小説 | ナノ
二文字の境界線6−1


「スコール以外、コスモスの戦士はやられちゃったッスよ」
「さっき聞いたぞ」
「ははっ……スコール普通ッスね」
「そんなわけあるか」

スコールはぶんと剣を振るので、俺は反射的に後ろへ引いた。
ああ、いや。引く必要ないじゃん。
けど、ただ単純にやられるのもなんだよな。

……スコールには悪いけどさ。もう、ここからはでることないんだろうし。
コスモスの戦士はスコールを除いて全滅。
カオスの戦士はほぼ健在ときたら、スコールがこの次元城から逃げられたとしてもどこへ行くんだ?
どこへも行けないだろ。

「折角手当てして、返してやろうと思ってたけどさ。悪いな」
「別にお前のせいじゃないだろう」
「いや?俺もカオスの戦士ッスからね。現にさっきもスコールの仲間を倒してきたわけだし」
「……ジェクトか」
「そうそう」

俺は痛む足も気にせずにスコールへと間合いを詰めた。
ギィンと剣先がぶつかる音が響き、連続で打ち合う。
やっぱり俺のほうが劣勢で、僅かに押されているが……そもそもスコール、本気じゃないだろ。

「おい!本気で来い……よっ!!」

宙返りして空中から蹴りを入れた。
スコールの肩にヒットしたけど、スコールは衝撃に逆らわず後ろに身体を引き、そのまま体勢を整えて俺に突っ込んできた。

「っ!?」

素早い連続攻撃を、切っ先でなんとか弾くが剣筋に意識を持ってかれすぎて真横からきた回し蹴りに反応し切れなかった。
見事に横っ腹に辺り、身体が吹っ飛ぶ。
痛いと思うけど、これくらいじゃ死にはしない。ちょっと立つのが辛いけどな。

「……っ……わっ!!」

足に力を入れて立とうとしたら、後ろから圧し掛かられて床に沈む。
見上げればスコールが俺に馬乗りになってて、ガンブレードの刃先が俺の首の真横にあった。

スコールは真剣な目で俺を見下ろし、眉間の皺をさらに深くする。
俺は圧迫される腹が、ずきずきと痛むのに顔を顰めたが、スコールはどいてくれる気配はなかった。

「スコール。痛いッス」
「聞きたいことがある」

俺の言葉は無視ですか。
まあ、正直もう立ち上がる気力も体力もないんだけどな。
一回地面に寝転ぶともーう無理。起き上がれない。

「……なんスか?」
「ジェクトは父親なのか?」
「……まあ、そうッス」
「なぜ倒したんだ?」

まるで素朴な疑問といったように聞かれて、俺は驚いた。
普通、親子で殺しあうような状況の奴にそんなあっさりと『今日の夕飯はなんだ?』みたいな感じに聞くものだろうか。

「……なんでって……親父はコスモスの戦士で、俺はカオスの戦士じゃないッスか」
「そんな勝手に決められたことで、お前は父親を倒せるのか?」
「………いや、スコールが思ってるほど、親子仲は良くないって」
「嘘だ。コスモスやカオスという立場にこだわる人間ならば、俺を助けたりなどしていない」

圧し掛かられたまま、頬を撫でられてびっくりした。
なぜってその手つきが凄く優しかったからだ。

俺が泣いて、抱き寄せられたときみたいに優しい手つきに俺はなぜか心臓がどくどくと高鳴る。
ええ、と?なんだよこれ?どうなってんだよ俺の心臓。

「……いや、それはまあ……気まぐれッスよ」
「あと、今気がついたがお前は具合が悪いことに対して返事をするときに目が泳ぐな。嘘は下手だろう」

淡々とした指摘に、俺はぐっと息を詰まらせる。
そりゃー図星指されたらなんとも居心地悪いだろ?
だからますます目が泳ぐのが自分でも自覚できた。だから気合でなんとかスコールの目を見てやったけど……。

