三つ編みの話
人が立っている。背後に。それだけでも緊張するというのに、真後ろにそいつは居るのだ。 緩やかに動く指は肩にかかる髪をすくい、とかした。無心にならないと肩がはねそうで、目の前のグラスを凝視する。中の水をくるくると回す。からからと音を立てる氷は半分溶けていた。

みつあみができないなどと言わなければよかった。言ったのは目の前でにやにやしている(であろう)紙袋だが。楽しそうに髪紐なんか取り出しやがって、あとで後ろにも穴あけてやる。だいたいなぜ持ってるんだそんなもん。じろりと見やると、鼻で笑われた気がした。ちくしょう。

首周りが覆われていないとどうも心許なくなる。ゆっくりと丁寧に結ってくれるのはありがたいが、出来れば手短に、特に首には触れないで欲しい。できれば。 相手はそんなこと意識していない。指先がかする度に息が詰まる。もう顔は赤いだろう。ここが居酒屋でよかった。

できたよ、と言われてもふり向けない。後ろに少しだけ引っ張られる髪は確かにまとまっている。ああ、とだけ声を絞り出して、やっと力が抜けた。もう触らせまい。 肩よりも首側。どうした、と。 不意に置かれた手にヒッ、とうわずった声をあげてしまった。しまった、

気が抜けて。 なんでもない、そう絞り出した声は震えていたかもしれない。もう耳まで熱い。頭の上では似合ってるからまたしてやれだの、機会があればだのそんなやりとりが続いている。勘弁してくれ。 そのあとの記憶がないが、フランダースの犬で大泣きしたそうだ。死にたい


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