もし本当に願いが叶うなら


つまらない授業をただボーっと聞くだけの毎日。
窓の外を見上げればもう夕焼け空。

(トレーナーの心得や基礎授業なんて本当につまらない。おじい様から教えて頂いた知識のほんの一部じゃないか)

軽くため息をついてから帰り支度を手早くしてから学校を後にした。

しばらく歩くと後ろからバタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。
特に気にせず歩いていると、後ろからドンっと勢いを付けて背中を叩かれた。

「よっ!!シゲル!!」

「っ!!君ってヤツは…少しは礼儀って物を知った方がいいと思うよ」

冷静を保ちながらも背中に広がった痛みに耐えながら話をした。

(僕って何て大人なんだろう…)

「礼儀!?ママみたいな事言うなよな!!」
ブツブツ文句を言いながらも僕に歩調を合わせてサトシは歩き始める。

こいつに捕まったら離れるのはなかなか難しい。
学校での出来事やポケモンの事について話をする、というか一方的に話かけられる。

「でさーこの前いきなりポッポが飛び出して来てビックリしてさ!」

目を輝かせながら楽しそうに話すサトシに「あーはいはい。それは大変だったね」と適当に話を返した。
コイツとは小さい頃から一緒だが今も昔も何も変わらない。
ただ危なっかしく目を離すと危険なトラブルメーカーな為、結果的に視野の広い僕が傍にいる事が多い。
そのせいか、周りからは実は仲がいいよね、と言われたりする。
僕からすれば実際の所そうでもないいんだけど…
僕たちの関係は普通に仲が良い友達とはちょっと違うかもしれない。

でも、だからと言って僕らの関係に変な違和感はなく自然に馴染んで行くのだから不思議だ。

「なぁシゲル!?ちゃんと話聞いてたか!?」

思考を巡らせていた僕の顔をサトシは覗き込みながら聞いてきた。

「ああ…悪い、何の話だったかな?」
「だからさ、七夕だよ!!たーなーばーたっ!!」

大きく二回に分けて同じ単語をサトシは繰り返した。
あー…耳が痛い。

「なぁ!!お前もう願い事書いたか!?」
「はぁ…願い事、ね」

授業の終わりにそう言えば先生が折り紙で作った短冊を配布していた事を思い出す。

幼稚園児じゃあるまいし…と思ったが、案外クラス中が盛り上がっていたので驚いた。

「僕は特に願う事なんてないから書いてないよ。夢は自分で叶えるものなんだし」
「えぇっ!?何だよつまんないなぁ…
オレは絶対 「世界一のポケモンマスターになりたい…だろ?」

「なっ!!何で分かるんだよ!?」

サトシの顔が少し赤くなった。
図星か。

「君は分かりやすいんだよ。まぁ、短冊に書かなければ君の願いは一生叶わないんだろうけどね?」
「なっ!!何だって!?お、オレだって短冊なしでも絶対に叶えてみせるさ!!
そう、それに!夢は自分で叶えるものなんだぜ!?」

「それはさっき僕が言ったセリフなんだけど」

「え?そうだっけ?」

サトシはクビを傾げながら言った。

「まぁ願い事をするのはキミの自由さ、何でも好きな事を書いたらいいじゃないか」

「じゃあ、ポケモンマスター以外で何か考えて…ハンバーグ食べ放題?でもそれじゃあ何かな…もっと何か別の…ん〜…」

サトシはブツブツと独り言を呟くようにだんだん小声になって言った。

(別にそこまで悩む必要はないと思うんだけど…
しかもちらっと聞こえたハンバーグ食べ放題って一体…)

声には出さず、心の中でツッコミを入れた。

ふと気づくと先程までブツブツ言っていたサトシの目の色が変わった。

「オレさ、いー事考えた!」
「はぁ…何だよ」

「オレさ、ポケモンマスターになるのが夢だけどさ、
もし…もしも、本当に願いが叶うなら……」


その時のサトシの顔は、悪戯っぽく笑いながらも今までに見たことのないぐらい優しい表情だった。
あぁ…どうかこの先もずっと今と変わらぬ願いを祈ってくれますように。
柄にもなく本気でそう願ってしまった。
何だかんだ言ったって、結局僕はサトシの傍が一番居心地いいのかもしれない。

「それ、絶対だな?」
「おお!だからシゲルはオレの為に何か願い事祈ってくれよな!」
「現金なヤツ…」

夕焼け空の下、久しぶりにサトシを家に誘っってやった。



もしも本当に願いが叶うなら
(オレはシゲルの願い事が叶いますようにってお願いするよ、絶対だぜ!?)




あとがき。。。
2008年7月にUPした七夕小説の修正版。
随分前の作品なのですが覚えている方いるでしょうか(汗)
若干言葉が変わったり加筆された箇所があります。
シゲサトというよりシゲ+サトな話、でした。




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