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後悔

2013年のSCCで無料配布したもの。

 ティーダと喧嘩した。

 喧嘩の理由はたいしたものではなかった。日常の中での些細なことで喧嘩をし、結局収まりが着く前に出発することになってしまった。
 俺とティーダは別のチームで動いているから、次に会うとしたら予定された合流地点でだ。その後は一旦はそこを拠点として、周囲を確認しつつクリスタルを探すのだ。けど次の合流地点に達するまでは数日ほど掛かるのが常だった。
 全員が何かしらの罠に同時に掛かることのないように各チームで動く。だから次にティーダに会えるとしたら数日後で、その間にティーダの怒りも冷めているだろう。
「なあ、スコール」
「……なんだ」
 意気揚々と前をあるくバッツを視界にいれながら、辺りを警戒していたら自分の少し前を歩いていたジタンが横に並んだ。掛けられた声に、辺りに一切の気配がないことを確認してから返事をした。
「ティーダのこと、いいのかよ?」
 言葉の意味が分からなくて、ジタンを振り返った。前の方ではバッツがきょろきょろとせわしなく辺りを見ている。なにか面白いものでもないかと探しているのだろうか。かといって、勝手に走り出されても困る。
「なんの話だ?」
「なんのって!お前ら、出発前に喧嘩してただろ!」
「…ああ」
 肯定というよりも、そう言えばというようにいえばジタンに顔を歪められた。なんでそんな顔をするのかと思って眉を寄せれば、ジタンは呆れたというように溜息をついてくる。
「スコール、分かってないだろ」
「……なにをだ」
「俺達の状況だよ。喧嘩なんてしてる場合じゃないぞ?」
 そう言われて、確かにそうだと思い至る。世界の命運を掛けた戦いをしている最中なのだ。仲間割れを起している場合ではない。とはいえ、仲間割れを起したというほどの喧嘩でもなかった。戦いになれば普通にしていられるほどのものだった。喧嘩であっても、仲違いというわけじゃない。
「お前、やっぱりわかってないだろ」
 つらつらと考えていたら、下のほうからそう言われて視線を下げる。ジタンは呆れているのかと思っていたが、その表情はどっちかというと心配しているようだった。
「……次に会ったら、なんとかしておく」
 なんとかするもなにも、機嫌が戻ればいつも通りのやり取りができるだろうという程度の喧嘩だ。時間が解決する程度のものだと俺は認識しているし、それができるくらいには俺とティーダは信頼関係があると思っている。
「……わかってねーなぁ、スコール。……相手は誰でもない、ティーダだぞ?」
 ジタンはそう言うと大きく溜息をついた。何が言いたいのか分からず、聞き返そうとしたらこちらに近づいてくる気配にガンブレードを取り出した。恐らくイミテーションだろう。ジタンも、バッツも武器を構えている。
 ジタンとの会話はまたでいい。そう判断して俺はガンブレードを構えた。

□□□□□□

 「あれ?俺達が最後かー?」
 バッツの声に、辿りついた合流地点をざっと確認すると、オニオンナイトとティナ、そしてセシルとフリオニールを見つけた。姿が見えないのはウォーリアとクラウド、そしてティーダだったが……三チームに別れて行動していたため、各チームのメンバーがいるのだから俺達が最後だったのだろう。
 そう思いながらすっかり誂えられている拠点の中心辺りにある火に近づけば、ティナが飲み物の入ったカップを差し出してくれた。
「ううん。クラウドとティーダはまだだよ。ウォーリアは辺りを見てくるって」
「え、お前ら。別行動取ったのか?」
 オニオンナイトの言葉にはジタンが反応した。クラウドとティーダはセシルとフリオニールとチームで動いていたはずだ。その半分がいて、半分がいないということは何かがあって別行動になったのだろう。
「ああ。ちょっと途中で皇帝がな……」
 苦々しげにいうフリオニールに、皇帝によって分断されたのだろうということが言われずとも分かった。そして間違いなく、皇帝には逃げられたのだということも。
「でも、クラウドとティーダは一緒にいるよ」
「いや。別行動だ」
 セシルの言葉に応えたのは、バスタードソードを担いでやって来たクラウドだった。クラウドの姿は一人きりで、セシルもフリオニールも驚いたように立ち上がった。
「クラウド……!?ティーダはどうしたんだ!?」
「別行動になった」
「別行動って……どうしてだい?」
 周りを置き去りにして、三人で話が続いていく。ティーダとチームを組んでいる、割と年長の奴等はティーダを弟のように可愛がっている。過保護が過ぎるんじゃないかという連中だから、ティーダを守らなければという想いが強いのだろう。いつもは落ち着いた姿を見せている年長の奴等が、浮き足立つ様子にオニオンナイトやティナは不安げな顔をした。
「お前たちと別れた後、ジェクトに遭遇した」
 クラウドはそれだけ言うとバスタードソードを降ろす。たった一言だったが、ティーダがその後取った行動は全員想像がついた。間違いなく、ジェクトと本気で戦いに行ったのだろう。そしてクラウドはティーダが本気だからこそ、置いて進んできたのだろう。自分がいれば戦いに水を差すのが分かりきっていたからだ。
「……後から来ると言っていた」
「……そう」
 セシルもフリオニールも僅かに表情を暗くしたが、納得したというように腰を落ち着けた。バッツはもとから表情を変えてなかった。オニオンナイトとティナはやっぱり不安そうではあったがなにかを飲み込むようにして黙っている。だけどジタンは『いいのか?』と俺を見て問いかけていた。
 ようやく、ジタンの『喧嘩なんてしてる場合じゃない』、『相手は誰でもない、ティーダだ』という言葉の意味が分かった。俺達は全員、明日をも知れない身で……次があるなんて信じてはいても絶対の保証はない。死ぬときは誰だって死ぬし、そして戦わなくてはいけない俺達はその可能性が高い。
 そしてティーダは……例え何があっても父親と見えれば戦う。戦いの駆け引きはあの親子にはない。まるでどちらも倒れるのが正しいとばかりに戦う。
 仲間が心配しようとも、誰と喧嘩している最中だろうとしても、父親を前にしたらティーダは全てをかなぐり捨てて戦いにいく。あの親子の間には誰も、立ちいれられない。

 喧嘩なんてしなければよかった。
 ティーダに吐いた最後の言葉が、酷い言葉だったなんて、そんなことになったら。

 俺は居心地が悪くなって『イミテーションがいないか辺りを見てくる』と立ち上がった。それに対して誰も、何も言わなかった。
 
bkm
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