「ご主人、私のハープの調子はどうですか?」
「おおっ、あんたか。何とか間に合ったよ!!ほれ、この通り」
楽器屋の主人が指を絡ませてハープの弦を奏でた。
「ありがとうございます、音の調子が悪かった事には前々から気づいていたのですが、
修理はどうしてもこちらのお店でしたかったもので…。
早急に直して欲しいだなんて…ご無理を言ってすみませんでした」
「いいって事よ!!お客様の要望に応えるってのは当たり前の事だ!!
あんたは常連さんだしな。
それに、そのハープはウチのひぃじーさんが作ったこだわりの一品だ…。
愛用してくれる何て…こんなに嬉しいこたぁねえよ!!!」
大げさに泣きまねをする主人に青年は微笑む。
「そう言って下さるとありがたい…これでコンテストに間に合います」
「まさかこの町でコンテストが開かれるなんてなぁ…ま、
わいはポケモンコンテストっつーもんがあんまり良く分からんがな!!」
がっはっは、と大口を開けて笑いながら主人は青年にハープを手渡した。
「では、私はこれで。そろそろ開場の時間なので…」
「おう!!!わいも時間があれば見に行くからな、がんばれよぅ!!!!!!」
一礼をして青年が立ち去った後、主人は店の窓に手をかけて時計塔を見上げた。
「おや?あんた、どうしたんだい。そんな真面目そうな顔して!
そんなブサイク顔じゃあ全然似合いやしないよ!!」
店の奥から出てきた夫人に主人はかっと顔を赤くした。
「ブサイクは余計でい!!うっさいのぉ!!ちょいと…考え事だ」
「考え事?あんたが」
「んー…何かのぉ、、、やな予感がしてな」
「何だいそりゃ…」
「あの若造から今日のコンテストに間に合うようハープの修理を依頼された時からずっと変な胸騒ぎがしてな…」
歯切れ悪く主人は顔をしかめた。
「何も起きなきゃいいんだが…」
第3章 ポケモンコンテスト、開幕
(第1話 無茶はするな)
「そ、それって一体どういう事なんですか!?」
「驚きたいのはこっちの方なんだよ、会場に行った警察官も研究員もみんな追い返されて…
何が何やら!!!
これからの対応についてはナナカマド博士がしてくれる予定なんだけど…とりあえず電源は付けたまますぐ対応できるようにしておいて、もうしばらく待機して待っててくれ!」
電話が一端切れてパソコンの画面がザザーッと砂嵐のようになった。
何も映っていない画面を目の前にシゲルはくそっ、と難しそうな顔をして髪を無造作にかきあげた。
ヒカリやタケシもシゲル同様表情が硬い。
ただ一人、話から取り残されてるのは多分オレだけだ。
この状況がただ事ではないことくらいオレだって雰囲気で分かる。
でも、本当に何が起こってるのか分からない。
分かる事といえば、早朝からシゲルのポケギアに連絡が入ったことだ。
その後慌ててパソコンの電源を付けたシゲルのそばにオレ達は訳も分からず集まって。
パソコンの画面の向こうには、タケシと同じ年くらいの白衣の男の人がいて…。
とにかく、お手上げだ。
少し気まずいが、一番近くにいるタケシに小声で話かける。
「タケシ、オレ…話がよく分からないんだけど…、」
「ん?あぁ…要するにな、えっと…。
昨日シゲルが言ってた話はだいたい理解してるんだよな?」
「うん、それは何とか」
「よし、それなら簡単に説明するぞ?
昨日の時点では、コンテストに参加するコーディネターや観客達の身を守るために警察官が多数、それにナナカマド博士が派遣した研究員が数名、コンテスト会場に入って警備が出来るように段取りされてたんだ。
その計画が突然、全部破棄されたんだ」
「はき??」
「つまり中止だ。警察、研究員の入場は一切受け付けないそうだ。
コンテストは予定通り開かれる、誘拐犯にとっては嬉しい知らせだな」
「なっ!!!…それってどういう事だよ!!何でそんな…
〜っ、そもそも、コンテストの主催者はボルダンさんなんだからそんな事出来るはずないだろ!?」
「そのボルダンさんが決めたらしい。
主催者の言葉は絶対だ、恐らく変更はないだろう。
あの人の事だから、もしかしたら何か考えがあるのかもしれないが…
それにしてもリスクが大きすぎる。
警察側も研究者側もかなり焦っている。
一度予定が崩されると新しい作戦の立て直しには時間がかかるはずだ…
これじゃ本当に犯人にとって最高のコンディションだ」
「そんな…ボルダンさん、」
ようやく話を理解した、その時だった。
砂嵐の画面から再び映像が切り替わった。
「よぉシゲル、元気にしとるか?…ん?おおっ!!サトシ達も一緒にいたのか!!!
