小説 | ナノ
失楽園 -1-
失楽園

「なあ、夕飯何がいい?」
「……なんでもいい」
「じゃあ、とりあえず肉料理にするッス」

そう言いながらティーダはスーパーのカゴを取って、精肉売り場へと向かった。
俺はティーダから少し離れたところに立ちながら、真剣に肉を吟味するティーダの後ろ姿を見ていた。
俺は肉の違いなんて分からないし、どの肉がどの料理に使われるかも分からない。
家庭科でやった程度の知識しかなくて、メニューがあって材料があるのだ。

「スコール、挽き肉安いからハンバーグでいいッスか?」

けどティーダは材料から料理を考えられるらしく、俺はそれがどうにも理解できない。
料理なんて俺の理解にない部分だから、ハンバーグでいいかと問われても否定なんてできない。
ひとまず頷けば、ティーダは肉のパックをカゴに放り込んだ。
……俺がハンバーグが嫌だと言ったらどうなったのだろうか。
きっと、ティーダは挽き肉を使ってできる別の料理を提案したんだろう。
でも、俺はハンバーグのほかにどんな選択肢があるのか知らないし、それを知る必要もないと思った。
食事はティーダが作るんだから、ティーダが食べたいものにすればいいんだ。
俺は本気でそう思っているが、前にそう言ったら悲しい顔をされた。

ティーダ曰く、『喜んで食べてもらった方が作る方は嬉しいッス』だそうだ。
俺としては作って貰えるものは全部嬉しい。だから、なんであろうがティーダが作ってくれるだけでいいんだ。
けどそんなことは言えないから、俺は悲しい顔をしたティーダに『悪い』と謝っただけだ。
そして今日も、『なにがいい?』と聞かれて『なんでもいい』と懲りずに言う。

そんな俺にも慣れたのか、ティーダは次々に食材をカゴにいれるとレジへと向かった。
俺はついていかず、エスカレーターの前に移動してティーダを待った。
学校帰りともなればもう夕方だ。この時間帯は夕飯の買い物をするためにか、人が多い。
ざわざわとする人混みの中で、俺はすることもなくただティーダを待った。

「お。スコールじゃん」

掛けられた声に、ぼんやりとしていた意識を引き戻し、声がした方を振り替える。
そうしたら『よっ!』と言いながら右手をあげているバッツがいた。

「こんなところで何してんだ?」
「……買い物だ」

俺がそう答えれば、バッツはまじまじと俺を見てから『ふーん?』と首をかしげた。

「俺も買い物だ。気付いたら冷蔵庫空っぽでさー」

バッツがそんなことを言いながらも俺の前に居座って大学の授業がどうだの、受験勉強はちゃんとしているかとかうるさく喋り続ける。
正直、こいつはいったいなんなんだと思わなくもない。
俺とバッツの関係性と言えばジタンで繋がっているようなものだ。
何でか知らないけどジタンとバッツは友達らしく、俺とジタンは委員会が同じという先輩と後輩。
その繋がりで、なんでか知らないがいつのまにかバッツと知り合いになっていた。
ジタンに学校外で呼び出されるとバッツがいることが多いから、実は言うと会っている回数は多い。
けど、それは必ずジタンがいて、俺とバッツの二人きりというのは初めてだった。
ゆえになにを話せばいいのか、なんて戸惑うのだが……。
バッツはこっちの戸惑いなんて全く気づかない様子でぽんぽんと話題を変えては同意を求めたりどう思うか聞いてくる。
辛い、というか面倒だ。
早く解放されて、家に帰りたい。

「スコール、お待たせッス〜!」

俺が帰りたいと心の中で連呼しているときに買い物袋をガサガサといわせてティーダが戻ってきた。
俺はそれにこれで解放されるという安堵と、若干のわだかまりを胸中に抱えた。
本当は、あまりバッツにティーダを会わせたくなかった。
ティーダはジタンにも会わせてないのだ。
バッツに知られれば、間違いなくジタンにもティーダのことが知られてしまう。
閉鎖的な性格を自覚している自分の言い分としては、今の状態が最良で。
それを瓦解するようなことは起きてほしてくない。

「終わったなら帰るぞ」
「あ、うん。でもその人、知り合いだろ?」
「大した話はしてない。じゃあな」

話はここでしまいだとバッツに告げると、俺はティーダの持っている買い物袋をひとつ受け取ってエスカレーターへと乗った。
本当は買い物袋を全部持ってやりたいけど、そんなことをすると『俺はそんなに非力じゃないッス』と言われてしまう。
ティーダだって男だから矜持というものがある。
だから、あまり過度な干渉はしないように気を付けてる。

長いエスカレーターを登りきって、俺は地上にでたけど……後ろからついてこない。
しばらく待っても来ないので、どうしたのかと思っていたらやっとティーダは登ってきた。
なぜか、バッツまで引き連れて。

俺が手ぶらのバッツを不信感を隠さずに見れば、バッツはひらりと手をふって非常識なことを言った。

「俺、今日はスコールん家で夕飯ごちそうになるぜー」

……ありえない。
俺がそういった目でバッツを見て、ティーダを見れば、ティーダはブルーの目をくりっとさせてから、
『バッツってスコールの親友なんだってな。紹介くらいしてくれよ』と張り付いた笑顔で言われた。
いや、親友じゃない。せいぜい知人だ。
そう言いたかったけど、もう二人は談笑しながら俺を追い越しっていった。

この日、俺の心地よかった世界は音をたてて崩れた。
bkm
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