小説 | ナノ
二文字の境界線3
混沌の戦士も様々らしい。
ベッドに沈んで4日くらい。俺はそう思った。

目の前ではカードゲームに興じている混沌の戦士が二人。
一人はこの部屋の主であるティーダで、もう一人はカードを持ってきたジタンの敵だった。
確か名前はクジャだ。そいつは行きなり部屋にやって来たと思ったら、『暇だからカードをやろう』とティーダに言った。
ティーダも抵抗なく受けれると、説明なくカードを始めたことからこのやり取りが別に初めてのことではないのだろう。
こんな馴れ合いが混沌の戦士にもあるのかと物珍しさで見ていたら、クジャはこっちをちらりと見た。

それまで、クジャはこの部屋に入ってきて、俺のことをちらりとも見ていなかった。
コスモスの戦士がいるのを不思議に思わないのかと言いたかったが、藪をつついて蛇を出す気はない。
武器は取り上げられていないが、まだまだ全快には程遠い自分の体だ。
ここでやり合えば、クジャは避けれても他の連中との交戦までは耐えられない。
……それにここで騒いで見つかれば困るのはティーダだろう。

コスモスの戦士を匿ってお前は大丈夫なのかと聞いたことがある。
その時ティーダは困った顔をして、『皇帝様は……裏切り者って言うかな。
アルティミシアとエクスデスがグレーゾーン。あとは平気……だと思うけど』

要するに、ティーダの行動は混沌の中では諸手をあげて歓迎されることではないのだ。
それはそうだろう。コスモスの戦士だって混沌の戦士を助けようとはしない。
しようとしてもウォーリアやライトニングが許さないだろう。そして、俺も許さない。

そんなコスモスの戦士でも非常識と言えることをするのは混沌の戦士ゆえなのか。
ティーダは相変わらず俺を献身的なくらいに面倒を見た。
その理由はいまだ知れない。
俺はやはり人質に使われているのか。
けどそう言った時のティーダの顔が心外だという様子で、善意からの行動だとしたら確かに人質としているのかという考えは失礼だろう。

……けどティーダは混沌の戦士だ。
俺たちの言うところでは悪の存在だ。
そう思われても仕方ない行いをしてきたティーダに非があるんじゃないのか。

そこまで思って、俺はティーダが何をしたのか知らないことに気づいた。
混沌の戦士だから、アルティミシア同様に世界に災いをもたらしたのだろうと無意識で決めつけていたが、今までのティーダの話し方、行動にそんな雰囲気を微塵も感じなかった。

なにしろ、初めてティーダを見たときはコスモスの戦士だと思ったくらいなのだから。
それはコスモスの戦士を助けたのだからということもあったが、ティーダの纏う空気は混沌の戦士と思えないくらいに清浄なものだった。

だから俺は、ティーダを見たときにコスモスの戦士だと思ったのだ。
今もまだ不思議だ。俺の体を気遣い、手当てをし、早くよくなるといいなと笑うティーダはなぜ混沌の戦士なのか。
ティーダが本当に俺を善意で助けているなら、彼は世界に災いをもたらすような奴ではない。
そんなこと、出来るわけない。

「ねえ、こっちじろじろ見ないでくれないかい?」

クジャの言葉に、ティーダは『スコール、退屈なんだろ?』と言いながら笑った。
そして俺のそばに寄ってくるとひらりとカードを見せる。

「スコールやろうぜ。これ、結構はまるッスよ」


ティーダはベッドに腰かけると、俺が体を起こすのを手伝った。
4日も養生しているのに、俺の体の回復は遅い。舌打ちしそうになったら、ぽつりとティーダは言った。

「なあ、クジャ。スコールの回復が遅いんスよね。なんでかなぁ」
「皇帝のトラップにやられたんだろう?薬でも使われていたんじゃないかい?」
「それってどうすればいいんだ?」
「仕掛けた本人に相談しなよ」
「いや……無理だろそれ」

二人はそんな風に話ながら、俺の前にカードを配る。
本当に一緒にやる流れのようだ。

簡単なルールを説明され、俺はカードを手に取る。
俺の横には楽しそうに笑っているティーダと、俺がいても気にしない、クジャ。

コスモスの戦士と混沌の戦士。
和やかな空気など出せるはずはないのに、ティーダは笑っていた。

俺は、いまだティーダを信じられない。
信じられない俺が嫌だった。



□□□□□


「ティーダ」

掛けられた声に俺は咄嗟に持っていたものを後ろ手に隠した。
なるべく自然な動作にしたかったけど、そんなの下手だし、相手はクラウドだし。
絶対に見つかったんだろうな。

「なに?」
「怪我をしたのか?」
「え?いや……してないけど……」
「包帯を持っていただろう」

そう言われて、やっぱりばれてるよなと隠していたものを見せた。
手には真新しい包帯が二つ。

倉庫から取ってきたものだ。

「本当にしてないのか?」
「してないしてない。なんかあった時のために……その部屋に置いておこうかなって」
「そうか」

クラウドはそう言いながら、俺の腕を取ってまじまじと見た。
それは怪我が本当にないか探っているみたいで、信用ないなと思ったけど、そもそも俺は信用たる男じゃないか。

「あまり無理するなよ」
「わかってるって」

俺はそう言ってクラウドの横を通り過ぎた。
通り過ぎたけど、クラウド視線が背中に突き刺さってて……ばれてないよなと不安になる。

嘘は下手だ。
昔も、母さんに内緒で猫を家にいれたことがあったけど……すぐにばれてしまった。
あの時は怒られたな。
母さんは猫アレルギーだったからさ。

「まあ……今飼ってるのは猫じゃなくて獅子だけどさ」

そう呟きながら、俺は自室の扉の印を切った。
ここの扉を通れるのは俺と俺が許した奴等だけだ。

クジャとクラウドだけ。

そのほかの混沌の戦士は何があったって入れない。
いや、もしかしたら入れるのかもしれないけど相当に魔力を使わないと駄目だろうし、そこまで皆過干渉じゃない。
俺がこの部屋で飼っているものさえ知られなければ……踏み込まれたりなんてしないだろう。

