手紙の行方と間違えたもの

 ついに、その日が来た。この一週間、手紙を送ってから落ち着かず、常にそわそわしていた。早く今日というこの日が来てほしいと何度思ったことか。気分は、処刑を待つ死刑囚の気分だった。
 体育館倉庫の裏で、雄馬は待つ。今日は掃除当番ではないし、部活も休みだ。いつでも待つことができる。もし来なかったらどうしよう、という不安はあるが、その時は諦めるしかない。
 いつ来てもいいよう、雄馬はシミュレーションをする。例えどんな返事になっても、心乱されないようにするためだ。
「増田」
 色々と頭を巡らせていると、待ち人が来たのか後ろから名を呼ばれた。心なしか、声が低いような気がする。
 振り返って返事をしようとすると、そこには待ち焦がれていた人ではなく、クラスメイトではあるがあまり関わったことがない人物がそこにいた。
「雨水、なんで……?」
 雨水泪。園芸部で、このクラスになってからというものの、あまり話したことはない人物だ。
 突然のことに、頭がついていかない。しかし、もしかしたら用事があって呼びに来ただけかもしれない。なんとか落ち着こうとするが、彼は見覚えのある手紙を取り出した。
「これ、増田がくれたんだろ?」
 それは、確かに雄馬が書いた手紙ではある。しかし、それは違う人に宛てたものだ。もしかして間違えて入れてしまったのでは、という事実に気づき、雄馬は訂正しようとする。
「まさかあんな手紙もらうとは思わなかったけど、でも増田からの手紙嬉しかったから」
 しかし、雄馬が何かを言うより先に、雨水が嬉しそうに話をした。思考が停止する。なぜ、そんな話になるのか。ただ、雨水の言葉が右から左に流れるだけだ。
「お付き合い、お受けします」
「……は?」
 つい、素っ頓狂な声を出してしまった。あまりの予想外の出来事に、雄馬はただ雨水の顔を見ることしかできない。
 少し顔を赤らめて、照れくさそうにしている。なぜそんな顔をするのだ。自分も男なのに、いいのか。色々突っ込みたいことはあるのに、声が出ない。
「恋人がどういうことをするのかわからないけど、とりあえず、増田のこと名前で呼んでいい?」
 雨水の問いに、雄馬はついはい、と答えてしまう。断らなければ、と思うのに、何も言えない。あれは違う人に宛てたもので、君じゃないんだ。そう言いたいのに、嬉しそうにしている雨水の顔を見て、何も言えなくなる。
「俺のことも、泪って呼んで、雄馬」
 首を少し傾げて、雨水が言う。そんな顔をされると、ついいうことをきいてしまいたくなる。雄馬は、恐る恐る泪、と呼んだ。
 雄馬の呼びかけに、雨水が嬉しそうな顔をする。そんな顔をされたら、本当のことが言えなくなってしまう。それ以上何も言えない雄馬に、雨水はこれから部活だから、と言う。
「明日、LINEとか教えて」
 じゃあ、と言って雨水はいなくなった。何がどうしてこうなったのか、雄馬にはわからない。ただ、手紙が送りたかった相手に届かず違う相手に届いてしまい勘違いを起こしてしまったことだけはわかった。
 そして彼が去ってしばらくしてから、雄馬は思い出す。そういえば、宛て先書くの忘れてしまった、と。

 

 







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