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 貴方の声で

光の反射でキラキラと光る水
その水の中で優雅に泳いでいる七瀬遥
一応、私の彼氏でもある


「遙ー、いつまで泳いでるのー?」


プールサイドに座り、パシャッと足で水面を叩く私
きっと遙に私の声は届いていない
水の中に潜っているのだから

私が彼に恋をしたのは一瞬
部活前に泳いでいた姿があまりにも綺麗で、大袈裟だけど遙が輝いて見えた


「……」


告白したのは私から
遙は「……別にいいけど」といつもと変わらない表情で返事をした
遙から"好き"なんて言葉を聞いたことない


「遙のバーカ」


バシャンっと思いっきり水面を叩きつけた


「何が」
「うわっ!?」


まさか水面から顔を出しているとは思わなかった
てっきりまだ潜って泳いでいると思ってたのに

遙は泳いで私の近くに来る


「何かあったか?」
「ねぇ、遙」
「?」
「……っ」


"私のこと好き?"


たったその言葉だけなのに
喉まで出掛けた言葉を飲み込み、笑顔を作り誤魔化した


「いつまで泳ぐのかなーって」


私は怖いんだ
"好き"以外の言葉を聞きたくないから
本当に遙が私のことを好きだという自信がないから


「!!?お、おい、泣いて」
「あ、あれ…?」


私の意志と反対にポロポロと涙が零れた
次々と溢れてくるのを止められなくて


「わ、私…、本当は、…遙が私のこと好きなのか、不安で…、無理して付き合って、くれてるんじゃないかって…!でも、聞くのが怖くて…、分からなくなって」


子供のように次々と溢れてくる涙を手のひらで拭う
遙は私の腕を掴み、そのまま引っ張った

ザバーンと勢いよく水しぶきを上げながらプールに落ちた私
でも嫌じゃなかった
遙が私を抱きしめてくれたから


「好きだ」
「!!」


耳元で言われた言葉
遙から伝わる鼓動が早かった


「…緊張してるの?」
「……」


私を離そうとせず、遙の表情を見ることは出来なかった
でもきっと、顔が紅くなっていると思う


「ずっと安心してたんだ、名前がオレの傍にいてくれてる事に」
「うん」
「でも不安にさせてたんだな」
「うん」
「悪い」
「遙が私のこと好きって分かったからもう大丈夫」


貴方の声で"好き"って言ってもらえたから
もう不安はない


「好きだよ、遙」


それでもたまには聞かせて欲しい
貴方の声で"好き"の言葉を





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