小説 | ナノ
710の日おめっとさん


暗闇のなかで目に映るのは、ぐったりとした様子で横たわっているティーダだ。
テントの中なんてランプがなければ暗闇も同然だ。

けれど、昔から夜目が聞く俺はしばらく闇にいれば周りは普通にみえた。
だから、いまはランプがないこの状況でもティーダの全てが見えている。

きっとティーダは夜目が利かないんだろうな。
どこにいるか位は気配で分かるのだろうが、俺の顔を全然見ようとしていない。

「ティーダ」

そう呼びかければ、ティーダは僅かに視線を上に上げたが、やはりその瞳と俺の瞳はかっちりとあわなかった。
けれどティーダの気だるげな、それでいてどこか恥ずかしそうな顔は可愛い。
恐らくさっきまで鳴き声をあげていたことに対して恥らっているんだろう。

ティーダは内面はかなり男らしいからな。
その癖、顔は可愛らしく、その笑顔は花が咲くようなものなのだから性質が悪い。
しかもスキンシップも多ければ激しくて、無自覚で誰にでも同じように接しようとするのだから……やはり性質が悪い。

俺は堪らず大きな溜息をついた。
そうしたら、幸せそうな顔をしていたティーダが突如悲しげな顔に変わるのだから……ああ、全くもってお前は可愛いな。

「えっと……クラウド?」
「なんだ?」
「もしかしてさ……その……よくなかった?」
「いや。そんなことはない」

ティーダとして、よくないわけがない
けれどティーダは不安そうな顔を変えずに、『でも……さ。俺、体硬いし』なんてぶちぶち言い出す。

体が硬いというのはティーダが気にしていることの一つである、『男』という性別のことだ。
俺とティーダはどちらも男。しかもそれなりに体を鍛えているから、一般の成人男性より体は硬い。
でもそこじゃない。
ティーダは自分が『女』じゃないことを気にしていて、いつだって俺が『女』にいくのではないかと思っている。
女なんてここにはティナしかいないし、あんないたいけな少女に手を出す男がいたら正気の沙汰じゃないと思っているから、それはありえないんだが。
そもそも俺が好きなのはティーダで、抱きたいと思っているのもティーダだけだ。

なのにティーダは居もしない『女』を怖がってる。
俺としては、男であるティーダが俺に抱かれるのが嫌だといいだすんじゃないかと思っていたんだが……。

「よくなかったら、3回も抱かないだろ」

そう言って、ティーダの首筋を撫でればティーダは真っ赤になってそして嬉しそうにはにかんだ。
きっとティーダは暗いから俺はなにも見えてないと思っているんだろう。
なにしろ灯りをつけて抱いている時は必死に快楽に負けまいと顔を強張らせているのだから。

たぶん、表情を解けたものにしようとしないのは、男としての最後の維持か。
確かに、男に突っ込まれて気持ちよさそうにしているのとか……自分だったら嫌だ。

そんな顔したくもないし、見られたくもない。生き恥だと思っても仕方がない。
ティーダにだって矜持はあるし、けどそれを折ってでも俺と繋がることを受け入れてくれた。

それだけで満足だといえればいいのだか……そういかないのも男の性ってやつだ。
好きな相手をどろどろに解かして喘がせたい。
前後不覚になって、もうわからなくなって『気持ちいい』と、『もっと』と言わせたい。

そう思うのは間違ってないだろ。

俺は再び大きく溜息をつき、ティーダを見た。
ティーダは今度は不思議そうに小首を傾げて、やはり明後日の方向を向いていた。

「クラウド?どーしたんスか?」
「いや、ちょっとした困りごとだ」
「困りごとッスか?」

俺はティーダの横に寝転がると、まだなにも着けていないティーダをぐいっと抱き寄せた。
先ほどまで激しく動いていたから、ティーダからは汗の匂いがする。
けどそれがまた情欲を誘い、体が熱くなるのに笑った。

今までそんなに性欲があるほうだと思ってこなかった。
女に興味がないというほど不能な人間では無かったが、それでもこうしてティーダの傍にいると、
自らの興味の対象によってこうも違うのだということを知る。