うわっ。くっそ……ガン見してんじゃねぇよ!!
俺は結局、スコールから目を反らした。俺と違って迷いのないスコールの目が苦しい。

俺だって、俺だってもっと前はこんなんじゃなかったのに。
いつの間にか怖がるようになって、前みたいにがむしゃらに走れなくなった。

勢いが大事っていうのは分かってるのに、俺はどうにもこの世界ではノることができない。
水から放り出された魚みたいに、ぱくぱくと口をあけて喘ぎ苦しむ。

ときたまに水を掛けられたり、水につけられて、また放り出されて。
そんな感じにかろうじて生かされてる俺は、もう自分の好き勝手に泳ぐこともままならない。

「………なあ、なんでお前はカオスにいるんだ?」
「なんでって」
「その……ユウナと、仲間だったんだろ?だったら、なぜカオスにいるんだ」
「………なぜって……そりゃあ……」

そんなの俺が聞きたい。
そんな風に思ったけど、本当は答えは知っていた。

俺がなんでカオスに召喚されたのかってこと。
カオスに召喚される奴も、コスモスに召喚される奴も、それなりに理由はあるんだと思う。

ユウナはコスモスに。
俺はカオスに。

クラウドもクジャもカオスに。
スコールは……よくわかんないけど、こうして俺を迷いなく真っ直ぐ見つめてくるところを見ると、俺やクラウドたちとは違う。


自分に、負い目がないんだ。


「俺がカオスに召喚されたのは、俺が悪い奴だからッスよ」
「そうはみえない」
「でも、本当ッス。俺は……俺の都合で、何百万人の人間を消したんだ」

そう言った瞬間、スコールが驚いた顔をしたから……俺はなんだか無性に笑いたくなった。
そんなに意外なのか?

いや、クジャにも言われたけどさ。『へえ、意外に悪どいね』なんてさ。
別に俺だって……やりたくてやったわけじゃないけどさ。

けど、言い訳はしない。
俺はユウナや、仲間の住む世界を……スピラを守りたかったから。
だから自分の故郷を壊したんだ。
あそこにはチームメイトも俺を応援してくれたファン達もたくさんいたけど。
それを全部、『夢の塊だ』ってことにして、全部壊した。

その選択を俺は……後悔してない。
でも、心苦しさとか俺が壊したんだって思うとぐるぐるして。

「俺は、自分の好きな奴等のために大勢の奴等を犠牲にしたんだ。あいつら自体は……なにも悪くなかったはずなのにさ」

いや、どうだったんだろう。
ザナルカンドは存在するだけで悪だったのか。
俺だって、ザナルカンドで17年間生きてきたけど、俺が育つための時間のために、いったいどれほどのスピラの人たちが犠牲になったのか。

ぐいっと頬を指で拭われて何事かと思ったが、どうやら涙が流れてたらしい。
そんなつもりなんて全然無かったから、無意識のうちに流れたのかと驚いた。

「悪だというのに泣くのかお前は」
「……うるさいッスよ。これは涙じゃねーし。ほら、あれだ。あのー……汗だよ汗」
「苦しい言い訳だな」

スコールはそう言うと俺の上から退いた。
そういえばいつの間にか首の横にあった剣も取り払われている。

俺はぼんやりとスコールを見て、圧し掛かっていて近くにいたのに、遠くにいくのを、離れていくのを見て、堪らず口をついた。

「殺してくれよ」

俺の言葉にスコールは眉間の皺をさらに深くした。
突然の言葉に苛立たしさを感じたのか。でも、俺達の立場から考えたらなにもおかしいことないだろ。

コスモスの戦士はカオスの戦士を。
カオスの戦士はコスモスの戦死を。

互いに殺し合うのが、この世界におけるルールだ。
しかも、確実に終わりを望むのはコスモスの側だろ?

カオスが勝っても延々とこの世界の輪廻は続くけど、コスモスは一回勝てば終わるんだ。

「もう、俺飽きたんだよ」
「飽きた?」
「この世界に居続けるのが、飽きた」

ユウナを見殺しにして、親父を数えるのが面倒なくらい倒して。
俺を含めて三人でこの世界に存在し続ける。

それだけでいいけど、それさえあれば俺はずっといいと思ってたけど。

「前に、スコール聞いただろ?なんで助けたってさ。………俺がスコール助けたのは終わらせたかったからだよ」

本当はうんざりしてたんだ。
好き勝手なことしてる癖に凹んでる自分が。

自分が自分らしくいられない。
けど、これも間違いなく自分で。

考えるのも嫌だ。
なんでこんな世界に召喚されて、期待もたせるような事すんだよ。
俺は、もう一人きりでずっと夢も希望もない場所にい続けたかった。

それくらいしか、俺にできることなんてなくてそれで良かったはずなのに。
だってほら、俺が消した連中に顔向けができねーじゃん。

そう思ってる癖に自分がやりたいようにやって、そんで凹んで。
もう、自分じゃ決着つけられないんだ。

劇的になにかが変わらない限り、俺はもうどこへもいけない。


「なあ、スコール。俺のこと殺してくれよ。
本当はさ、コスモスの戦士のところに戻して……コスモスが勝つのを待ってたかったけどさ。
でも、もうスコール一人きりだし。……俺を終わりにしてくれよ」

