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届かない
しまった。

そう思ったのはティーダが俺の膝を枕にして、眠気まなこでにっこりと笑ってくれたときだった。
それまではティーダのことを、ただ可愛いと思っていた。
その『ただ』というのは、犬がじゃれてくるとか、いつも笑顔で前向きで元気で、といったような実に健全なものだった。
きっとティーダは可愛いなんて言われたくはないだろうけど、4つも年下の、まだ17歳にしては無邪気なその様子は可愛いと評するしかない。
きっと同じ歳のスコールや、ジタンが若干擦れてるからだろう。
ジタンにいたっては擦れすぎだが、どちらかというとスコールくらいが17歳としては普通なんじゃないのだろうか。
とにかく、ティーダは17歳にしては無邪気であり、また、この闘争に満ちた異世界でも沈むこともなく、笑顔で周りを浮上させてくれていた。
かく言う俺も、ティーダが傍にいる限り、負の思考に陥らないことはもう気づいている。

今だって相変わらず、己が戦う意味は見出せないけれど、それでもティーダが傍で笑っている限りは気持ちが完全に沈むことはない。
ティーダの傍は居心地がいい。
ティーダにだって背負うものや辛い物だって当然あるはずだろう。
それをひた隠しにしているが、時折みせる、どこか遠くを見る様子に陰を感じる。
けど、そんな陰を抱えても足を止めない、笑顔で人に振り向く様はいじらしくて、可愛いと思った。

……そう、いじらしくて可愛い。
元気で可愛い。
犬みたいで、可愛い。

そう思っていたのに、しまったことをしてしまったのだ。
俺は、可愛い無邪気なティーダに、あろうことか欲情したのだ。

休憩にと足を休ませたときに、『疲れたから昼寝するッス……』と言って目を擦りながら、
剣の手入れのために腰を下ろした俺の膝を枕に寝っ転がったのだ。
ちょっと驚いたが、ティーダが俺を伺うように寝転びながら見上げてる様子に、なにも言わなかった。
きっと、どけと言えばティーダはどいたのだろう。
ティーダは好き勝手に動くが、けどこっちの様子を伺ってどこまで許されるのかを測る癖がある。
それはティーダがただ我侭なのではなく、人の嫌がることをしないようにしている証だ。

俺は別に少し驚いただけだったから、ティーダに膝を貸すぐらいどうってことはない。
むしろ、固いんじゃないかと思ったくらいだ。
ティーダは俺が何も言わないのを了承ととったのだろう。
本当に眠そうな、とろんとした目で俺を見つめて……にっこりと笑った。

そしてそのまま目を閉じると、気持ちよさそうな顔で眠りだしたのだ。


………キスしたい。

その思考に陥ったとき、俺は落雷にあたったかのような衝撃を受けた。
眠るティーダを見つめながら、自分の思考を疑った。

いま、なにを考えた?

そう自問すれば、帰ってくるのはティーダにキスしたいという答えだけだった。
それもバードキスなんかじゃない、ねっとりと舌を絡めて、思い切り吸い上げたいという欲だった。

酷い。
酷すぎる。
ティーダに何をする気だ。

俺は眠るティーダを相変わらず見つめている。
ティーダは天下泰平な顔をして眠っていて、それはいまこのときに何も不安などないというティーダの気持ちを体現しているかのようだった。
ティーダはなにも不安を感じていないのだ。

フリオニールとセシルは、辺りを見てくるといって出て行ってしまっている。
ここで休憩しているの俺達二人だけ。

そしてティーダは、俺がいるから大丈夫だと昼寝を始めたのだろう。
敵が来ても、大丈夫。
なにがあっても大丈夫。
いま、この時は、危険なものなど何もない。

きっとそう思ってティーダは眠っているのだろう。


それなのに、今俺は……ティーダの脅威になってしまったのだ。
ここには俺の他に誰もいない。

ティーダはどんどん強くなっていっているが、それでも元々戦いだしたのはここ最近のことなのだろう。
いくらスポーツ選手で、運動神経がよくて飲み込みが早いといっても、ティーダを押さえ込む手段なんて俺にはたくさんある。
純粋な力比べならティーダなんて簡単に負かせてしまえるし、抗う奴を押さえ込むのなんて俺には簡単なことだ。


ティーダは俺が脅威になるなんて思っていない。
それはつまり、俺を無条件に信頼してくれているのだ。

それなのに、俺はティーダの信頼を裏切って……ティーダに欲情したのだ。
最悪だ。自己嫌悪する。

無邪気で、元気で、明るいティーダを……俺はぐちゃぐちゃに汚して喘がせたいとかそんなことを考えているんだ。
やめろ、変な想像をするな。

そう自分を罵るけれど、一度ティーダへの劣情に気づいてしまったら止められなかった。
俺がティーダの傍にいたかったのは、元気を分けてもらえるとか、前向きになれる気がするとかそう言うことじゃない。

俺は、ティーダを好きになってしまったのだ。
それもティーダに似つかわしくない、汚い恋だ。

これが17と21の違いだろうか。
きっとティーダは恋愛と考えたら、真っ先に今俺が考えているようなことは思い浮かべない気がする。

自分が酷く汚れた大人なことに絶望する。
俺にしつこく絶望を贈ろうとする奴がいるが……あいつのいう絶望はいま俺が思ってる絶望より酷いものなのだろうか。
いま、このときの気分よりも酷いことなどない気がする。
それくらいに、俺は今、自らの汚さに嫌気が差していた。

ティーダは相変わらず気持ちよさそうに眠ってる。
それを見ながら、俺はティーダに邪な思いを募らせる。


しまった。
なんでこんな気持ちに気づいてしまったのだろうか。

目の前にいる、ティーダに手を伸ばすことは出来ない。
手ひどく汚したいが、汚したら俺の好きなティーダの笑顔が見れなくなる。

そう思うのに、一時の快楽への渇望に負けて手が伸びそうになる。

ああ、苦しい。
気づきたくなかった。

けれど、俺は気づいてしまった。
行き場のない、この想いに。


俺には踏み込めない世界で笑う、ティーダ。
俺はお前と同じ場所には行けないんだ。

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7→10
弟が好きな人になってしまった瞬間。
bkm
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