これを幸せと呼ばずして、何と呼べばよいのでしょう。







暖かな光に包まれる午後、シゲルとサトシは森に来ていた。シゲルが研究としてこの森に生息しているポケモンの生態を調べるために出かけようとしたところ、サトシもついていくと言いだしたのが始まり。シゲルとしても断る理由など少しも無い、邪魔をしないことを約束にサトシと二人でフィールドワークへ赴いた。

「うん、こんなもんかな」

陽も傾いた頃、研究の一部に切りがついた為、とりあえず本日分のフィールドワークは終了した。さて、今回の研究は何回この森へと訪れれば終わるのだろうか。答えは限りなく無限大な数字になるだろう。何度森に訪れたとしても、生態全てを知ることなど不可能だということをシゲルは知っていた。それでも研究を続けるのは真実が知りたいから。いつかすべての真実を知ること、シゲルに限らず多くの研究員の夢だといえる。

「あれ、サトシ?」

先程…と言っても数時間前の話だが、近くに居たはずのサトシが居ない。一人で帰ることは有り得ないので、そう遠くにも行っていないはずだ、迷子になっていなければ。シゲルは荷物を持っているが、確かサトシは手ぶらだったはず。なら探してそのまま帰ってしまおう、シゲルは鞄を肩にかけた。さて、愛しい恋人はドコにいるのだろう。

「サトシー、サァートシくーん?」

呼んでも返ってこない返事。まさか本当に迷子にでもなっているのだろうか。シゲルは内心少しばかり焦りながらサトシの捜索を続けた。ガサガサと背丈の低い木々を掻き分け、シゲルの身長よりも高く伸びた草の間を通る。サトシの名を呼び続けても、サトシの声が聞こえてくることは無い。心配からか、シゲルの足取りは本人が気付かない程に速いものへと変わっていた。

ガサッ

不意に、後ろから草を掻き分けるような音が聞こえた。サトシかもしれない、シゲルは咄嗟に振り返る。しかし目の前では草が揺れるだけで、誰の姿も無い。風?そんなわけは無い。

「ピカチュ」

聞き覚えのある泣き声に足元を見れば、常にアイツの肩に乗っている黄色い鼠が一匹。この辺りには野生のピカチュウは存在しないはず、ならばこのピカチュウは間違いなくサトシのピカチュウだろう。

「ピカチュウ…サトシはどうしたんだい?」
「ピカピ、ピーカーチュ」

ピカチュウは身振り手振りでシゲルに何かを伝えようとしているが、残念なことにシゲルにはピカチュウが何を言いたいのか分かってあげることは出来なかった。シゲルが困った笑顔を浮かべると、ピカチュウは察したのか「ピカッ」と短く鳴くとシゲルを誘導するように走り出す。こればかりはシゲルにも「着いて来い」だという意味だと分かった、ピカチュウの後を追い、草を掻き分ける。

「おーい、ピカチュウー、ピカチュ…」
 
黄色い背中を追った先には、木の根元で寝息を立てる恋人の姿。成程、寝てしまっていたのか、どうりで呼んでも返事が返ってこないわけだ。胸の中の心配と焦りが一気に抜け落ち、安堵感に包まれる。ピカチュウに「しぃー」という動作をすれば、ピカチュウもマネをして指を一本口の前にあてる。シゲルは静かに隣へ座りこんだ。

「ごめんね、一人で居たら眠くもなっちゃうよね」

サトシを起こさないように、シゲルは優しくその髪を撫でた。さて、この後どうしようか。まだ辺りは明るいが、陽が沈み始めたのも事実。このまま寝かせてあげたいのは山々だが、陽が沈みきり涼しくなれば風邪をひくかもしれない。それはあまりにも可哀相だし、何よりも心配じゃないか。シゲルが起こそうとしたとき、微かにサトシの口が動いた。

「シ、ゲル…」

確かに、それは自分の名前だった。シゲルの心の中に温かいものが広がっていく。嗚呼、僕の夢を見てくれる程に君が僕を想ってくれているなんて!!自分の好いている相手が、同じように自分を想ってくれる、これ以上の幸せが存在するというのだろうか。少なくとも僕にとっては至上の幸福。自然と、頬が緩んだ。起こしたらどんな夢を見ていたか聞いてみよう、君はきっと顔を真っ赤にするだろう。想像しただけでも、こんなに愛しい想いが溢れてくる。シゲルは寝ているサトシの唇に、自分のそれを重ねた。それはまるで、姫を永遠の眠りから覚ますキスのよう。サトシはゆっくりと目を開けた。

「おはよう、僕のオヒメサマ」





幸せのカケラ
(案の定、君は顔を真っ赤にさせた、嗚呼なんて愛しいのだろう!!) 



・・・・・・・・・・・・
相互記念に刹那様から頂いきました!!(拍手拍手拍手!!!)
読む前から興奮してましたvv
眠り姫なサトシ最高です!!

題名も素敵ですvvカケラって何だか良い響きだなぁ、と思いました(///)

あと、最後のシゲルの一言がかなりグッときました☆

刹那様、本当に有難うございました!!!
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