「あははっ!クラウドくすぐったいっスよ」

そう言って身を捩るティーダに小さく笑い、後ろか抱える形でティーダを抱き寄せる。
胸に当たる温かい体温にが心地よくてこのまま眠ってしまいそうにだったが、ティーダがごそりと動いたのでまどろみかけた意識を引き戻した。
ティーダは俺に背を向けていた体勢をひっくり返すと、向かい合わせになり僅かに顔を上げた。
けれどやっぱり、その目は俺とかちあわない。

「なあ、クラウド?」
「なんだ?」
「困りごとってなんスか?」
「ああ。そのことか。たいしたことじゃない」

たいしたことないと言うが、自分にとってはそうじゃない。
中々に重大なことだ。
けれど、ティーダに向って、『お前の気持ちよくてだらしなくしている顔が見たい』などと言えるはずもない。
そんなこと言えば、ティーダが必要以上に顔を強張らせるのは目に見えているし……男のプライドを傷つけもするだろう。

「……俺にはいえないこと?」
「本当にたいしたことじゃないんだ」

そう言ってティーダをゆるく抱きしめれば、ティーダはぷくりと頬を膨らませた。
気に食わないと訴えているのがよく分かる。
けれど、それでもやはりティーダにはいえないことだ。
もし口を滑らせれば、この先見たい光景が見れなくなる可能性だってありえる。

「ちぇ。俺は頼りにならないってことッスかー?」

むっすりと膨れているティーダも可愛い。
俺のことを心配してくれているのも、力になりたいと思ってくれているのも可愛い。

俺は堪らず、ティーダの唇に近づくとそのまま食んだ。
突然のことに驚いたような顔をしたティーダだが、すぐに離れた俺に向って恥ずかしそうにして、そして困ったように笑った。
その表情が『困ったことだが嬉しいのだ』と伝えてくれて、俺も温かい気持ちになる。

……いや、そうではない。そんな微笑ましいものではないか。

再び湧き上がった熱に、俺は自分に対して呆れた。
あれほど突き上げて、熱を解放したというのに……全くもって際限がない。

俺はぎゅっとティーダを抱きしめると落ち着けと己に言い聞かせるが、そんなことで落ち着くようならそもそも熱くなどならない。
さてどうしたものかと思いながら、こつりとティーダの額に己の額を合わせれば、唇の端を掠めたものに驚いた。

「あ。外したッス。暗くて何も見えないから難しいッスね」
「……そうだな。何も見えない」

どうやらティーダはキスをしたかったらしいが、失敗したようだった。
当たったのは唇の端で、僅かにずれていた。
けれどそのことで本当にティーダは夜目が利かないことがわかる。
俺はこんなにも………ティーダの表情が見えているというのに。

「……俺、クラウドの力になるからさ。その…助けが必要になったらいつでも言えって。俺、頑張るからさ」

なんていじらしい、健気な言葉だろうか。
ティーダははにかみながら、その頬を徐々に紅潮させていく。
その様子にとうとう耐えられなくなって、俺はティーダに覆いかぶさった。

途端にティーダは驚いた顔をし、こんな関係になった初めの頃はただ不思議そうな顔をするばかりだったが今は違う。
俺が何を求めているのか分かっていて、そして困ったような、照れたような、でも嬉しそうな顔に……俺は笑うしかない。

ティーダは分かってない。
俺が、さっきからずっとティーダの百面相が見えているってことを。

「ティーダ。もう一度したい」
「えっと………う、うん」

ティーダはそう言うと、熱い溜息を漏らした。
そんな憂いのある顔も、可愛い。

「あれ?クラウド灯りはいらないんスか?」
「……いい。点ける時間も惜しい」
「でも…あっ……」

いつもなら確かに灯りをつけてしているが……よくよく思えば自分は夜目が利くから灯りがなくても構わない。
ただ、灯りを点けるとティーダの体が仄かな光に照らされてな艶やかさが増すからといった程度だ。

「うっ……あぁ……クラウド……」
「……ティーダ」

ちゅっと胸の飾りを吸い上げれば、ティーダは快感を受けて苦しそうに身悶えた。
その時の表情に、ああ、やはり灯りなんて点けなくて正解だと俺は思った。

ティーダは俺が見えてない。
けど、自分が見えないからって相手も見えてないと判断するのは早計だぞ。

まあ、教えてなんてやらないけどな。


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710の日。おめっとさんでございます。
末永く710よ爆発しろ。
bkm
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