これは何かの縁なのかもしれんのぉ!」
「「「オーキド博士!?」」」
「川柳…ちが、オーキド博士!!!こんにちは!!
あれ…ナナカマド博士は??」
「ナナカマド博士はまだ警察と新たな作戦を思案中で時間がかかるそうじゃ。
こほん、そこでじゃ。少しワシに考えがあってな」
「考え??」
「のぉシゲル、お前さん…これからどうするつもりじゃ?」
「どうするって…今はナナカマド博士からの指示を受けない限り動けないですよ。
さっき待機しろって言われたばかりですし。
とりあえず当初から予定していた外の警備をしながら、待ちます」
「ふーむ、つまらんのぉ…。シゲル、お前はナナカマド博士からの指示がないと何一つ行動出来んのか?」
「博士、ケンカ売ってるんですか?
【行動出来ない】んじゃなくてこれは【待機】なんです」
あー…シゲル怒ってる。
普段冷静で大人っぽいけどオーキド博士相手だとたまにこうなるよな。
「シゲル、ワシがさっき言った事を忘れたか?
《ナナカマド博士は警察と新たな作戦を思案中でまだまだ時間がかかるそうじゃ》と。
ワシの推測だが、恐らくコンテストの開始時間までに作を練る事は不可能、間に合わんじゃろう。
しかも新たな作を警察、研究員のみなに伝える時間のロス、大きいじゃろう。
シミュレーションなしの一発勝負、短時間で練られた作をみなで連携するのは難しくないか?」
「・・・・・・」
「よいかシゲル、先陣を切って会場に行った警察や研究員は
みな身分を明かして責任者にかけあっている。
当然顔が割れて会場に入場する事すら出来ないじゃろう。
じゃが、研究員と名乗らない限りお前はただの子供だ。
コンテストを見に来た、ただの一般客じゃ。
コンテストに参加するヒカリ達と一緒なら更に簡単に、な?」
「は、はは…。考えって…そういう事、ですか」
「ま、お前さんがどうしても外の警備がしたいって言うなら仕方ないのぅ。
外から指を加えてただ見ておるだけにしかワシには見えんが「この一件が落ち着いたらまず真っ先にマサラに帰ってあなたを殴ります」…おーおー、怖いのぉ」
シゲルの拳が揺れてポキポキと何かの鳴る音が聞こえた。
「サトシ、ヒカリ、タケシ、無茶はするでないぞ。
ただ、油断はするな。心して行け」
「「「はい!!」」」
「ワシからは以上じゃ、健闘を祈る」
プツンと電話が切れた。
だけど、今度は砂嵐にはならなかった。
「シゲル、パソコンはいいのか?」
パソコンの電源を切るシゲルを見てタケシが少し呆れたような顔をして笑った。
「ああ、ナナカマド博士から何かあれば最悪ポケギアで対応出来るし、
キミ達と行動した方がよっぽど時間が有効活用できそうだ。
それに…、たまにはお前も無茶しろって言われたんでね」
今はもう閉じられているパソコンを見ながらシゲルは言った。
「オーキド博士、そんな事言ってたか?」
「ん?あー…心の会話ってヤツさ」
「ふーん」
よくわからないけど二人は心の中で会話したらしい。
うーん…オレにも出来るのかな。
「・・・・・・・・・・」
「サトシ、どうした??」
「な、何でもない…」
通じなかったみたいだ。
「よし。そろそろ出発するか、」
ぱんぱん、と軽く手を叩いたタケシの掛け声で、オレ達はポケモンセンターを後にした。
◇◇◇
「う〜。何だかドキドキしてきちゃった…」
「今まで普通にしていられたヒカリに僕は驚いてるよ」
「そう?あ、でも多分それってサトシ達がいてくれたおかげかな!
