月夜は暗くも優しく照らす

 ふと、壁に飾られてるカレンダーを見る。すでに霜月は終わり、今日から師走。もうすぐ一年が終わるというのと同時に、真佐紀はある日付に目をつけた。

 ――もうすぐ、クリスマスだ。

 真佐紀は、キリスト教信者ではない。むしろ、神とかそういったものが苦手だ。
 しかし、クリスマスは天照でも有名な行事であり、キリスト教信者ではない真佐紀でも馴染みあるものである。
 また、人によってクリスマスは恋人と過ごす人もいる。本来の行事の意味とは違うのだが、キリスト教信者が少ない天照では仕方ないことなのかもしれない。
 そして、真佐紀も本来の行事の意味とは違う過ごし方を考えている。例年は、当時付き合っていた恋人、あるいは適当に行きずりの人と過ごしていた。
 そして今年も、今付き合っている彼女と過ごそうかと真佐紀は考えている。いつも通りの、クリスマス。そのはずなのだが、今年は何かが違う感じがした。

 仕事場は、相変わらずの無機質だ。白い壁は清潔さを感じるが、それと同時に全てを排他する、そんな恐怖を感じる。
 昼休憩に真佐紀は見知った人物、友人である大輔に声をかける。所属は違うのだが、会うとなんとなく一緒に昼食をとることが多い。
 今日もいつものように彼と食べようと思い、ふと今朝見たカレンダーを思い出す。
 なんとなく悩んでいることでも話そうかと考え、真佐紀は大輔に尋ねた。
「大輔くんは、今年のクリスマスどうするの?」
 予想外の問いだったらしく、大輔は一瞬何を言ってるのかと考えたがすぐに理解すると、嫌そうな顔をしながら仕事だよ、と答える。
 それに対しふうんと興味ないように返すと、真佐紀はところでさあと続けた。
「彼女にプレゼントあげようと思ってるんだけど、何がいいかなあ」
 どこか嬉しそうに聞いてくる真佐紀に対し、大輔はため息をつく。そしてそっけなく知るかと答えると、もう質問はないのかと言わんばかりの不機嫌そうな顔で真佐紀を見てきた。
 そんなことなど気にせず、真佐紀はそれで、と続けた。
「大輔くんは、誘わないの?」
 隣で噎せる音が聞こえる。何だよ、とどこか恨みがましそうな声がしたが、どこか震えていた。
「だってさ、せっかくのイベントだよ? こういうのにのらないと損じゃん」
 楽しそうに話す真佐紀とは対照的に、大輔の気分は落ち込んでいる。やはりその態度には興味をみせず、真佐紀はせっかくだしさ、と言う。
 見慣れたすがたを見つけ、真佐紀は大輔の背中を押す。じゃあがんばって、と言って去ろうとする。待てよと言う声は、やはり無視した。

 人通りの多い道、たくさんの灯りが人を寄せ付ける。先ほど出た店を後にしながら、真佐紀は次にどこ行こうかと考えていた。
 結局何も進展せず昼休憩を終え、またいつも通りの業務をこなす。そして仕事が終わる時間になると、真佐紀はさっさと仕事場を後にした。
 この後は特に何もすることがなかったため、思い立つように繁華街へと行く。せっかくなので、何かプレゼントを探そうと思ったのだ。
 何軒かまわったが、彼女の欲しいものなどわからないし、欲しいものがあるのかすらわからない。
 また、もしプレゼントを渡してもそれを受け取ってくれるかもわからない。できれば使ってくれるものがいいと思いながら、真佐紀はふとアクセサリーショップに立ち寄る。ただなんとなく、しかし、どこか引き寄せられるようにふらりと中へ入った。
 店の中は、落ち着いた雰囲気で人はまばらだ。しかし、近寄りがたいというものはなく、今が閉店間際のために人が少ないのだろう。
 アクセサリーショップには、やはりたくさんのアクセサリーがある。指輪、ネックレス、髪飾りやネクタイピンなどもある。密やかに存在を主張するように小さな飾りが付いている物もあれば、己の存在を誇示するかのような大きな飾り、何もついてないシンプルなもの。色も、赤、青、黄、白、黒、紫、緑その他色々、たくさんある。
 彼女には何が似合うか、考えるだけでも楽しい。ただ、もう少しで閉店時間のためゆっくり考える時間はない。まあ、今日は様子見るだけだしと軽く店内を見ているとき。目をひくものを見つけた。
 それは、ネックレス。ゴールドピンクのチェーンに、三日月を模したもの。三日月の空いてる部分に、紅い宝石のついた花があった。となりを見ると、どうやらペアネックレスらしく、色違いのものがあった。
 それをレジへと持っていく。こっそりと、ペアにしようかと考えながら。着物で見えなくなるだろうが、それでもいい。付けてもらえないという発想はすでになく、ただこれからのことについて考えていた。
 店員に片方をプレゼント用に包んでもらい、店を出る。外はすでに暗く、明るく丸い月が街灯とともにあたりを照らしていた。今日は満月なのだろうか、妙に月が輝いているように見える。
 なんとなく足取りが軽い。まだ先の出来事だ。しかし、『これ』をつけた彼女を見るのが楽しみである。家への道が、まぶしかった。

 

   

 


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -