▼ プロポーズ
ここはゴッドエデン。
神の楽園という名を持った地獄とも呼ばれている。
空気が重たく、狭苦しくて暗い雰囲気が何となく落ち着かない。
普段は自然豊かな森で特訓をしているけど、今日は一週間後の合同練習に備え
「アンリミテッドシャイニングとエンシャントダーク、両チームのキャプテン二人で集まって今後の予定を話し合え。」
という牙山教官の命を受けてここにやってきた。
でなければこんな場所に好んで来たりはしない。
用件だけ済ませてさっさとこの場所から離れよう。
そう、そのつもりだった。
白竜の部屋に訪れるまでは…
「シュウ、どうした。さっきから人の話を全く聞いていないようだが。
そんな状態では話が先に進まないだろうが」」
「え?あーうん。だって…さ」
何でこうなった。
「話の内容が、全然違うんだもん」
ヒクヒクと頬を引きつらせながら僕は目の前に広がった雑誌を見渡した。
進展しないカップルの為のQ&A 、貴方の運命が決まる〜究極の相性占い〜、
YESNO枕の秘密、新婚生活の極意、彼のハートを打ち抜くレシピ…その他色々。
「何を言う、教官からの話を聞いていないのか?仕方のない奴だ。
今日は二人の今後についてじっくりコトコト煮込んで話合えと言われたではないか!」
「白竜…君、思いっきり自分に都合の良い所だけ言葉を抜き取って話作ってるよ。
…っていうかもしかして今お腹空いてる?」
「ああ、そうだ。オレはお前がいつ来ても対応出来るようにと今日の朝から何も食べてなどいない!」
白竜の背後に「ドーン!」という大文字が思い浮かぶ。
決して威張れるような行為ではないのだが。
「もー、何してるのさ!ランチの時間とっくに過ぎてるのに。
そのせいで君が体調崩したり何かしたら今度の合同練習に影響が出ちゃうじゃないか!」
「合同練習…!
そうだシュウ、ついでに今度の合同練習の 話愛 でもしておくか!」
良い事思いついたぞ!みたいなドヤ顔で迫る白竜に思わずため息が出た。
「その話が僕にとっては本題なんだけど…
うん。ちゃんとしようね、 話合い 」
目の前に広がった全く関係のない雑誌を一つにまとめてトントン、と音を立ててテーブルの上に揃えて置いた。
「うむ。ではまずオレ達アンリミテッドシャイニングのこれまでの特訓スケジュールを(グ〜キュルルルル)…」
「白竜…」
「す、すまん…気を取り直して(グ〜〜〜)だな、その…
(グーーー)ええい、静まれオレの腹の虫!」
ドカっと自分のお腹に拳を入れた白竜はグハっと言った後、痛みを我慢しているのか体がプルプルと震えていた。
白竜のお腹はどうやらここで限界のようだ。
健全な中学生男子が二食も抜けばまぁ無理もない、か。
「…はぁ〜、しょうがないなぁ。
台所借りるよ」
「し、シュウ?何をする気だ」
「決まってるでしょ、料理だよ。その腹の虫、とっととやっつけて話し合いするよ!」
無造作に冷蔵庫に入れてあるわずかな食材と睨み合いながら、チームメイトのカイから教わった日本人が好む和食という物を作った。
選手に与えられた個室の小さな台所だけど思ったよりスムーズに作ることが出来た。
レンジで温めた白いごはんと目玉焼きに味噌汁。
まるで朝食だった。
湯気が立つ味噌汁は熱そうなのに無表情で白竜は全部飲み干した。
「でも以外だよ。白竜の部屋の冷蔵庫にお味噌があるなんて」
「ん?ああ、あれは家から届いた仕送りというヤツだ。
どうぜならインスタントで届けて欲しいものだが」
「わがままだなぁ君は…」
ほんの少し、昔母親に作ってもらった温かい食事を思い出して小さく微笑んだ。
「…シュウ」
「?なに?」
突然お箸を置いた白竜が真剣な顔をしてこちらを見た。
…どうかしたのかな?
「オレは、お前の作った味噌汁が毎日飲みたいのだが」
「あはは!何?結構おいしかった?」
「シュウ、返事は」
「ん?んーそうだね。毎日は難しいけどたまになら作ってあげてもいいよ?」
「そうか、ふっ」
「?何、何か僕おかしな事言った?」
「いや、結婚は近いと思ってな」
「は??」
その後、白竜と何の問題もなく本来の目的である合同練習についてだけ話をする事が出来た。
だけど、白竜が暴走せずに機嫌よく過ごせていた理由を後々知った僕は、しばらく白竜とまともにしゃべる事すら出来なくなるのだった。
プロポーズ
(あんな聞き方反則だ!!)
―END―
.................
あとがき。
「味噌汁作ってくれ」ってプロポーズの言葉を白竜に言わせたかった。
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