虚心坦懐とは誰が言ったのか

『荒神博?』
 懐中電話から聞こえた声が、やや不機嫌そうに言う。真佐紀は気にせず、なるべく明るい声でそうだよ、と答えた。
「もし休みだったら彼氏と行きなよ! それとも、まだ彼氏なんていないのかな」
 冗談っぽく言うと、懐中電話からうるさいと荒っぽい声が聞こえる。図星らしいのだろう、相変わらずだなあと真佐紀は思った。
「じゃあまた電話するね、みゆ姉」
 電話の相手は、実の姉美優希。荒神入りしたとはいっても、真佐紀は彼女とよく電話したり会ったりしている。しかし、それが姉弟としての付き合いというよりも友達としての付き合いに近いのだが。
 またな、という声が懐中電話から聞こえたと思うと、電話が切れる。そろそろ昼ごろだろうと思い、真佐紀は研究室を出た。

 昼時は少し過ぎているためか、人が少ない。しかし人の多さなど今は関係ないこと、真佐紀は気にしない。注文していた例のものもそろそろ届くだろうと考えながら、真佐紀は今日の昼ご飯へと思いを馳せていた。
「真佐紀さーん」
 そのとき、誰かに呼ばれた気がする。気のせいかと思ったが、振り返ってみると灰色の男が目に入った。あれはたしか。
「はいばら粘土さん?」
 だった気がする。しかし、違う気がしないでもない。まあいいやと思い、真佐紀はどうしたんですか、と訊いた。
 何を考えているのかよくわからない顔だ。真佐紀はこういった顔は嫌いではないのだが、かといって好きでもない。どうしたものかと顔を覗き込んでいると、男は口を開いた。

 

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