「ただいまッス」
「……ああ」

俺が手当てした獅子は、最初は警戒して気を逆立てていたけど近頃はだいぶ懐いたと思う。
懐いたといっても会話にちょっと返事を返してくれるとかそのレベルだけど。

まあ、仕方ないか。
敵対する者同士だからな。

「包帯とってきた」

そう一言言えば、獅子は分かっているのか体にかけていた上着を脱いだ。
肩から胸に掛けて、白い包帯が巻かれている。

他の大部分は直ったが、まだ胸の傷の治りは遅かった。
クジャは皇帝の罠でついた傷なんだから、皇帝に聞けばいいとかいってたけど、それって絶対テキトーに言ってるよな。
それが真実だとしても、聞いたって無駄なことをクジャは分かってたはずだ。

「治り遅いッスねー」
「……もう、戻りたい」
「俺も早く帰ってほしいっスよ」

ここ最近、混沌の連中の動きが活発になっている。
ヒマなのか皇帝とかは頻繁に出かけてくし、アルティミシアはなんだか最近は怖い顔して外を動き回ってるみたいだ。

コスモスの戦士も、徐々に減っていってるってゴルベーザも言っていた。
ゴルベーザの弟はまだ倒れていないらしいけど……きっとそろそろゴルベーザも弟を倒すために動き出すだろう。
他の奴に任せたら、二度と復活しないくらいにやられてしまうかもしれないから。

「………俺もそろそろだなぁ……」
「なにがだ?」
「え?」

スコールの包帯を巻きなおしている途中で、声を掛けられて俺ははっとした。
スコールは俺を振り返りながら、不機嫌そうな顔でこっちを見ている。

「俺、今何か言った?」
「『そろそろだな』とか言っていたぞ」
「……ああ。……そうか。言ってたかも」

手を止めてしまったために巻き途中だった包帯が緩んでしまった。
仕方ないといったん解き、もう一度巻きなおす。
スコールにはなにも聞かれたくなくて、俺はスコールの傷口だけ見てた。
けど、スコールからの視線を感じて……なんか居心地が悪い。

「なんのことだったんだ?」
「なにが?」
「『そろそろだな』という話だ」

俺はスコールの言葉に、『うーん』と一つ唸って見せた。
けれどスコールは黙したままじっと俺を見ている。

言うのは嫌だなと思うけど、言っても別に……という気持ちもある。
スコールに話した所でなにも変わらないのは分かっている。

スコールは怪我を治してここからでていく。
そして……きっと負ける。

そうしてコスモスの敗北がいつか訪れて、記憶の浄化を受けて再び戦い始める。
だからここで俺がスコールに何を言ってもなかったことになる。

あるようで、ない。
それはまるで俺と同じで、だったら別にいいかという気持ちになったのだ。

「『そろそろ、俺もコスモスの戦士倒しに行かなくちゃ』」

俺がそう言えば、凄い速さで押し倒されて一気に天井を仰いだ。
首に感じる圧迫感に、スコールに首を絞められてると理解した。

ぐっと押し込められて、血管を巡る血が止まる。
このまま圧迫され続ければあっけなく果てるだろうと思いながら、スコールを見た。

カンカンと米神が傷み、目の前が歪む。
息をすることもできず、目の前がどんなにゆらいでもただ、スコールを見た。

スコール、なんでそんな苦しそうな顔してんスか?

苦しいのは俺だって。

「……抵抗しろっ!!」
「かはっ…!」

スコールはそう吐き捨てると首の圧迫を止め、俺の顔を殴った。
ぱしんと軽い音が響いて、ついでがりっという音がする。

やべっ、舌噛んだ。

「……痛てぇ……」
「……噛んだのか?」

スコールは俺に馬乗りになりながら、酷い顔で俺を見下ろしていた。
酷く疲れた顔で、イケメンが台無しだ。

「噛んだ。痛いし……首も痛い」
「……お前が……悪い」

なんでだよ。
首絞めたのも、殴ったのもスコールじゃん。

そう思ったけど、スコールがこんな行動に出た理由は分かってた。
俺がコスモスの戦士を倒すとかいったからだろ?

でもしょーがないだろ。
放っておいたら……親父が誰かに倒されちまう。

「スコール、俺が悪かったッスよ」
「………」
「スコール。ごめんって。泣くなって」
「……泣くわけあるか」

そんな風に言いながらも、スコールは泣いてるみたいに悲しそうな顔だった。
なんでそんな顔するんだよ。

スコールが腹を立てる要素はあったとしても、悲しむ要素ってあったか?

「そんな顔で、説得力ないっスよ。ほら、笑顔の練習!」
「……阿呆面だな」

にかっと笑った俺に対して、そんなこというのかよ。
けどそう言ったスコールはどこか諦めたような困ったような、そんな微妙な微笑だった。


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ちょいと暴力表現はいっちゃった。
まだまだ続きます。
bkm
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