小説 | ナノ
意識が浮上してくると右手がとても暖かいことに気付いた。
ここは天国?地獄?それともどちらでも無い所?
ぱちり、と目を開ける。
すると薄暗い天井が見えた。……あれ?
「…っ、」
体を起こそうとすると節々に痛みが走る。薄暗い中、左手をかざし目を凝らして見ると包帯が巻かれていた。少し雑な巻き方の感じからしてこれはリンク?
えっ、そんなまさか。振られた私はあのゲルドの橋から飛び降りて死んだはずなんじゃ……
「なまえ!目が覚めたのね!」
薄暗い中に1つの淡くて柔らかい光りが。ナビィちゃんのようだ。
「モウ!全然目覚めないから心配したんだヨ!!」
ひゅんひゅんと飛び回るナビィちゃん。こんな健気な子に心配をかけちゃって、なんだか申し訳ない気分になる。
謝ろうと口を開くが、喉が擦れて声が出なかった。驚いた、私はどのくらい寝てたのだろう。
「リンクだって辛そうだったんだから!」
リンク、その言葉に思考が止まる。ナビィちゃんが何かを言っていたが、頭にはまったく入ってこなかった。
ナビィちゃんには悪いけど、私なんて助からなくてよかった。リンクと一緒じゃなきゃこんな世界、生きてる価値なんてないのに。
「…、なまえ?」
微かに私の名前を呼ぶ声が聞こえた。普通なら聞き逃してしまう程小さな音。でもどんなに小さくても私にはわかる、これは大好きなリンクの声だ。長い間貴方の近くに居たんだもの。間違えるはずなんてないわ。
右手の体温が動いた。そう言えば暗くて室内が見づらかったため特に気にしていなかったが、そこに目を向ける(若干傷が痛んだ)と弱々しい光を放つ青い瞳と視線があった。途端に胸がきゅーっと締め付けられる。こんな状況でも私は貴方に反応しまうらしい。
逸らすこともできずそのままで居ると貴方の瞳に強い光りが宿り形の良い眉が段々と吊り上がっていくのが確認できた。
「っ、この馬鹿!!何であんな所から飛び降りたんだ!助からなかったらどうするつもりだったんだよ!!」
ぱち、くり。
そんなチープが効果音ではこの驚きを表すことはできないくらい私はひどく驚いた。だってあの温厚なリンクが起こるだなんて。しかも怒鳴る、だなんて。空気がまるでビリビリとしているように感じる彼の剣幕に押されてごめん、と一言呟こうとしたがやはり声は出なかった。仕事してほしい。
「俺がいたからよかったものの、普通の人なら死んでたかもしれないんだぞ!」
あぁ、私、リンクに助けてもらったんだ。その事実に胸と目頭が熱くなる。振られているのに貴方に助けられてときめくだなんて、なんて未練がましい女なのだろう。
彼のその言葉を最後に沈黙が訪れる。なんとかして言葉を発しようと四苦八苦してみるが私の喉は声の出し方を忘れてしまったのかと思うくらい言葉が出ない。でも何か言わなければ。
「………いきなり怒鳴ってごめん。でもこれだけはちゃんと聞いて。」
先に沈黙を破ったのはリンクだった。謝るのは私の方なのに。別に貴方に非があるわけではないのに。
いつの間にか彼の吊り上がった眉は元に戻っていた。ちゃんと聞いてほしいなんて、よっほど大事な話なんだろうか。聞きたいような聞きたくないような。しかし例え私が否定してもその言葉を伝える方法が今はない。大人しく次の言葉を待つ。
「俺はなまえが好きだよ。この気持ちはナビィやサリアの好きとは違う。特別な“好き”なんだ。」
だから君が助かって本当に嬉しいんだ、と続けて穏やかに笑うリンク。
なん、だと…、
状況がうまく把握できなかった私はとりあえずフリーズしておきました。
(浮上、)
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