薄暮れと明るい陽の光

 日が落ちる直前の時間。薄紫が一部を覆い、移ろう時間を感じる。
 そんな今の空の一部と同じ色をした男が佇んでいる。荒んだ空気を纏う男に、エドマンドは何となく近づいた。
「ねえ、そこのお兄さん。もし暇ならさ、俺と一緒に遊ばない?」
 伏せていた顔を上げて、こちらを見る。紅い瞳が、じっとエドマンドを見据えた。
 肯定の意を示してくれた男に、エドマンドは今住んでいる家に誘う。
 一夜だけ、そのために誘った。名を告げるつもりはないし、知るつもりもない。そのほうが、あとくされなくいけるからだ。
 夜はこれから。たった一夜だけの関係を、楽しもうじゃないか……。

「新しい茶葉もらったんだけど、飲まない?」
 近くにいたローザに声をかける。頭一つ分ほどではないにしろ、それでもエドマンドにとって彼女の背は低く感じる。
 エドマンドとローザがいる場所は、財団にある部屋の一室だ。調べ物のために、二人はこの部屋へと赴いている。
 いつもは伏せがちな目が上を見据え、エドマンドと目が合う。二色の、色の違う瞳。優しい日の光を思わせる右目も、新緑を思わせる柔らかな葉の左目も、どちらもエドマンドにはない瞳の色だ。
「あら、いいわね。そしたら、私はお茶会の準備でもしようかしら」
 嬉しそうに笑うローザに、エドマンドもつられて笑う。
「じゃあ、俺は今から紅茶の準備するね!」
 そう言い、エドマンドは部屋を出る。ローザがどこか困ったように笑ったのには、気づかずに。

 二人で和やかにお茶を飲み始めてからしばらく経つ。そろそろ仕事に戻ろうかと話しをしていた時、突然の来訪者が現れた。
「ローザ、今時間大丈夫か」
 後ろから、男の声が聞こえる。誰だろうかと二人で振り向く。そして、その姿をとらえたエドマンドは、驚きで目を見開く。
 男も同じなのだろう。何が起こっているのかわからない、という顔でエドマンドのほうを見ていた。
 数年経っても、わかってしまった。まさかこの時この場所で、再会したいとは思わなかった。
 気まずい沈黙が、三人の間に流れる。誰もが、何を言えばいいのかわからないといった様子だった。
 何かを察したのだろう、いち早くローザが言葉をかけてくる。そして、二人に向かって優しく笑いかけた。弟に優しく言いつけるように、柔らかい口調であった。
「二人とも、会うのは初めてかしら」
 その言葉に、どちらが安堵のため息をついただろうか。もしかしたら、両方かもしれない。エドマンドは、自分の体に入ってた力が抜けていくのを感じる。それは、向こうも同じなのだろう。
「初めまして。俺はエドマンド・キャンベル。調査員だよ」
 数年ぶりの再会で、エドマンドは初めて名を告げる。
「……ブレーメン・ノルマンだ。以降、よろしく頼む」
 そしてエドマンドは、初めて彼の名前を知った。

 

 







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