novel


▼ freedom!

ゴッドエデンから解放された選手を乗せる為にやってきた大きな船がまもなく出航する。
みんなと過ごした日々が惜しいけど、最後くらい陰ながら見送ろう。
そう思って木陰に隠れていたのに…。


「おい、どうした。乗らないのか?」

「んへっ?」

何故か正面には白竜のドアップ顔。
ち、近いなぁ…。

「何だ、そんな変な声を出して」
「君がいきなり出て来たから驚いたんだよ」

お前だってよくいきなり現れるじゃないか、大体いつもいつも驚かされているのはオレの方で…とブツブツ文句を言い始めた白竜に自然と口角が上がった。

(こんな他愛もない言い合いも今日で最後、か)

「おい、シュウ!聞いているのか!?」
「あー…うん。
聞いてる聞いてる…で、何の話だっけ?」
「はぁ…もういい、それよりもうすぐ出航だぞ。
お前荷物は?まさか丸腰で乗る気か?」

僕の手元や周りを見渡しながら白竜は聞いてきた。
あー…説明するのが嫌だったからこっそり隠れてたのに。
平常心平常心、と言い聞かせながらゆっくり口を開いた。

「僕は乗らないよ、ここに残る」
「…なるほど、ここがお前の故郷っていうのはどうやら本当のようだな。
だが、ここに残っても何もないぞ。
ゴッドエデンの施設もまもなく閉鎖される。」
「そうだね、だけど僕はここから出ないよ。
いや、出られないと言った方が正しいかな」
「出られない?何だそれは」

納得がいかない、意味が分からない。
白竜の顔にはそう書いてあった。
だけど、そんな顔をされても正直困る。
僕だってこの状況をどう説明していいのか分からないのだから。
ただ、一つだけ言える事は…

「僕はここでしか生きられない、存在出来ない。
だからこの島からは出られない。それだけの事なんだ」

それだけの事、か。
自分で言ったくせに無性に切なくなった。
ゴッドエデンが建設されてからは再び人と会話することが出来て。
天馬達に出会えて本当のサッカーの楽しさを知って…
僕には十分すぎる程の時間を過ごせたはずだ。

(それなのに、これ以上高望みをして一体どうなるっていうんだ)

目に熱い物が浮かんできそうになったのを必死に堪えると、白竜は突然僕の手を引いた。

「え、っちょっ。白竜!?」
「要するに、船に乗らないのはお前の本心ではないのだろう?
ならば付いて来るがいい!!」
「つ、付いて行くって何!?言ったでしょう?
僕はこの島からは出られないんだって!」
「心配ない、オレの通う学校では優れたサッカー選手は優遇され仮宿舎だって貸してくれるし学費だって支払ってくれる。お前には十分その資格がある、オレ様が保障する!」
「だ、誰もそんな心配してない!っていうか人の話聞いてよ!!」

手首をしっかりと掴まれ、ズルズルと白竜に引きづられながら船の目の前までたどり着く。

「〜っ、もういい加減にしてよ!」

白竜の手を何とか振りほどいて叫んだ。
「僕は…僕はもうこの世に存在しない人間なんだ!
妹を救えず、サッカーを憎んで憎んで…そして死んだ」

「死んだ、だと?」

もうナリフリ構っていられない。
一番話したくなかった話を、一番話したくなかった相手に話した。
最悪だ。いっその事開き直ってしまおうか。

「そう、びっくりした?
死んでいるのに生きているって何だかおかしな話だけど。
でも、天馬達と出会って僕は本当のサッカーを知ることが出来た。だからここでの未練は、もうない。
多分もうすぐ僕は今度こそ本当の意味で…死ぬ」

だからもう、こんな無謀(むぼう)な事僕にさせないでよ!
ね?分かってくれた?じゃあね、さよなら!

そう言いたかったのに。

「それなら丁度いい。シュウ、お前は今ここで死ぬがいい」
「…は??」

今ナニイッタコノヒト。

「何をしている、さっさと死ぬがいい」
「え…ええええ!?
「言っておくがオレの目の前で死ね。
隠れてひっそり死ぬなど、神が許してもオレが許さん」
「はく、りゅう?」
「さぁ、こい!!」

(ほ、本気だ。
白竜の目が、本気だ!
ちょ、僕どうしたらいいのさ)

自分でも死ぬって具体的にどうしていいのか分からないけど。
とりあえず一呼吸。そして真っ直ぐ白竜を見つめてから目を閉じた。
最後まで君はおもしろい人だった。
さよなら。







「おい、立ったまま寝たふりか?
死なぬなら問答無用、乗るぞ」

いきなりの浮遊感。
いつもみんなの前から姿を消す時とは違う感覚だった。
ひざ裏と横腹の辺りが温かい。
あれ?

「お前、軽いな。よくこんな体でオレと対等に渡り合えた物だ」

あれ?
思い切って目を開けるとそこには白竜が…

「〜〜っは、はく、はくりゅ!?」

「っち、急に動くな!落ちるぞ!」

何、なんなのこの体制!!!
これってカイに一度見せてもらった雑誌に書いてあった…
女子が男子にしてほしい事N01、の!?

「おい坊主、探し人は見つかったのか?」
「はい、もう大丈夫です」
「それじゃあとっとと出航するかー!!野郎ども、そろそろ出航するぞい!

「おおー!!!」

船への渡り階段では海に落ちるのでさすがに暴れなかったがそのまま体は
いつの間にか船の上。

「あー!!シュウ見つかったんだ…っていうか何で白竜はシュウをお姫様だっこしてるの?」

そう!お姫様だっこ!名前が思い出せなかったんだよね。
っていうかそんな事よりもっと気にしなきゃいけない問題があああ!!

頭の中がパニック状態な僕を余所に能天気な声で
船の柱から顔を出したのは同じチームのカイだった。

「こいつが死ななかったからだ」
「意味分からない…まぁ面白いからいいけど」

何なんだこの状況は!!!
っていうかぼく、僕…

「生きてる…アレ??」

「やはり狸寝入りか。シュウ、嘘をつくとはお前らしくもない」
「あー…いや、その。おかしいな」

どうして???

島からどんどん離れる船。
勿論僕を乗せて。

「ふん、あの島に未練がないならもうお前には何の足枷(あしかせ)もないに決まっている。あとの人生はお前の好きなように生きろ。
この世にお前が生きているのを例え神が許さなくてもオレが許す!」

「君って…ほんと…凄いよね。神様みたいだ」
「今頃気づいたか、オレは神をも超える究極の存在だぞ」
寂しいけど…嬉しい。
そんな曖昧な感情で…抑えていた涙が、一気に溢(あふ)れた。




Freedom!
(ねぇ、白竜)
(何だ)
(その、いい加減降ろしてくれない?)
(嫌だ)
(なんで!?)
(いいかシュウ、お前が自由に生きるのは勝手だがオレの傍にいろ。
それが最低条件だ)
(…それ、自由って言うのかな)



ーEND−


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