「今日はオレ、こっちッス!!」
満面の笑みで腰に手を当てて言ったティーダに、呆気に取られたのはオレだけだった。
ジタンもバッツも普通に『おー宜しくなー』とか言っている。
バッツとジタンと俺で探索をするのは普通だが、そこにティーダが入ってくることはいままでなかったから。
ティーダから、あの保護者三人というか、兄貴気取り三人が離れることはないと思っていたから……。
「ティーダ」
「あ、クラウド。どうしたッスか?
「俺もこっちだそうだ」
そう言って現れたらクラウドに、今度は俺だけじゃなくジタンも呆気にとられたようだった。
バッツは相変わらずに、『おー宜しくなー』と言っている。
「……おい。人数が多いぞ」
心の中で『やっぱり保護者同伴か』と呟いて、とりあえず現状の感想をのべた。
このチームだけで五人。
ウォーリアとオニオンとティナのチームが三人。
……そうなればセシルとフリオニールの二人になってしまう。
まあ、あの二人の実力なら大丈夫だろうが……万が一がある。
「戦力はバランスよくしておくべきだろう」
俺がそう言うと、クラウド僅かに考え、頷いた。
そして不思議な色合いをする目を俺に向ける。
「では、スコールがセシル達のチームに行ってくれないか」
あんたが行けよ。
思わずそう言ってしまいそうだったが、俺はなんとか飲み込んだ。
恐らく、クラウドが俺に言ったのは自分との戦闘スタイルを考慮したからだろう。
俺とクラウドはこの中では戦いの型が似ている。
だから、クラウドの言い分もわかるが……そもそもあんたがこっちにこっちにこなけりゃいいんじゃないのか?
「だ、駄目ッスよ!」
慌てた様子でそう言ったティーダに俺たちは首を傾げた。
「俺、スコールと一緒のチームになりたくてこっちに来たんッスよ!スコールが向こうに行ったら意味ないッス!」
「なんだよティーダ。俺とジタンはどうでもいいのかよ」
「……ジタンとバッツは普段からも絡みあるじゃないッスか。
でもスコールとはなかったからさ。俺、スコールともっと仲良くなりたいんッス」
だから、こっちのチームと笑っていうティーダを俺は直視できない。
恥ずかしい。なんて恥ずかしいことを堂々という奴なんだ。
でも、そう思う一方で情けなさもあった。
俺がいくらそう思っても動くことなんてできずに、偶然を待つだけだったのに、こいつはそれをあっさりと自分の意思で掴みとるんだ。
消極的な自分が、酷く情けない。
「なら、クラウドが戻ればいいんじゃないのか?」
「それは無理だ」
ジタンの尤もな意見を、クラウドは簡単に却下した。
あまりの返答の早さに驚いたがクラウドは相変わらずの無表情だ。
「俺はティーダと行動するようにセシルに言われているから、一人では戻れない」
言外に、『俺が戻るならティーダを連れていく』と言われて苛っとした。
なんであんたたちはそんなに過保護なんだ。
「えー!なんスか!俺ってば信用ないんスか!?」
流石にティーダも不平の声を上げたが、クラウド『そんなことはない』と言えば、『ならいいッス』と笑う。
……なんだその全幅の信頼を寄せています……みたいな反応は。
「あー……じゃあ、俺があっち行くよ。俺とティーダなら空中戦のバランスも取れるだろ」
ジタンが頭を掻きながらそう言った。
俺が代われないなら、ティーダとの戦闘スタイルを考えたらジタンが妥当か。
バッツは万能型で、このチームの魔法の要だから外れられないからな。
「ええ!?ジタン、行っちゃうんスか!?」
おい。どうしろって言うんだ。
心の中でそう突っ込んでティーダを見る。
ジタンも俺と同様に困った顔をしていた。
「いや、スコールが行ったら意味がないんだろ?で、バッツはこっちの回復担当。……となれば俺が向こうに行くしかないだろ?」
ジタンは丁寧に、まるで小さい子供に言い聞かせるようにしてそう言った。
