小説 | ナノ
喧嘩

2013年のSCCで無料配布したやつ。
現パロな810?
すでにお付き合いしている設定です。

 スコールと喧嘩した。

 喧嘩の理由は今日という休みの日にどこに行くかだった。スコールは家で過ごしたいと言い、オレは外に出かけたいと言った。外に出ると内に篭るという間逆の選択に、俺達はあーでもないこーでもないと言い合い、そうして結局喧嘩をして、オレは腹が立ったのでそのまま財布と携帯、上着を掴んで外に飛び出したのだ。
 外に飛び出した後はぶらぶらと街を歩き、そしてなんでこんなことになったのかとぼんやり考える。喧嘩をしたかったわけじゃない。なにしろ、ここのところはスコールとすれ違いの日々が続いてて思うように一緒に過ごせなかったのだ。
 そのすれ違いの理由はスコールの学校のカリキュラムの都合だったり、オレのブリッツの試合だったり遠征だったりと色々あった。お互いに触れられない日が何日も続いて、……そうだ。確か三週間はあったはずなんだ。そんなに長い期間を顔を合わすこともなかったなんていうことも信じられないのに、ようやく会えたって言うのにさらに信じられないことにオレ達は喧嘩をしたんだ。
 一人きりで街を歩いて、ふっと目に入ったものに足を止める。ショーウィンドウの向こう側にはシルバーのバングルが飾られていた。それを何とはなしに見て、ひとつ、ふたつと見比べる。
(あ。あの右側のはスコールは好きそうだな)
 ぼんやりとそう考え、今まで入ったことはなかったその店に足を踏み入れる。ひとつひとつ商品を見ながら、『これはスコールの好みじゃないな』とか『このシャツはスコール絶対好きだな』とか品定めをする。
 そうして、なんだか虚しくなった。手に持っていたベルトを元に戻し、近づいてこようとしていた店員からさり気なく逃げる。今は声を掛けられたい気分じゃないのだ。
 スコールと喧嘩をして、腹が立って飛び出したというのに考えるのはスコールのことばっかりだ。だって本当ならば今日はスコールとずっと一緒に過ごすはずだったのだ。一緒に出かけたりして、一緒に買い物したりして、オレはそうして過ごしたかったんだ。
 だってオレはスコールのことをよく知っているから。だからスコールの好きそうなものを見つけて、そして見せてやって、そうしてスコールはほんの少し頬を緩めるのを見るのがすきなんだ。
 とんでもない優越感なんだよ。オレはスコールのこと何でも知ってて、オレが見せたものがスコールもちゃんと好きだったとき、オレは誰よりもスコールのことを分かってるって誇らしくて嬉しく思うんだよ。
 オレはスコールのことを誰よりも知ってる。正直、スコールよりも知ってるんだって自負したいくらいだ。だから、本当はちゃんとわかってる。スコールがなんで俺と一緒に出かけたくないか、分かってるんだ。

「……あの、ザナルカンド・エイブスのティーダさんですよね?」

 店を出て、呼びかけてきた声にオレは舌打ちをしたい気分になりつつもそれを我慢した。そんでもってなるべく笑顔を笑顔と自分に言い聞かせて、振り返ってやる。
「あの!昨日の試合見ました!ファンなんです!」
 そこには思ったとおり若い女の子達がいて、けどオレはいくら憂鬱な気分でもその子達の相手をしなくちゃならない。それがファンサービスってものだし、オレはプロの選手でアマチュアじゃない。ファンの重要性だってちゃんとわかっているし、ファンを大事にするのも仕事のうちだって分かってるから無碍になんてできない。
 だからその子たちが大興奮で喋っているから、周りにいた人たちにもオレのことが知れてどんどん人の輪が大きくなっていっても、オレは眩しい笑顔のティーダで対応しなくちゃならない。
 だって今は試合前じゃないし。プライベートではあるけど、どうせ一人きりですることもねーし。家に帰る予定もまだないし、喧嘩をして飛び出したんだから、スコールだって待ってくれているわけないし。
(あーあ。オレ、なーにしてんだか)
 求められるサインに応えながら、オレはもうなんだか泣きたい気分になった。
 スコールが出かけたがらない理由はこれだ。オレは実に有名人だから……外に行けばファンに囲まれることも少なくない。そうしたらオレはスコールがいても少しは応えなくちゃならない。サインとかは断っても、笑って手を振ってやるくらいはしなくちゃいけない。スコールはそんなオレが嫌いなんだ。ファンに手を振る、ザナルカンド・エイブスのエースであるオレが嫌いなんだ。
 取り囲んでくるファンが、格好いいスコールに『お友達ですか〜?』なんて無邪気に聞いてくるのも嫌いなんだろう。オレとスコールの関係は友達じゃなくて恋人で、けどそんなこと言える分けなくて『そうッスよ』なんてザナルカンド・エイブスのエースとしての立場から嘘をつく俺も、そんな嘘をつかせなくちゃいけない関係性である自分も、スコールは嫌いなんだろう。
 男同士なんてそりゃ、一般的じゃない。けどマイノリティだったとしても存在しちゃいけないわけじゃないし、それでいいとオレは思うけど、オレの立場はそれを易々と許してくれない。オレはチームのエースで、若いし顔だって悪くないからスポンサーの為にメディアに露出だってするし、若い女の子や世間にはいい顔しなくちゃいけない。
 だってそういう契約なんだよ。オレは、そういう契約でブリッツやっててそれは仕事なんだ。しなくちゃいけないことなんだ。
 そーいうのもスコールは全部分かってるから、外に行きたがらない。嘘をつかせるのも、嘘をつくのも嫌だからオレを家の中へといさせようとするんだ。オレは本当はちゃんとわかってる。
(あー……帰りたいな)
 そんな風に考えながら、わさわさと寄ってくる子達に笑顔を返して、握手して、サインをして、そうしてその合間合間にスコールのことを考える。
 家にいればよかったと、スコールの言うとおりにすればよかったと後悔する。スコールと一緒にいることがどうしてもしたかったことで、一緒にいられたらどこだっていいじゃねーかと思いながら、サインをする。
 一枚、二枚、三枚、四枚、十枚と続けていって、なんだか泣きたい気分になってもういいだろと怒鳴りつけたい気分になって、けれどそれをぐっと堪えて飲み込もうとして、突然に後ろに引っ張られたことで仰け反った。
 オレは驚いて振り返ったから、ファンの顔はちらりとしか見えなかったけど、みんな目を丸くしてたと思う。でもそんなことはどーでもよくて、俺はそこにいるはずがない人物に意識が完全に持ってかれた。
「スコール」
 なんでここにいるんだよ、なんて問いかける前にスコールは溜息をつく。
「いい加減にしろ。時間がなくなるぞ」
 それだけ言ってオレを置いて歩き出すスコールに、オレは慌ててファンの子達に時間もうないから、急ぐからと言ってそのまま走り出した。サインを求めてた子達には悪いことしたかもしれないっていう気持ちもないわけじゃないけど、オレはスコールに追いつくほうが遥かに大事なことだった。
 スコールはオレのことを心配して迎えに来てくれたんだ。間違いない。だってオレはスコールのことを誰よりもよくわかってるんだからな。
bkm
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