マトマの理由


「んー…まぁ、こんな所かな」

握っていた鉛筆を机に置き、ジョーイさんから手渡された短冊を眺めながらタケシは呟いた。

(それにしても…今日が七夕だったなんてすっかり忘れてたなぁー)

そう、今日は7月7日。
日が暮れる前に何とか辿り着いたこのポケモンセンターでジョーイさんに言われなければ何もせず普通に過ごしていただろう。

(確か笹は屋上に置いてあるんだったよな…)

「タケシ、願い事もう書けた?」

隣からヒョイっと顔を覗かせてきたヒカリにタケシは頷いた。
ヒカリは既に書き終わっていたようで、タケシとは色違いの短冊を握りしめていた。

「ねぇ、タケシは短冊に何て書いたの?」

興味津津とばかりに短冊を覗きこもうとしてきたヒカリの目をタケシは片手で覆い隠した。

「ダーメ!!願い事ってのは人に知られると叶わなくなるって言われてるからな、秘密だ」

「へ?そうなの!?知らなかった、ごめん」

「ん〜、まぁ住む地域によって風習が違うのかもしれないし…仕方ないさ!」

素直に謝ったヒカリの肩をポンっと叩いてタケシは微笑した。

「そういえば…サトシ、まだ書けてないのか?」

「んー…もうすぐ出来るから!!あともうちょっと、ってかもう少し…」

「何気に時間伸びてるぞ?」

「そんなに深く悩まなくてもいいんじゃない?
サトシだったらほら!!シンオウリーグで優勝したい、とかでしょ!?」

「〜いや、やっぱそういう夢は自分で叶えるものだと思ってさ!!
どうせならもっと別の事をお願いしようと思ったら中々出てこなくて…ん〜っ」

頭を抱えて悩むサトシから視線を外し、ヒカリは自分の短冊に目を向けた。

「…私、書きなおそうかな」

「いいんじゃないか?」

ポツリと呟いたヒカリにタケシは消しゴムをさりげなく手渡した。
そして、再び短冊に向き合うヒカリを見たタケシは再び微笑した。


◇◇◇


「うわー綺麗!!!」

「星がいっぱいだな!!」

短冊を書き終えて屋上に上がったサトシ達の頭上には、夜空一面ににキラキラと輝く星が広がっていた。

「これなら織姫も夏彦と会えるだろうな?」

「ふふっ、そうね!!たった一年に一度しか会えないんだもの」

「…なぁ、何で織姫と夏彦って一年に一度しか会えないんだ?
仲が良いならいつでも会えばいいのに」

「ん?サトシは知らないのか?
まぁ伝説って言うのは本当かどうか明確ではないけど…
よ〜し!!サトシでも分かりやすいように織姫と夏彦をオレとジョーイさんに例えて話して…」

「「結構です」」

「そんな二人して遠慮しなくても…」

「あはは…何かタケシの話長くなりそうだったからさ、つい」

「サトシには私が教えてあげるわ!!んーと…分かりやすいように簡単に言うとね、働き者だった織姫と夏彦が結婚をした途端仕事をしなくなっっちゃって天帝が怒ったの」

「天帝って誰だ?」

「織姫のお父さんよ?偉い人なの」

「へー偉い人なのか…それで?」

「怒った天帝は罰として二人を引き離したの!!でも、それじゃあまりにも可哀想だから年に一度だけ二人は会う事を許されたの。それが7月7日、七夕よ!」

「ふーん。でもさ、何で二人は働かなくなったんだ?
ちゃんと働いてたら一緒にいられたんだろ?」

「そ、それは…〜っサトシには絶対分からないと思う」

「何でだよ!?」
「サトシに恋のお話何て難しすぎるもの」

「コイ??」

「さ、このお話は終わりにして早く短冊飾りましょ!?
お願い事叶えてもらわなきゃ♪」

「〜そうだった!!!オレ一番てっぺんに飾ろー!!」

「あ、サトシずるい!!私だって上に飾りたい!!」

「〜こら!!二人とも乱暴に扱うなよ!?」

背丈以上ある笹に短冊を飾る為、あらかじめ用意してあった脚立をお互いに引っ張り合い始めた二人の姿を見兼ねたタケシは、間に割って入り脚立を取り上げた。

「壊したら大変だろ?仕方ない…変わりにオレが飾るから、二人とも短冊貸しなさい」

「「すみません」」

「分かれば宜しい」

しゅん、と肩を落として反省した二人は短冊を裏面にしてタケシに手渡した。

「サトシ、脚立の足支えておいてくれるか?」

「OK!!いいぜ!!」

「タケシ、気をつけてね?」

「ああ、二人とも一番上に飾ってやるからな」

サトシが足元を支えた事を確認し、タケシは脚立を登った。
下から見上げた時には気付かなかったが、笹の上に行けば行くほど短冊の数は増していた。(みんな考える事は同じだよな…という事は)