ティーダは説明を聞きながら、どんどんとしょげていく。
それは見事なほどのしょげかえりぶりだ。もし、ティーダに犬の耳がついていたらぺたりと寝てしまっているだろう。
「なんだよティーダ?ジタンとも一緒がいいのか?」
「そりゃ……ジタンとも一緒がいいッスけど……人数的に無理なのは分かってるッス」
バッツの言葉にティーダは僅かに顔を上げたが、すぐにそれは下に向いてしまう。
「んー……じゃあ、俺が行くか?スコールもクラウドも魔法は使えるっていったら使えるし……」
「おい、流石にそれは…」
「バッツがいなくなるのもいやッス」
俺の言葉を遮ってティーダがそう言った。
そしてその顔は困ったような笑顔で……ティーダは『ごめん』と言って頭を下げた。
「俺、やっぱり向こうに戻るッス。勝手ばっかり言ってゴメン」
「なんだよ、戻るのか?スコールと仲良くなりに来たんだろ?」
ジタンが慌てて止めるが、ティーダは頭を振った。
「俺の我が儘で三人がバラバラになるの、なんか嫌ッス。邪魔したいわけじゃなかったし」
「邪魔なんてわけないだろ?それに別に俺達だっていつも一緒にいるわけじゃないぜ?」
だから気にするなとバッツがティーダの肩を叩くが、ティーダはやっぱり首を振った。
「スコールと仲良くなるのは、次に合流するときにするッス」
「……行くぞ、ティーダ」
「うッス!」
『じゃあ、またな』
そう言ってティーダはクラウドに連れられて戻っていった。
遠くではセシルたちがいた。恐らく、俺達三人のうちの誰かが代わりに来るだろうと思ってまだ出発していなかったらしい。
ウォーリアたちの姿は見えないから、彼らはとっくに出発したのだろう。
……俺達も出発しなければ。そう思いながらも、視線はティーダの後ろ姿を追っていた。
どこか沈んだ気配をもつティーダの頭をクラウドが撫でている。
それを見て……少しばかり腹がたった。
普通にクラウドがついてこなければ良かっただけの問題じゃないのか?
そう思っている自分に、今の出来事はそれなりに残念だったのだと思い知る。
折角、ティーダが近寄ってきてくれたのに。
自分からは近寄ることが難しくて、いつだって偶然を待っているのに。
本当は偶然に身を任せるばかりじゃ駄目なのは分かっているが……俺はどうしても自分から一歩を踏み出すのが難しいんだ。
仕方ない。いつまでも未練がましくしていても何もならないとティーダから視線を外せば、ジタンとバッツが首を傾げて唸っていた。
「……どうしたもんかねぇ、ジタンさん?」
「……どうしたもんかねぇ、バッツさん?」
「……どうしたんだ?」
にやにやとした視線を送ってくる二人に俺は眉をひそめた。
この二人がこういう顔をするとろくなことがないこは色々と経験ずみなんだ。
またなんか悪ノリを始める予兆を感じ取って、俺はじりと距離をとる。
そうしたら、二人はがっちりと俺の両脇を固めた。バッツなんか肩に腕を回してきて、逃げにくい。
「どうしたって、ティーダのことだよ!」
「折角、スコールと仲良くなりたいって来たのにさぁ!」
それは仕方ないだろう。チームのバランスが取れなかったのだから。
ティーダの理論はよく分からないが、俺達三人がバラバラになるのも嫌なようだし。
俺たちは全然気にしないというのに……。
「ということで、どうする?」
「……さっさと出発すればいいだろう。ウォーリアたちはもう出発してるぞ」
「だぁあああ!!そうじゃないだろスコール!!」
俺がバッツの言葉にそう返せば、ジタンが大げさに頭を抱えた。
なんだよとジタンを睨めば、バッツまでもがジタンに同調するように頷く。
「そうだぞスコール。折角、好きな子が『一緒にいたぁいv』って来たのにいいのか?」
「良くない!好きな子からのアプローチを無下にするなんて男のすることじゃないぜ!