ポッチャマも傍にいてくれたし」
「ポッチャー!!」
「君達って本当に信頼し合えてるんだね。羨ましいよ」
「ふふっ、やっぱり仲間がいるって心強いと思うの。
あ、シゲルはずっと一人旅だったの?」
「あー…。初めて旅に出た頃は沢山の友達と行動してたんだ。
けど、カントーのリーグで惨敗してからは一人で旅をするようになったんだ。
自分の精神を鍛え直そうって思ってね」
「ふーん…そうなんだ。
私もいつかサトシやタケシに頼らないで一人旅出来るようになるかな」
「ヒカリならきっと出来るさ。
でも、仲間と共に共有できる時間って本当に大切だと思うんだ。
だから今は三人での旅を楽しむといいよ」
「そうね、ありがとう」
先頭を歩く二人を見つめてから隣にいるサトシを横目で見た。
(あー…やっぱり、な)
少し不機嫌そうに二人を見るサトシ。
シゲルと合流してからサトシがやきもちを妬くのはもはや日常茶飯事になっているかもしれない。
シゲルは、自分達に対して勿論話はしてくる。
しかし、昔ながらのクセなのか、どうもシゲルはヒカリ(女性)に対して妙に優しいし気遣いが良い。
それがサトシにはたまらないのだろう。
こんなにあからさまに嫉妬しているのだから、少しはこちらを構ってやってほしいものなのだが。
いや、もう少しすれば会場に着く。
会場に着けばヒカリは更衣する為に一時的に自分達と離れるからその時まで我慢だ。
「サトシ、もう少しの辛抱だ。ガンバレ」
「??何の話だ??」
いきなり話しかけられて頭上に沢山の「?」マークを飛ばすサトシに、オレは再び心の中でエールを送った。
◇◇◇
「フタバタウンのヒカリ様ですね、お待ちしておりました。
付き添いの方は三名様で宜しかったでしょうか?」
「はい、三人で「美しいお姉さん、あなたの愛の付き添い人に自分はいかかでしょうか!?
自分の名前はタケシ、お掃除お洗濯お料理など家事全般何でもこなします…
あなたの為なら自分はっ!!!!ぐはっ…し、しびれび、れ」…」
「ッケ…!!!!」
「凄いなこのグレッグル…自分の意思でモンスターボールから出れるのか?
っというかタケシがどこかに引きずられて行ってるけど放っておいていいのかい!?」
グレッグルの登場に見慣れないシゲルからすれば不思議な事なのだろうが、見慣れた二人からすればいつもの光景なのでさして気にはしない。
「あー…タケシとグレッグルはいつもこうだからさ、あんまり気にしなくていいぜ?」
「そうそう、タケシなら大丈夫!!
あ、すみません。付き添いは三人でお願いします!!」
「かしこまりました。では、こちらをどうぞ」
「これって…バッジですか??」
ヒカリは手渡された4つのバッジの内一つを手に取って見た。
サトシが集めているジムバッチと同じくらいの大きさでクローバー型になっている。
「はい。このバッチをお一人様一個ずつ衣服にお付け下さい。
ただし、私達管理員が確認出来る範囲の分かりやすい場所にお付け下さい」
「なるほど!つまりこれが会場への入場券替わりになっているんですね?」
「タケシ復活はやっ!!!!」
「あっ、はい。会場への入退場に必須になりますので、失くされないようお気を付け下さい」
「はい!!」
「会場までの道のりなど、他に何かご質問はありませんか?」
「えっと…多分大丈夫です」
タケシの顔色を少しうかがいながらヒカリは答えた。
「うん、そうだな。
会場内は一度ジラルダンさんに案内してもらってるから大体は覚えてるし。
問題ないだろう」
「そうですか。では皆さま、右手の通路をお進みになって衣装室で御召し替え下さい。
衣装はご持参された物を着られても構いませんし、こちらで用意された物を着て頂いても構いません。
試着はご自由にどうぞ」
「みな??」
「さま??」
サトシとタケシが交互に言葉を口にした。
「はい、付き添いの方にも開会式の間はドレスコード着用をお願いしております…
同封した用紙に記載されているはずなのですが…」
「ヒカリ…どういう事だ?」
「…ごめん。書いてあったんだけど…サトシ達に言うの、すっかり忘れてた」
◇◇◇
「あー…こんな事なら髪の毛をセットしてきたのになぁ…
そしたら綺麗なお姉さんと親密に…はぁ…」
当初のヒカリの護衛という目的を忘れ、鏡を前に肩を落として落ち込むタケシを見てシゲルはなるほど、と口にした。
「朝からおかしいとは思ってたんだ、サトシはともかくタケシが身なりを気にしてない何て」
「シゲル、それってどういう意味だよ」
初のネクタイ結びに四苦八苦しながらサトシはシゲルを睨みつけた。
「サトシ、そう怒るな…。
というかシゲルは知ってたのか?ドレスコードの事」
「知ってたというか…。アルベリック家のイベントは大体正装するのが基本だったからね。
ポケモンコンテストも恐らく例外じゃないだろうな、とは思ってたんだ。
僕も最初からコンテストに入場する予定だったならもう少しまともな格好になってたと思うんだけど、」
「ははっ、でもその割には似合ってるじゃないか、」
「ありがと。でもタキシードはやっぱり身長が高くないきまらないと思う。
はぁ…タケシが羨ましいよ。
タケシくらい身長が高くないとタキシードを着てるんじゃなくて…
そう、まるで…七五三の衣装を着ているように感じてしまうんだ」
「何でオレを見ながら言うんだよっ!!!!」
「気にするな、サトシ。身長はきっと伸びるさ。きっと、な…」
「その同情するような目をやーめーろー!!!!」
「サトシ落ち着け!!服が乱れる!!これ貸衣装なんだぞ!?