復活もしなくていい。
また復活したら悶々と悩まなきゃなんねーしさ。

だから、思いっきりやってくれて構わない。

「ふざけるな」

短い言葉が聞こえたと思った瞬間、俺はぐいっと腕を引かれて身体を起した。
目の前にあるスコールの顔に、青い目に、俺は目を奪われて正直何が起こったのか理解するのに時間がかかった。

「んっ………」


歯列を撫でられて、ピントがボケるくらいの近さにるスコールの顔を見て、俺はキスされてるとわかった。

その突然の事実と今までの展開を丸無視したようなスコールの行動に俺は驚いて口を開けてしまった。
そうしたら歯を撫でるどころか舌を思いきり吸われた。
舌が絡む水音と、掻き抱くようなスコールの腕の力に頭がボーッとする。
いや、単純に酸素不足かもしれないけど、肺活量に自信がある俺なのにさ。

「ん……ふ……す、スコール……」
「……ティーダ……」

甘く囁かれる声と温かい腕。
その心地よさに俺は『やっぱり』と思った。

クラウドに抱きしめられた時の温かさと囁かれる声と違う。
クラウドには悪いけどさ、すっげー違和感があったんだよ。

俺はするりとスコールの首に腕を回せば、スコールは僅かに体を強張らせたと思ったらがばりと俺に覆い被さるようにしてきた。

なんでこんなことになってんだってことは一先ず置いといて、俺は夢中でスコールに応えた。
温かい舌が気持ちいい。撫でられる背中も、呼ばれる名前も俺の弱っちい涙腺を刺激してくる。

「ティーダ……」

スコールは涙がこぼれる俺の頬を唇で拭うと、ゆっくりと俺を離した。
向かい合った状態で座り込んで、俺はスコールを見た。

んで、次の瞬間―――――――。

スッパァアアアン

小気味いい音がしたと思ったら俺の頬が熱かった。
ひっぱ叩かれたと理解して何事かと思えば、スコールはすっごい不機嫌な顔をしてる。

「甘えるな」

なんのことだと思って、さっきの空気とかムードとかどこ消えたと思いながらスコールを見る。

「終わりを望むなんて甘ったれるな。終りたくないのに終わってしまった奴等がどれだけいると思ってる。
ユウナだって、ジェクトだって、終わりを望んだりしてなかっただろうな」

そう言ったスコールに俺は『違う』と言いたかった。
ユウナも親父も終わってない。
今回の戦いが終わればまた復活するよ。

ああ、でも他の奴等は分からないな。
もしかしたら復活の余地もなくやられた奴もいるかもしれない。

「しかも終わりたいからって俺に押し付けるな。迷惑だ」
「でも……俺は混沌ッスよ。いつかは倒さなきゃいけないだろ」
「そんなの知るか」
「いや、何言ってんスか」
「俺を助けたお前がいうな。俺は、コスモスもカオスも関係なく心はあるとお前に教えられた」


するりと首を撫でられて、擽ったくて僅かに竦める。
そうしたら、スコールはちょっと可笑しそうに笑った。

ああ……。
スコールも笑うんだ。

「カオスが倒されるのを待っていたんだろ?なら、待つだけじゃなく自分でやれ」
「……自分でッスか?」
「そうだ。このまま混沌にいるか、俺と共に秩序にいくか。お前が選べ」


スコールのその言葉に俺は体が震えた。
ずっとずっと忘れていた感覚。

状況に流されるだけじゃない。
目の前にあるのが絶望でもそれに抗って希望へと向かうときの……あの気持ち。

「選べ、ティーダ」


スコールから差し出された手が絶望への片道切符だろうがなんでも良かった。
俺は頬の筋肉があがるのを感じて……スコールの手を取った。
bkm
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