小説 | ナノ
届かないッス
「クラウド、大好きッス」

俺がそう言えば、クラウドはちょっとだけ困った顔をする。
そして頭をぽんぽんと撫でてくれて……それだけだ。

俺がクラウドに初めて好きって言ったのは、結構前だ。
その時のクラウドも、やっぱり困った顔をして、『ありがとう』と言ってくれた。

それってどういう意味?

確認したかったけど、するのはなんとなく気が引けて止めた。
それはクラウドが明確な答えを返すのを避けたような気がしたからだ。

ようするに、『ありがとう』って言っても……俺はふられたんスかね?
それともクラウドは俺が恋愛感情っていう好きと受け取らなかったとか?

まあ、男が男に好きって言われても友愛以上のものはないだろうと思うだろうし。
けど、俺は結構勇気出して気持ちを伝えたつもりなんだけどな。
だから……ちょっとショックだ。

「クラウドー大好きッスー」
「わかったわかった」

クラウドの珍しい、困り眉毛。
そんな表情もなんかこう……大人の色気があるなとか、格好いいなとかそんな風に思って胸が痛い。
ちくちくちくちくと痛むこの胸。

どこが痛んでるんだろうな?
俺の体は夢が詰まってるのにさ。

そんな風に自分の体事情も思い出して、この戦いが終わったらもうクラウドに会えないんだなーとか、
それ以前に俺はまた一人の海に戻るんだよなーとか思うとちょっぴり凹む。

あの、祈り子たちが作り出してくれた夢の海は温かいけど、俺以外は誰もいないから少し寂しい。
アーロンが、……親父でもいいけど、そこにいればいいのにと思うけど……俺はザナルカンドを消した奴だから、きっと皆とは一緒にいられないんだよな。

勝手にザナルカンドを消したんだから……まあ、仕方ないっていったら仕方ないけど。
だってほら、ユウナを守りたかったんだ。

「……ティーダ?どうした?」
「ん?どうもしてないッスよ?」
「……そうか」

そう言って俺の頭を撫でてくれるクラウドの手が優しくて、俺は酷く悲しい気持ちになった。
俺のことなんて想ってくれてないけど、俺のことを心配してはくれるんだ。
きっと今だって、俺がなんとなく暗い雰囲気をだしていたから心配したんだろう。

そう思いながら、クラウドは罪な人だなと思って笑う。
いったいこの中途半端な優しさでどれだけの人を勘違いさせてきたのだろうか。

ああ、もう、クラウド格好いい。
格好いいから許す。
どんなに酷いことされても俺、クラウドなら許しちゃうッス。

俺は狭いテントの中をごろりごろりと寝転がりながら移動した。
移動したといっても狭いから、ちょっとクラウドから離れるくらいなだけだ。

クラウドは手の中から俺の頭がいなくなったからか、またアイテムの整理を再開した。
クラウドの手が、袋からアイテムを取り出していく。
その様子を見ながら、クラウドの手で弄ばれるアイテムを羨ましいなとか俺は不毛なことを考えてしまう。

どうやら俺は、そうとうキているらしい。
初めて会ったころは、単純に格好いいなと思っていただけだったのに、それが憧れから恋に変わったのはいつだったのか。
これといった瞬間は無かったと思う。
ただ、いつものように『クラウド格好いい』とか『強くて凄い』とか、
そんなことを考えていたらいつの間にか『クラウドの傍にいたい』とか、『クラウドに触りたい』とか考え始めた。

それがどんな感情なのかを整理つけるのは大変だったけど、好きなのだと自覚したらすっきりした。
そして、それと同時にこの恋が形のない不毛なものだとも分かった。

男同士だからじゃない。
世界が違うからじゃない。

そもそも、俺って存在するのかってところから話が始まる。
俺としては、俺は存在するんだけどさ。
クラウドからしたら存在しているのかなって。

思い出したのは最近だけどさ。俺って、召喚獣みたいなものだろ。
いや、召喚獣の一部?
とにかく、俺を含めた皆が装備している召喚石からでてくるような生き物だ。
ただ、形がシヴァとかみたいに人間に近くて、そしてシヴァよりも顔色がいい。

そんな感じだ。
そんなのが恋愛対象になりますか?
第一、誰かが夢見てないと存在できない俺だよ?