レディに……ティーダはレディじゃないけど、曲がりなりとも惚れた相手だろ?悲しい顔させたら駄目だ!!」
言い聞かすように言ったバッツと力説するジタンに俺は絶句した。
そして……きっと今の俺は顔面蒼白だ。
「……な、なにを……」
なにを言うんだ、というか……なんで知っている。
俺は誰にも知られてないと思っていたのに。
いや、百歩譲ってジタンにばれていたとしよう。
こいつはそういう話が好きだし、周りを見るのが得意な奴だし。
けど……バッツにまでばれているのは納得できない!
ジタンが気づいてバッツに言ったのか!?
「なんで知ってるかって?そんなのスコールと一緒にいりゃ分かるぜ!いっつもティーダ見てたもんな!」
「……そうかあ?俺はバッツに言われるまで気づかなかったけどな。
……まあ、言われてみればティーダのことよく見てるなと思ったけど……」
「ジタンはそもそも男が男を好きになるって概念がないから気づかなかったんだろー?」
「仕方ないだろ!そういうのがあったとしても身近にあるとは思ってなかったんだから!!」
そう言い合う二人に、俺は蒼白だった顔が紅潮していくのを感じ取った。
俺はきっといま、耳まで真っ赤だ。
ばれてないと、誰にも知られてないと思っていたんだ。
俺自身も男なんてなにかの間違いだと思っていたんだ。
けど、気になるし見てしまうし夢にまで出てくるし。
これはどうしようもなく、恋なのだ。
けど、どうしようもない恋なのだ。
「……スコール、まじでティーダのこと好きなんだな」
しみじみというジタンに俺はなにも言えなかった。
自分の好きな人を他人に知られたらどうすればいいのかなんて授業で習ってない。
「で?スコールどうする?ティーダと一緒にいかなくていいのか?」
「行くもなにも、チームは別々……」
「お前が向こうにいけばいいだろう?」
あっさりとそう言ったバッツに俺は驚いた。
……俺が、こっちを外れて向こうに行くのか?
「そうそう。ティーダは俺達の邪魔を自分がしたくないからって戻っただろ?
ならこっちから行けばティーダが気にすることはないじゃないか」
ジタンに『ほら行けよ』と背中を叩かれる。
気づけばバッツの腕は俺の肩から離れていて、俺は衝撃で一歩を前に出た。
正面にはティーダたちのチームが集まって話をしていた。
きっともうすぐ出発するだろう。このまま何も動かなければ、ティーダに会うのは数日後だ。
……運が悪ければ、会えなくなる。
どうすべきか。
俺から行くのか?
向こうの奴等になんて思われるか。
そんな風に悶々と考えていたら、遠くにいるクラウドがこちらを振り向いた。
一瞬だけ、目があった気がしたがクラウドは俺なんて興味ないといった様子で顔をティーダに何事かを囁いた。
その様子が……仲睦まじく見えて俺はぐっと拳を握った。
「何もしない奴に、嫉妬する資格はないぞ」
ジタンの言葉が耳に痛い。
確かに自分からは何もしないのに、クラウドに嫉妬するなんて情けないだけだ。
「んじゃ、また会おーな!」
「あ!誰かこっちに寄越してくれよー!」
ジタンとバッツに手をあげるだけで返事をして、重い足を前に出した。
向こうでは、俺が近づいてくるのに気づいたセシルが他の三人に何かを言っている。
そしてすぐにティーダは体ごと振り返って俺を見た。
「……今回は、こっちに入れてくれ」
そう言ったときのティーダの笑顔は眩しくて、太陽を見上げたような気持ちになった。