それはひととき

 楽しげに、銀色の猫ーーフロートが歩いているのが見える。天照から戻っていくらか経った日の事である。
 エドマンドは、一瞬声をかけようかと近づこうとした。しかし、すぐに思い直す。
 フロートは後ろを向いている。こちらには気づいていない。エドマンドはこっそり近づき、思いっきりフロートの両目を塞ごうとした。
 瞬間、何かがエドマンドを引っ張るのを感じる。誰かがいるのかと思い、後ろを振り返る。そこには、微妙な顔をしているアンサンセがいた。
「何してるんだ、エド」
 呆れたような声で、名前を呼ばれた。その声は、どこか怒気もはらんでいる。
「やあアンジー、ご機嫌よろしいですか?」
 取り繕うように返事をする。それでも、アンサンセの表情は変わらないままだ。
「まちがってたな。エド、お前何しようとしてたんだ」
 どうやら、何かしようとしていたところをバッチリ見られていたらしい。言い訳を考えようとしていた時、近くから声が聞こえてきた。
「アンジー、そこにいたんだ」
 少し嬉しそうな気がするその声の持ち主は、先程エドマンドがいたずらを仕掛けようとしていたフロートである。エドマンドのことは眼中にないようだ。当たり前であるが。
「フロート、どうしたんだ」
 エドマンドに声をかけた時よりも優しい声。心なしか、嬉しそうな気がする。それをあえて指摘しようと思ったが、今の自分の状況ではさらに酷くなることが目に見えた。
「ところでフロート、またいたずらしたみたいだな」
 その言葉で、エドマンドとフロートはアンサンセが何をしたいのかがわかった。エドマンドはほっとし、フロートは怯えるように。
 瞬時に魔法を駆使して、フロートは逃げる。アンサンセも、すぐに追い始めた。
 離れていくアンサンセを見て、息を吐く。これで、一安心だと思った矢先。
「エドも、あとで話があるからな」
 きょうは早く帰ろうと、エドマンドは心に誓った。

 

 







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