小説 | ナノ
すみません、ちょっと現実逃避しちゃってました。
次回なんて来るのかさえも謎です。私は明日を無事に迎えることができるのか。
現在、私が居るのはラトアーヌさんの泉。
フィローネの森に続く村の門は既に閉められている。
空を見上げると全てが赤や黄色に染まっており、まさに黄昏の世界。
穏やかで、少しだけ切なくて。そして寂しい気持ちになる。
「あれ?君は…?」
「!」
ちょっとブルーな気持ちになりかけていた時に我らがリンク様の登場です。
驚いた私は反射的に後ずさる。
逃げ出したい気持ちがあるが、ぐっと堪える。
ここで何もせず逃げだそうものなら、イリアや村の皆の目の前で彼にお菓子を渡すという恥ずかしさ極まりない事態になりかねない。
イリアは有言実行タイプの子だから逆らわない方が身のためだと言うことを私は学習済みだ。
だけどやっぱり緊張するし、何もしてないのになんかもう恥ずかしいぃぃ!!
はっ!
こんな時は素数を数えて落ち着くんだっ!!
1…2…3…5…7…11…13…17…19……
「珍しいね、ここにいるの。」
ぐはぁっ!!
ここではにかむのは反則でしょうが!!!
彼の姿を直視してしまうと自分が爆発しそうになるので、必死で目線を下げる。
正直もう逃げたい。
だけど逃げるとさらなる羞恥な出来事になるから逃げられない。なんというジレンマ。
もうこうなったら渡すだけ渡してさっさと消えよう。うん、それがいい。
「っ、これ……っ!」
持てる力の全てを振り絞って自分の声帯から絞り出たのはたったの2文字だけ。
情けない、なんという残念クオリティ。
可愛らしい少女がある部活の憧れてる先輩に差し入れを渡すような甘酸っぱい場面を想像しながら頑張った結果がこれだよ!
「えっ、俺に?」
はい、そうです。
全力で首を縦に振る。
「ありがとう。」
ぐはぁぁぁっ!!!
こうかは ばつぐんだ!
イケメンの笑顔とか反則でしょうよ!!直視したら目がつぶれる。
色々と我慢できなくなった私は彼が受け取ったのを下目線のまま確認し、さっさと退散する。
なんかもう中身が出てきそう。
「そっ、それだけなの!じゃっ!!」
「あ、待って!」
彼の横を素早く通り抜けようとするもパシッ、という音と共に痛くないけど割と強い力で手首を捕まれ逃亡は失敗に終った。
えっ、えっ、ええっ!?!?
「ちょっと聞きたいことがあるんだ。」
捕まれた手首からじんわりと彼の温もりを感じ、一気に体温が上昇する。
ちょっ、話を聞くのは別に構いませんけど、せめて手は放してくれっ!!
そこまで乙女ってわけじゃないのに、こんなんじゃ話の内容なんて耳に入らないっ!!
「なまえはさ、俺のこと嫌いか…?」
え、むしろ好きですけど。大好きですけど!
突然の彼からの謎発言に脳がさらにパニックになる。
でもこんな場面だろうがなかろうが、チキンな私が好きなんて爆弾発言を言えるわけが無く、とりあえず否定の意味を込めて首を左右に全力で振る。
「本当に…?」
本当ですとも!!
肯定の意味を込めて今度は首を縦に振る。
頭を振りすぎてクラクラしてきた。
あとそろそろ手首を放して欲しい!!
よくわかんないけど泣きそうになってきた。
「良かった、」
自分の後方でそういう声が小さく聞こえた。
少しだけリンクが気になってしまい、そっと後ろを振り向くと、ちょうどこちらに目線を向け直したらしい青い瞳と出会ってしまった。
瞬間にして体が硬直する。その後光の速さで目線をそらす。
リンクも目線が合ったことに驚いているらしく、手首の拘束が緩くなった。
「えっと、あの、もう行っても良いかな?」
「ん、あ、あぁ、引き留めてごめんな。」
手首からぬくもりが消える。
その瞬間、なんだかおしいって思ってしまったのは黄昏時だからと言い訳をしておく。
二人だけの空間というシチュエーションとさっきのやりとりで、なんだかむずむずした居心地を感じた。
ここが嫌ってわけじゃないんだ。なんだかむずむずするってだけで。
「じゃっ!!」
この場の雰囲気に甘んじることも出来ず、かといってもう一度後ろを振り返る勇気なんてものも私は持ち合わせてなかったので、小さく手を振って村の方へ走って帰っていった。
背中にリンクの目線を感じた気がするけど、きっと私の思い込み。
(Happy Halloween…?)
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