シゲルも挑発するんじゃない!!!」
二人の頭を両手でがっちりと握りしめたタケシはその手に力を入れた。
「痛っ!!!す、すまない。つい昔のクセで…」
「いだだ!!すみませんごめんなさいっ…!!」
「分かれば宜しい」
ぱっ、と手の力を緩めて二人の頭を解放したタケシは再び鏡と睨みあいっこを始めた。
「タケシって優しそうに見えて実は結構怖いんだな…頭割れるかと思ったよ」
「ああ、怒る時は結構怖いんだ、タケシ。…オレも頭割れるかと思った」
頭をかかえながら二人はひそひそと小声で話しあった。
「ん、サトシ。君、ソレまだ結べてなかったのか?」
未だにだらしなくサトシの襟元に垂れ下っているネクタイを見てシゲルは指差した。
「うっ!!うるさいなぁ…あとちょっとで出来そうなんだってば!!」
「ふーん…」
その後、意地になって挑戦すること数十回、
結局サトシのネクタイは何の形にもならず、ただぶら下がっていた。
「はぁはぁはぁ、…くそー…!!!」
「ネクタイ結ぶだけで何でそんなに体力使ってるんだ君は」
「ーー!!!!ほっとけ!!」
「はぁ…仕方ないな。サトシ、まっすぐこっち向いてごらん。結んでやるから」
「い、いいってば!!!自分でやるから!!」
「こら、動くなって。もういい加減にしろよ、タイムアップだ。
どれだけ時間を使ってると思ってるんだい。
あーあ、こんなにグチャグチャにして…」
「だからやめろってばぁ・・・っ!!」
「ちょっ、動くなっていったろ!?どうせ自分じゃ上手く出来ないだろ?」
「で、でも…」
「僕が綺麗にしてやるって言ってるんだから、おとなしくやらせろ!!」
「あ、〜〜〜っ!!!!!!」
「んーよし、こんなもんかな。
な、じっとしてればあっという間だったろ?」
「ちぇー…」
「サートシくん、ありがとうは?」
「〜っ、ありがとう」
悔しそうにサトシが礼を言い終わると、人混みの間を抜けてサトシ達に向かってタケシは手が振った。
「二人とも!!着替え終わったなら出るぞ!!!
結構長居したからな、ヒカリと早く合流しよう!!」
「「分かった!!!」」
「よし、行こう」「おう!!」
混みあってきた衣装部屋から出たサトシ達は、ヒカリと待ち合わせをしたロビーに向かったのだった。
TO BE CONTINUED...
あとがき....
遂に第三章突入です。
更新するのにどんだけ時間かかってるんだよ自分!!
ってかてかどなたか文才下さい文才下さい。←
ネクタイシーンとか勝手にエロイ事妄想してしまったおかげで最後の締めとかマジ文章に出来なくて困りました。←イイワケデスね
とりあえず第一話で書きたかった内容は全部詰め込んだはず。
書きたかった事の数々↓
楽器屋さんと青年、ハープの話、コンテスト会場警備の許可取り下げ、オーキド博士と孫のケンカ(笑)⇒外部ではなく内部潜入を独断で決めるシゲル、そして…ネクタイを使っていやらしい会話をする二人!!!←
では、ここまで読んで下さった心優しい皆さま、ありがとうございました。
また第二話でお会い出来ると嬉しいです。
ーおまけー(NG文章)
注意※(R15〜18かも??)
元の文章にちょっと文を付け加えただけです。
大したものではありませんが苦手な方はbackプリーズ。
大丈夫!な方は↓↓↓
「い、いいってば!!!自分でやるから!!」
「こら、動くなって。もういい加減にしろよ、タイムアップだ。
どれだけ時間を使ってると思ってるんだい。
あーあ、こんなにグチャグチャにして…」
「やっ、だからやめろってばぁ・・・っ!!あ、んっ」
「ちょっ、動くなっていったろ!?どうせ自分じゃ上手く出来ないだろ?」
「で、でも…んっ」
「僕が気持よくしてやるって言ってるんだから、おとなしく犯らせろ!!」
ーENDー
えっと。
はい、こんな感じで妄想してました←そして修正し直しました。