小説 | ナノ
おまけ


『来てくれてありがとう』
「気にすんなよ」

ごぼりと口から空気が漏れたけど、俺は確かに言葉を発せられた。
飛び込んだライフストリームの中は前と違って少しだけ嫌な感じがした。

前はひたすら温かくて、気持ちがいいなと思っていたんだけどな。
そう思いながら、目の前に紫の衣を着た祈り子を見た。

『皆……想いに反応して魔物になっていってしまったんだ』
「あ。やっぱりそうなんスね。上にも幻光虫がたくさんいたけど……この世界には異界送りってないのか?」
『ないよ。召喚士がいないからね。……似た人たちがいたけど、みんないなくなってしまった』

そう言った祈り子に、俺は『そっか……』と漏らした。
異界送りができないなら、溢れる想いはどこに行くんだろうか。
どこにもいけないから……魔物になっちまったのか。

それって悲しいなと思い、俺は上を見上げた。
ライフストリームの外には、異界にいかれない想いが漂ってる。
どうにかならないのかな、そんな風に思いながら祈り子を見たら、祈り子は俺の考えを分かっているのか……。

『だから君を呼んだんだ』

そう言った。

「……俺ってまた、祈り子たちに夢見てもらってるのか?」
『違うよ』
「あ、そう……」
『君はたまたまここに来た。そして僕はたまたまここにいた。……この泉の底を見てごらん』

祈り子の言葉に、俺はもっと下のほうを見た。
ライフストリームの底に、赤く光る召喚石のようなものがある。

俺はぐっと弾みをつけてそこまで潜ると、赤く光るその石を拾い上げた。

『それが僕だよ』

そう言った祈り子に、俺は驚いたが……まあ、召喚石みたいなものなのかなと納得しておいた。
いちいちそんなことに驚いていたら俺達みたいな存在はやってられないだろう。
どんなのでもいいんだ。ここにいられればそれで。

存在することが全てだ。

『きっと君もどこかにあるよ』
「……それって、俺を呼び出すための……こんな召喚石があるってこと?」
『たぶんね。……誰が呼び出してるんだろうね。君が勝手に出てきてしまったのかもしれないね』

随分とテキトーなことを言うもんだ。
そんな風に思ったが、『寂しいから、僕を連れて行ってね』という祈り子に任せろと親指を立てる。
ここがスピラじゃないせいか、悲劇を知りながらも夢を見続けなければいけない責務から解き放たれたせいか。

この祈り子の少年らしさに触れた気がして少し嬉しい。
まあ、この少年は見かけによらず、召喚獣としてはごっついわけだが。

「それが頼みごとッスか?」
『違うよ。さっき言っただろう?だから君を呼んだって。……頼みたいのは幻光虫のことだよ』

そう言った祈り子は両手を広げる。

『ここは、異界なんだ』
「……は?」
『ライフストリームと呼ばれるここは、僕達が呼ぶ異界という存在と同じものなんだ。
だから、幻光虫たちをここへ呼んであげればいい』

さらりと言われた言葉に、俺は頭を掻いて首を傾げた。
だって、頭がグルグルするだろ!?

ここが異界だとか、幻光虫を呼べばいいとか。

「ここって異界なのか?」
『異界はそもそも。想いが詰まる場所なんだよ。グアドサラムにあった異界は、想いにもっとも近づける場所に過ぎない。
ここは想いたちが集い、星に還る入り口みたいな場所なんだ』

分かるような分からないような。
とにかく、ここに幻光虫を連れてくればいいんだろ?
でも、そんなことどうやってやるんだ?

「召喚士って……いないんだろ?どうやって異界送りするんだ?」
『君が……おいでって呼べばいい。そうしたら皆きっと来る』
「ええええ!?なんでッスか!?」
『異界送りは祈り子と交信できる才を持つものができる能力だ。……その力を持つのが召喚士。
でも君は、そもそも僕たちと同じ様な存在だ。だからきっと、呼べば来てくれるよ』

分かるような分からないような。
でも、やってみて成功したらそれでいいか。
そんな風に思って上を仰ぐ。

地上への入り口は遠くて、声が届くのかも不安になるが………。


「おーい。こっちッスよー!」

そうやって声を掛ければ、入り口の辺りがぼんやりと光った気がした。

「こっちこっち!皆こっちに来るッス!」

どんどんと集まる光。
それに反応するかのようにライフストリームも光りだす。

「魔物になりたくないだろ?だからさ、こっちに来いよ!」

目の前に光が溢れてくる。
これって成功しているのかと祈り子を振り返れば、なぜだか分からないが姿がさっきよりも薄まっている。

「あ、あれ?どうしたッスか?」
『ごめん。もうあんまりお話できないんだ。石に戻らなくちゃ。僕は君みたいに……長く外にいられないんだよ』

そう言った祈り子に、俺は手に持っていた召喚石を見た。
そういえばこの召喚石、異世界で見たものより小ぶりな気がする。
そんなことが関係しているのか分からないけど……。

『最後にもう一つ。お願いがあるんだ』
「なんスか?」
『僕を召喚して、この底を突き破って欲しいんだ』

意味が分からず、首を傾げる。
底を突き破るって……どういうことだ?

『本来ライフストリームは一つに繋がっているものなんだ。
けど、ここは天変地異の影響でライフストリームが分断されてしまったんだ。
ライフストリームが星の中心から切り離されれば、幻光虫は星に還れない。
だから……このままじゃこのライフストリームに戻ってもまた外に出て行ってしまう』

「そうしたら……魔物になっちゃうってことッスか?」
『うん。だから、この底を突き破ってライフストリームを一繋ぎに戻して欲しい。
 僕も切り離されてしまって……君が来てくれてよかった。後は頼んだよ』

そう言うとそれきり祈り子は消えてしまった。
残ったのは俺の手の中にある召喚石。

ここに祈り子はいるのだろうかと思うが……全然分からない。
でも仄かに温かい召喚石に、確かになにかがいるのだということは分かる。

「………そろそろ戻らないとな。クラウドも待ってるし」

分からないことだらけだ。
祈り子に色々と教えて貰ったはずなのに、全然成果を感じられないのは俺が頭悪いからか?

とにかく分かったのはここが異界で、幻光虫はここに呼んでやればいいってこと。

「それだけ分かればいいか。んで、どうやって床を破壊するんだ?こいつを召喚すればいいのか?」

持っている召喚石を見て、床を見て。
俺は首を傾げた。

ユウナはどうやって呼び出していたんだろうか。
召喚石の使い方は異世界にいたときと同じでいいんだろうか。
とりあえず、来い来いと思えば来るんだろうか。


「んー……。ま、やって見るッス!できなかったらクラウドに相談!」

俺は気楽に構えると、召喚石を目線に持ってきて覗き込む。
赤い色がきらりと光った。

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そしてどっかーんとバハムートがでてくることになる。
補足終わりました。
無花果様。
補足ですので、お持ち帰りもオッケーです。
bkm
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