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*たぶん時の勇者










後ろから名前を呼ばれた。

すぐにでも振り向きたい衝動を抑え、愛しさが滲み出ないよう気を引き締めて私は無機質な声を作り出す。



「…何か用?」

「用ってほどでもないんだけど、ほら、月が綺麗だなって思って散歩してたら後ろ姿を見つけたからさ。」



暗い中でも私の後ろ姿を見つけてくれたこと、そして話し掛けてくれたことの2つの事実に顔が綻ぶ。

でもまだダメ。



「何やってるの?」

「別に何もしてないよ。」



私の冷たい受け答えに彼の困惑した顔が目に浮かぶ。

本当はいつものように、お疲れ様!今回はどんな冒険だったの?、って笑って話し掛けたい。
話をしてくれる度にくるくると変わる彼の表情が見たい。
いや、もしかしたら太陽みたいな金髪と澄んだ空を思わせる彼の目が恋しいだけなのかも。



「…あのさ、俺、何かした?」



していないけどしているのよ。
私のこの胸の苦しさの原因になっているなんて、貴方は思ってもいないでしょうね。



「もし知らないうちに嫌な想いをさせてたら謝るよ。」



ほら、見当違いも良いところ。



「俺は君といつもみたいに話がしたいんだ。」



じゃないとなんか調子狂ってさ、と続ける彼。

私と話しないと変な感じ、って思ってくれてるんだ。
ちょっと嬉しいな。
少しはあなたに近付けていたのかしら。

今日はその言葉が聞けただけよしと思って、いつもの調子に戻ってからかおうとしたのに、



「…だから、こっちを向いてくれないか?」



そんな切なそうな声であなたが言うから、
あらがえるわけなんて、ない。

ゆっくりと振り返る。



「やっと、顔を見れた。」



そこには穏やかな笑みを浮かべたリンクがいて。
その表情に心拍数が一気に加速し出して胸がきゅっ、と苦しくなる。

彼の顔を見続けることができなくて、目を伏せる。

さくさく、と彼の方から音がして緑一面だった視界に茶色いブーツが入り込む。

まるで耳のすぐそばに心臓があるように、ドクドクと鼓動が聞こえてくる。
それ以上近づかれたら心臓が破裂しちゃうかもしれない。



「なんか俺、最近変でさ。気付いたら君のこと考えてるんだ。」



私もよ。
思考にリンクが住み着いているみたいにごく自然に貴方を想ってしまうの。



「そうするとなんだか胸が苦しくなって。これってなんかの病気かな?」



なんで私に聞くのよ、馬鹿リンク。
これが病気なら、私は貴方より確実に重症患者よ。

嬉しい気持ちと呆れた気持ちがごちゃまぜになった私は、本能の赴くまま目の前の緑に抱きついた。

このドキドキが少しでも伝わればいい。


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