案の定、笹のてっぺんには既に先客が何人もいた。
その重みのせいか、笹の枝先は上ではなく下を向いていた。
これでは一番上に飾っても意味がないだろうに。

「根元に結んだ方が良さそうだな」

両手を伸ばして二人の短冊をまず左右に結び、その下にタケシは自分の短冊も飾った。


みんなが健康で仲良く笑顔でありますようにー…


「今年も叶うといいなぁ…はは、欲張りすぎか?」

空を見上げてタケシは呟いた。


◇◇◇

「タケシ、ありがとな!!」

「ありがとうタケシ!!お疲れ様♪」

「どういたしまして。二人の願い事叶うといいな?」

「うん、タケシのお願いも届くといいわね!!」

「ああ、そうだな…!!
まぁ毎年同じ事書いてるから織姫も夏彦も流石に見飽きてるかもしれないけどな?」

「え、タケシって毎年同じ事書いてるの?」

「んー…言葉は若干変えるんだけどほとんど同じだ…おかしいか?」

「ふふっ、んーん!!タケシらしくて良いと思う」

「あぁっ!そういえばサトシもジョウト地方を旅してた頃までは確か同じ願い事書いてるって言ってたな?」

思い出したようにタケシはポンっと手を叩いた。

「えっ、サトシもなの!?」

「ああ、ジョウトの頃まではな!!ホウエンに行ってからは願い事毎回変える事にしたんだけど…」

「ふーん…でも何で急に願い事変えちゃったの?
毎年同じ願い事にしてたって事はよっぽど大切な事だったからじゃないの?」

「…え、あー…まぁ、イロイロと、な?あ、あははは…
よ〜し、短冊飾ったし。そっそろそろ部屋に帰るか!!!い、行こうぜピカチュウ!!」

ギクッと冷や汗を垂らして表情をあからさまに変えたサトシは、ロボットのようにカタカタと体を動かして歩き出した。
明らかに怪しい言動にヒカリはタケシに目を向けた。

「ねぇタケシ…ピカチュウは今、ポッチャア達と一緒にジョーイさんに預けてたわよね?」

「ああ…そうだな」

「何か私、聞いちゃいけない事言ったかしら?」

「いや、別に。まぁあんまり話を突っつくのも良くなさそうだし…とりあえずサトシの言うとおり部屋に戻ろうか」

「〜…そうね」
ぎこちない動きのサトシを先頭に歩き出した二人は、その後無言で帰室したのだった。



◇◇◇


「で、何で僕に聞くわけ?」

「いや、原因はきっとお前だと思ってな?」

ここはポケモンセンター・一階ロビー。時はすでに夜の11時。
多くのトレーナーが寝静まったであろうこの時間、電話に向かって話すタケシとヒカリの姿があった。

「〜全く、僕も一応忙しいんだけど…しかもこんな夜遅くに電話だなんて」

「あはは…ごめんなさい、でも一度気になり出すと全然眠れなくって…」

「と、言うわけだ…娘の安眠の為にも協力してくれ、シゲル!!」

「安眠って…いつからタケシはヒカリの保護者になったんだい?
っというか僕の安眠は妨害してもいいの??」

「ああ勿論だ、誰だって自分のトコの子供が一番可愛いだろ!?
はっ!!まさかお前もオレの子になりたいのか!?
だめだダメだ、オレの子はヒカリとサトシとカスミとハルカとマサトだけなんだ!!!
お前にはオーキド博士やナナカマド博士という立派な親がいるだろう!?けしからん!!」

