描き直しました。(6/6)



〜おまけ〜(NG文章)

「早く知らせないと…」
「誰に?」
「勿論ナナカマド…!!!?」
「ほう、キミはもしや研究員ですか?
その若さで立派ですねぇ」
「いえ!僕は研究員ではありません!
普通のポケモントレーナーです!!」
「ですが先ほど君はナナカマドと…」
「いいえ聞き違いです、ナナカマスタードです」
「ナナカ…ます??」
「はい!この新発売のナナカマスタードの事を思い出して早く友達にその美味しい味を知らせようと!!!はい!!!」
「・・・・」
「・・・・」
「キミにはここよりもホットドックなどがある出店がある場所がふさわしい様ですね」
「…そうですね、失礼します(泣)」

。。。なんじゃこりゃ(爆)
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