紫陽花の色
一口水を飲むと、渇いていたのどが潤う。思っていたより体力が消耗していたらしい。慣れないことは長くするものではないと思いながら、瑠璃は今日のことを振り返っていた。
知らせを聞いたのは、いつだったか。梅雨だというのによく晴れた暑い日、瑠璃はいつものように学校へ行った。
いつも通り、今日も学校で勉強し、人が少ない時間帯で帰ろうとしたとき。
聞いた知らせは、帰るために必要な電車が事故で動かなかくなったこと。あとはなんだったか。気付いたら天照学院へ行っており、色々な手伝いをしていた。
せっかくのお泊りだ。楽しみたいという気持ちがあるのだが、慣れない人と一緒にいるのは疲れてしまう。人が少ない校舎裏で考え事をしていると、いつの間にか天照学院へ入ってきた玻璃が傍にいた。
彼は何も言わない。瑠璃も、何も言わずにただじっとしている。一人でいるのと変わらないが、ただ傍にいてくれることはどこか心が落ち着いていった。
「そろそろ寝ないの?」
やがて口を開いた玻璃が尋ねる。確かに、そろそろ寝ないと明日に響くかもしれない。瑠璃は面倒そうに立ち上がり、小さくありがとうと言った。
玻璃はいつもと同じように笑んでおり、瑠璃の様子を見守る。おやすみなさいと瑠璃に言うと、瑠璃もおやすみなさいと返し、玻璃はそのまま去って行った。瑠璃はいなくなった玻璃のほうを見ようとせず、寝る場所へと向かう。
そういえば、家の近くの紫陽花は咲いているだろうか。ふと頭をよぎった疑問に、瑠璃は明日確かめようと考えながら歩みを進めていった。