小説 | ナノ
ホップ・ステップ・ジャンプA
好きだといわれて、相手を受け入れなければ側に寄ることもないのは知っていた。
知っているというか、実経験だ。

中学時代にさんざん好きと毎回違う相手に言われては、『あんたのこと、好きでもなんでもない』と答えた。
事実、相手に感想を持ったことがない。
なにしろ話したこともない相手だ。クラスメイトならまだいいほう。
名前も顔も知らないやつから『ずっと見てました。好きです』と言われて、『あんたに俺の何がわかる』と言いたい。
いや、言ってきた。

俺のことなにも知らずに好きになられても困る。
そうして俺はそんなこといってくる奴を視界の端へと追いやった。
もうみたくもなかった。
勝手に人に理想を押し付けて、そんな一方的な期待をしょいこまされて堪るかと、俺はそいつらを自分の意識から追い出す。
関わらない、目もあわせない。

そうやって俺を好きになったやつらを全部排除して俺はやって来た。
好きと言われても、そいつのこと好きじゃなきゃ、もう相手とはいられない。
気まずさと勝手に好きという感情を持った煩わしさ。

近寄りたくない。なかったことにしたい。

だから俺はなんにも言わずにこうして一年以上の歳月を過ごしたんだ。
相手に想いを告げても、受けいてもらえなかったら一緒にいることもできなくなるとわかっていたから。


ティーダと出会ったのは高校に入ってからだった。
中学時代は散々告白されては振ってきたため、男女に関わらず、人間関係が最悪だった。

男の嫉妬とか、裏切られたとなく女とか。
俺は自分の考えるままに行動したのになんでそんなめにあわなきゃならない。

高校ではそんな目にあいたくないと人にそもそも関わらないようにしようと思って一人でいたらティーダが寄ってきた。
ティーダは初日からクラスの真ん中にいて、あっちこっちから人が寄ってくるような奴だった。
その姿に、俺とは種が違う奴で絶対に折り合いが悪いと感じた。

そうして俺は高校で一人で過ごしていたが、ある日ティーダが俺の側に寄ってきた。
確か体育の時間で、誰かとペアを組まなければならなかった時だ。
こういう教師の好きな相手とペアを組めという瞬間が嫌いだった。
そういう相手が必ずいると信じているのが馬鹿馬鹿しい。
俺は余った奴とでいいかと思いながら、そもそも余るのは俺だろうと理解しながらどうすることもしなかった。
その時、ティーダが俺の手を掴んだんだ。

『俺、スコールとペアー!いえぇーい!早い者勝ちッス!!』

そう言ったティーダに俺は驚いたけど、ペアができたのだから拒否する理由もない。
今回限りと思っていたのだが、ティーダはその体育の時間中にひっきりなしに喋った。
俺の趣味とか、好きな食べ物か得意教科とか質問しては自分のことも話す。
なんだこいつと思ってる間に授業は終わり、解放されたと思ったのにそれからしつこく俺に寄ってくるようになった。

昼休み勝手に俺の前に座って食べて、放課後は一緒に帰ろうとついてくる。
しかも方向もほぼ同じだったから逃げるのが大変だった。

もう関わりたくない。
ティーダみたいなそもそも俺と種が違うような奴とは特に。

そうして寄ってくるティーダを避けるようになり、俺はたまたま聞いてしまった。
クラスの連中がティーダに忠告しているのを。

『おい、ティーダ。いい加減スコールを構うのやめたらいいんじゃないか?』
『なんで』
『ひとりが好きなんじゃねーの?』
『なんでそう思うんだよ?』
『だってよー。あいついつもひとりじゃねーか。スカしてるしさ』

放課後、ノートを忘れたのに気づいて戻ってきたのだが、最悪なタイミングだった。
言われ慣れているが、気分のいいもんじゃない。
俺は面倒くさい。これだから嫌なんだ。
俺のことをなんにも知らないくせに勝手に決めつけて話す。

『お前、スコールとまだ話したことないだろ。勝手に決めつけるなよ!』

ティーダが言った言葉に驚いた。
そんなことを言うとは思ってなかったからだ。

『まあ、俺だってまだスコールとちょっとしか話してないけどさ。
きっと仲良くなれるッスよ!その為にももっとスコールのこと知らなくちゃな!』


そこ言葉を聞いて、俺はその場からそっと逃げ出した。
恥ずかしくてもういられなかったんだ。

何が恥ずかしいって、俺自身がだ。

他人に人のことを勝手に決めつけるなと思って、その実、自分も同じだったことが恥ずかしい。
ティーダの馴れ馴れしい態度に、勝手に種が違うとか、俺とはあわないとか勝手なことを言った。
向こうは俺のことを知ろうとしていたというのに。

知らずに人のこと語るなと言いながら、誰も近寄らせず知らせようともしなかった。
なのに知ってほしいとか、分かってもらえないなら別に誰とも関わらないとか。

恥ずかしい。

結局俺は忘れ物のノートを回収することも、そもそも課題のことさえも忘れてしまった。
翌日になって気づいたけどもう遅く、放課後にプリントをやって提出するように言われた。
でも、たまたま……というか常習だが、ティーダも同じく課題を忘れていので、放課後はティーダと二人きりにならざるをえなかった。

そのことに気まずさを覚えたけど、ティーダは昨日の話を俺が立ち聞きしていたことなんて知らない。
いつも通り、俺に寄ってきて『プリント、手伝ってほしいッス……』なんて言って。