「(〜子供増えた!!?)親って一体…っていうか誰がそんな事言った!?(怒)」

「あー…ごめんねシゲル、タケシってこの時間寝ぼけてお母さんモード入ってるから」

「ヒカリ…そんな厄介な時に電話してこないでくれるかな!?」

「だってサトシがあんなにおかしくなるんだもの!!どうしても気になって…」

「はぁ…生憎、僕は知らないよ?」

「嘘〜っ!!絶対知ってるはずよ!!」

「嘘って…。サトシが毎年してた七夕の願い事だろう?どうせ世界一のポケモンマスターになりたいとか…!!!!」

急に黙り込んだシゲルの様子にヒカリは何かピンときたのか寝ぼけ眼(まなこ)のタケシを横にずらし、電話画面に近づいて目を輝かせた。

「何!?何か思い出した!?」

「いやー…ちょっと昔の事を、ね」

「昔の事?」

「そう、それでサトシが毎年短冊に書いてた事…思い出したよ」

「本当!?教えて教えて!!!」

「ああ、いいよ。その変わりさ…」

「???」

「ヒカリにちょっと頼みがあるんだけどー…」



◇◇◇


「で、何でオレに聞くわけ?
しかもこんな夜遅くに…オレ寝てたんだぜ!?」

「いや〜、どうしても気になって眠れなくてね?」

「ヒカリに起こされなかったら今頃夢でディアルガGETしてたのにさぁ…」

ここはポケモンセンター・中庭。時は進んで夜の11時半。
先程と同じようなやり取りをしているはサトシとシゲルだ。
人に話を聞かれるのを気にしたのか、サトシは現在タケシから借りたポケギアを使用している。

「確かサートシくん、昔言ったよね?
もし本当に願いが叶うなら僕の願い事が叶い「わーわーっ!!言うな言うな!!!恥ずかしいだろ!!」…」

「〜静かにしなよ、もう夜なんだからさ」

「誰のせいだよ…ってかそれ覚えてるんならもう十分だろ?言う必要ないじゃん」

「いいや、質問の答えになってないね。
今言ったのは、サトシがジョウト地方を旅してた頃までの願い事だろ?
僕が聞きたいのは、何で途中からその願い事を止めたのかっていう事なんだけど。
毎年その願い事にしてたんだろ?」

「げっ!!!!!聞いたのかよ」

「ああ、君のお母さんにね」

「ママに??」

「あー…自称、お母さんだ」「????」

「で、結局どうなんだい?
まぁ、ジョウトリーグ後はあまり会わなくなったし。
サートシくんにとって僕の願い事なんてもうどうでもよくなったのかな?」

「んな訳あるか!!!!今でもずっと…〜っ!!!!!」

「ずっと…何だい?」

(は、ハメやがったなコイツ〜!!!!)

ニヤリと意地の悪い笑みを向けたシゲルにサトシは心の中で毒づいた。

「ほら、言ってみなよ?言えない?
はぁ…やっぱりサトシにとって僕はそんなに特別な存在じゃなかったんだね、残念だ」

わざとらしく肩を落として嘆(なげ)くシゲルに、サトシの中で何かがプツンと切れた。

「あーも〜!!分かった!!!言えばいいんだろ、言えばっ!!!!」

そう言った途端、サトシはまるでマトマの実を食べた時のように顔を真っ赤にして火を噴き出すのではないかという勢いで話し始めたのだった。




マトマの理由

「えーっと…それってつまり、織姫と夏彦に頼みたくなかったって事?」
「〜まぁそんな感じ。あ、誤解するなよ?
シゲルの願い事が叶ってほしいっていうのは今でもずっと思ってるんだぜ!?
ただ、シゲルの夢を二人に叶えてもらうって言うのが何だか急に嫌になって…
二人に叶えてもらうんじゃなくってオレが、その…シゲルの夢、応援したかったっていうか…叶えたかったっていうか…」
「ー…サトシ、それって誘ってるの?」
「は!!?さ、さそ!?誰がさそってなんか!!!」
「はぁ…無自覚って怖いね、ホント。電話じゃなかったら押し倒してたかもね?」
「〜っ、電話でよかった…!!!!
「そんな力強く言わなくても…ま、要するにサトシは織姫と夏彦に僕を取られたくなかったと、そういう事だよね?つまり、サトシは僕を好きすぎてしょうがないと!!!!いやぁ、今日は良い夢が見れそうだ。じゃあなサトシ!!」
「ちょっ、ま!!!そこまで言ってない!!!オイ、シゲルーッ!!!!」
【ブツン…】


ーENDー




あとがき...
もう駄文すぎて仕方がない…
「もしも本当に願いが叶うなら」と繋がってます。
あ、ヒカリは無事安眠しました!!←
七夕の昔話や二人の名前を調べた時に織姫と夏彦って書いてあったのでそれをそのまま使いました。

追記■2012
2010年の駄文引っ張ってきました(笑)
加筆修正も何もしていないのですが結構気に入っています(自信過剰)
みんなのお母さんしてるタケシが今でもマイブームですww





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