……まあ、そんな事実を誰にも言ってないんだけど。
知ってるのはたぶん、親父と……あとは混沌の連中くらいか。
なんであいつら知ってるんだろうな。俺だって思い出すまで知らなかったのにさ。
お陰でいつ皆にばらされるかってひやひやしてんだ。

もし、クラウドに知られて気味悪がられたりしたらどうすんだよ。
いやクラウドはそんな奴じゃないけどさ、けど……ほら、同情はされたくないかな。

同情じゃなくて、愛情が欲しい。
けど、自分のことをなんにも言わない俺が愛情ほしいって言うのも変な話なのかな?
報われない恋だからな。俺はそれを分かってて、それを相手に伝える気もないのに、一時の恋を欲しがってる。

だって俺、クラウドと恋愛できたら……向こう2千年くらいは大人しく眠ってられるかも。
温かい思い出もらってさ。それを抱えて眠るんだ。
きっと、クラウドの夢が見れるよ。

それってすっごいよくないか?
絶対に気持ちよく眠ってられる。
うん、幸せかも。


……まあ、叶わぬ夢ですが。
クラウドに幾ら好きって言っても、応えてくれないし。
せめて隣にいることを楽しむことくらいしかできないのが現状ですよ。

「……クラウドー……」
「……ティーダ。眠いのか?寝るなら布団に入れ」
「んー……」

とろとろと眠気がやってくる。
夢なのに眠いって変だよな。

そんな風に思いながら、眠気で重くなった手を伸ばしてクラウドの指に触れた。
長い指を弄りながら、俺はうとうとと舟をこぐ。

ああ、なんか幸せだ。
毎日毎日、イミテーションとの戦いだけど、こうして体を休める時間もあって、目の前には好きな人がいて。
その好きな人は俺が『好き』っていうのを受け入れなくても否定せずに聞いてくれる。

手を伸ばせば触れられて……俺、もうこれでいいや。
もう十分ッス。

「……クラウドぉ」
「……なんだ?」

困ったような顔で俺の頭を撫でてくれるクラウド。
クラウドに頭を撫でてもらうのすげー好き。あと何回くらいあるかな?
できればあと、10回はしてくれる機会があればいいな。

「好き」

そう言えば、やっぱりクラウドは困った顔をした。
そんな顔をさせるのは、ちょっとだけ嫌だけど……そこは大人だから我慢してよ。

「大好きッス」



「すっげー大好き」



「俺はクラウドがだーいすっ……」

そこで俺が言葉を止めたのは、クラウドが酷く険しい顔をして俺を睨んでいたからだ。
まるで、獲物の心臓に喰らいつこうとする狼のような雰囲気に、今まさに、俺は食い尽くされるのだという錯覚すら覚える。
とにかく、クラウドのこんな険しい顔なんて、戦闘中でしか見たことがなくて。
しかもそれを俺に向けられれるとも思ってなくて、俺はどうすればいいのかと思いつつも恐怖に体が震えた。

マジですか。
もしかして、嫌われた?
うざがられた?
気持ち悪がられた?
英雄と同じカテゴライズされた?

「クラウド……ご…」

『ごめん』と言う前に、俺は背中に走った衝撃に目を見開く。
気づけば俺は床に押さえつけられてて、クラウドを真上に見ていた。

クラウドは怒ったように歯を食いしばりながら、俺を見てる。
そんなに怒らせるようなことだったのかと思って、泣きたくなった。

いや、実際に泣いちゃったんだ。
ぼろりと出て、零れてしまった涙。
悲しみとかじゃなくて、驚きの涙だった気がするけど……それは俺の頬を伝って落ちていく。

それを見たクラウドは、苦しそうに息を吐き出すと小さい声で『ティーダ……すまない…』と言って………。

「んっ……」

がぶりと、俺の唇にかぶりついた。

あれ?これってどういうことっスか?


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このままエロとか書きたい。
ちなみに『届かない』のティーダ視点です。
要するに、7→←10でしたーって感じです。
bkm
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