「………」


俺は携帯に届いたメールを見ながら、駅の外壁に寄りかかった。

『あとひと駅で着くッス(^з^)-☆』

メールの文面を見て、時計を見て映画の上映時間に十分間に合うことを確認する。
今日はずっとティーダが見たいと言っていたアクション映画を見に行く予定だった。
この前までテストがあったし、ティーダと会うのはしばらくどっちかの自宅が多かったから、
こうして外に出掛けるのは久しぶりといえば久しぶりか。

家は二駅ほど離れているが、定期圏内。
だから迎えに行くと言ったのだが、ティーダは待ち合わせをしようと言ってきた。

『そっちの方が、デートっぽいだろ?』

そんな風にいたずらっぽく言われ、俺は強く反対する理由もないので了承したが……。
なんとなく、『デートっぽい』といわれた言葉を思い出して気恥ずかしくなる。

ティーダに抱え続けた想いを伝えたのはほんの一月前だ。
正直、伝えてしまって避けられるのを、もう一緒にいられないのを危惧して伝えることなどないと思っていたが……。
ティーダに2度彼女が出来て、それを報告してくるたびに嫉妬心を抑えるのに苦労した。

幸い、彼女が出来ても長く続くことはなくて、最後は『やっぱりスコールと一緒にいるほうが楽しいッス』と言ってくることがどれだけ嬉しかったか。
まあ、そんな風に思ってたことは伝えなかったけれど。

ティーダに伝えたのは、『お前が好きだ』という気持ちだけ。
どれだけ鬱屈した感情を持て余してきたかは、ティーダが知る必要はない。

「スコール!待たせたッス!」
「いや、気にするな」

聞こえてきた声に振り向けば、走ってきたのか僅かに息を切らしたティーダがいた。
時間は十分あるのだから、走ってくることもなかっただろうに。

「昨日、テレビでブリッツの試合やっててさ。みてたら寝るの遅くなっちまった」
「何時に寝たんだ?」
「2時過ぎくらいかなー」

そんなことを言いながら、俺達は人ごみの中を歩き出した。
休日の繁華街は、人が多い。

この繁華街は若い奴等が多く、男女の組み合わせも多かった。
恋人同士なのだろうかと思いながら、行きかう男女の姿をみる。

笑いあいながら行きかう男女の中には、手を繋ぎあってる奴等もいた。
その様子を見て、自分とティーダのことを思う。

俺達も関係としては恋人同士だが……外で手を繋ぎ合う様なことはしない。
間違いなく奇異な目で見られるだろう。
そんなの御免被りたい。


「映画まであと何分だっけ?」
「あと15分だな」
「んじゃ飲み物となんか食うもん買おーぜ」

映画館の売店で、そう言ってコーラとアイスティーを買う。
ポップコーンは塩とキャラメルのどっちにするかと悩むティーダに、『両方買えばいいだろ』と言った。

笑って『そうする』といったティーダはいつもどおりだ。
出会ってからいつも通り。

なにもやましいこともなかった関係のときから変わらない笑顔。
学校や、外にいると『俺達は恋人という関係だったか?』とたまに思う。

それくらいティーダは普通だからだ。

手を伸ばして、受け入れられて。
それが事実なはずなのに、俺がいまいち信じられないのは俺ばかりがティーダに執着しているからだろうか。

ティーダは俺の気持ちに応えてくれたけど、いつか離れていくような気がしてならない。
それは多分、俺が傍からいなくなるのが嫌だからとティーダが言ったからだろう。

『惚れさせてくれよ』

そう言ったティーダは、本当に俺を好きなのかどうか。

一緒にいるために都合のよい勘違いをしているんじゃないだろうか。

勘違いに気づけば、俺から離れていくんじゃないだろうか。

そんなことをこうして以前と同じようにしていると考えてしまう。
だから最近は、ずっとどちらかの家にいた。
人の目がなければ、俺は我慢しないでティーダに手を伸ばせる。
抱き寄せて、触れて、キスして。

ティーダがずっと勘違いしていればいいと思って。

「スコールは塩しか食べないだろ?こっち持って」
「ああ」

ティーダから塩味のポップコーンを受け取り、指定の座席に座る。
映画のCMが始り、辺りは徐々に照明が落とされていく。

「楽しみだな」

ぼそりと小声でそう言ったティーダの声はいつも通りだ。
俺は暗い気持ちになるのを堪えて頷いた。

「……ああ」

ティーダと一緒にいて、勝手に暗い気持ちになるのが嫌だ。
勝手にティーダの気持ちを決め付ける俺が嫌だ。

人のことを決め付けないでと、もう知っているはずなのになかなか実践するのが難しい。
知りたければ聞けばいい。
ティーダに、『俺が好きか』と聞けばいい。

けど、そんなことを聞くのは俺らしくもないし、聞かないと分からないという自分が格好悪い。

矛盾している。
ティーダに触れていれば、こんな暗い感情は呼び起こされないのに。
そんな風に思いながら、ポップコーンに手を伸ばそうと思ったら………。

「………」
「………」

映画の上映がもうすぐ始る。
暗い館内にいる客達はスクリーンに目が釘付けだった。

だからきっと、誰が何してようとひっそりとなら誰も気づかないだろう。


そっと握られた右手。
力を込めて握り返せば、一瞬だけびくりとしたけどすぐに力が抜けた。

温かいその手に、俺は安堵する。

触れるだけで、信じられる俺はなかなかに単純なのかもしれない。

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ポップコーンが食べられないね。
bkm
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