小説 | ナノ
明るい話


※現パロで高校生3年くらいの810

「酷い話だよなー」
 ティーダはわざとらしくそう言うと、フリルのついた愛らしすぎるヘッドドレスを指先で摘んだ。ふわふわなそれは、正直初めて間近で見る物で、どうしてこんな非日常なものを藁半紙のプリントに描かれた説明だけで作れるのかと不思議になる。そしてそれを作った男は、絶賛、大物の作成中だった。
「スコール、そんなの作ってて楽しいッスか?」
「別に。作れと言われたから作っているだけだ」
 もくもくとミシンを打ち続けるスコールに、ティーダは苦い顔をした。部屋に転がる型紙は大きく、そして正直こんな型紙が許されるかと破り捨てたい衝動に駆られる。
 もっとも、その型紙はとっくに役目を果たしていて破り捨ててもスコールはなにも文句は言わないだろう。だからただの八つ当たりにしかならずスコールへの嫌がらせにもならないためにそれをするのをティーダはやめた。
 ティーダは止まったミシンの音にスコールを睨みつけたがスコールは作品の出来映えを確認するばっかりで振り向きもしない。けれどスコールは気づいている。ぶすくれた表情のティーダに気づいているのにシカトなのだ。シカトして、ティーダに対して悪の所行をしてくるつもりなのだ。
「できたぞ」
「そーっすか。そ・れ・は!お疲れさまッス!!」
 広げて見せられた物に、ティーダは舌打ちをしたがスコールは涼しげな表情だ。常と変わらない表情で、立ち上がってティーダに近づいて言う。
「サイズを確認するから着てみろ」
「死ねよ」

 ティーダはそう言ってスコールの手からメイド服を奪い取った。


□□□□□

 ティーダとスコールが通う学園はクリスマスに学園をあげてのクリスマス・パーティを行う。実質、それは学園祭が混ざっていて朝から夕方までは各クラスの出し物があり、夜にホールでのパーティがあるのだ。
 学園祭が混ざっているのは、秋は部活の大会の予選や就職試験に忙しい時期だからだ。逆に年末になると大会も終了していて、就職先も内定している生徒が多いのだ。

学園は一般の学校と違い、特殊な学校だった。ほぼの生徒が特殊な職業を希望している生徒ばかりで、プロスポーツや傭兵や軍人、パイロットや医療職など様々だった。
 ティーダは学生時代で最後になる大会で優勝を納め、プロ転向も決まっていて、スコールも夏に参加した軍事演習で好成績を収めて傭兵派遣を行っているガーデンへの内定を貰っている。
 ということでティーダもスコールも将来の道ははっきりと決まっているのっだ。当然、腕を落とさないために両名ともトレーニングや訓練は必要だがクリスマス・パーティへの参加ができないということはなかった。
・・・・・・はずだった。

「うわあー。腹立つほどぴったりッス」
「当然だ」

スコールはメイド服を着たティーダの様子を確かめると、袖や襟口を確認する。そして問題ないと確信したのか、どこか満足げそうな表情をした。

「ぴったりすぎて気持ち悪いッス」
「・・・・・・なんでだ」
「いやだって、採寸受けた覚えないんだけど?」

 その通りだった。スコールはティーダのメイド服をせっせと作っていたが、ティーダはそんなもの着せられるのは嫌だと採寸を逃げ回っていたのだ。なのに、なぜか自身にぴったりなメイド服ができあがった。床には当然のように自分のサイズなのだろう型紙も転がっている。

「お前のサイズならわざわざ測らなくてもわかる」

 スコールのドヤ顔での言葉に、ティーダは全くときめかなかった。なにしろそれで出来上がったのはメイド服だ。いくら自分のクラスの出し物が女装メイド喫茶だったとしても嫌だった。

「スコールのどスケベ」
「なっ・・・!なに言ってる!」
「ああ、むっつりどスケベだっけ?」
「違う!」
「いや、測らなくてもサイズ分かるってそれってあれだろ?『お前を抱きまくってるからお前のサイズなんて目をつむっても分かるぜ!』ってやつだろ?わースコールってばどスケベー」
「それはお前だ!だいたい、それで服が作れるか!」
「ええー?だったらなんでこんなぴったりなんスか?」
「俺の家にはお前の着替えがあるだろうが」
「ああ、なんだつまんねー」
 
 ティーダがメイド服のスカートをぴらりと摘めば、スコールはばしりとその手をはたき落とした。スコール作のメイド服は所謂『クラシカル』と言われるようなメイド服らしく、ティーダが街でよく見るネコ耳メイドの着ているものとはずいぶん違った。フリルもあまりないし、スカートも大分長い。だから少しくらい捲ったとしてもなんの問題もないのにと、スコールを呆れたようにみた。
 けれどスコールはティーダの手をはたき落とした後、『お前はもっと慎みを持て』なんてどこの女子高生を娘に持つおやじだと言いたくなるようなことを言ってくる。

 スコールはティーダからすれば、ずいぶんと保守的な男だった。シルバーアクセとかが好きなので、今時の若者かと思いきや男女の関係に関してはずいぶんと古くさい考えの持ち主で。しかしティーダは女じゃないのだがスコールの態度はやはり保守的だった。
 なにしろつきあい始めは部屋で二人きりになることすら抵抗した男だ。あまりにも堅物で、痺れを切らしたティーダはつきあい始めて二日でスコールを襲い受けることになったのだ。
 ティーダは今でも思う。あのとき、自分が受け手に回る覚悟をしていなかったら、つきあって二年経つが今も清い関係だったのではと。

「もっとスカート短くて良かったんじゃねーの?これじゃ笑いもとれねーじゃないッスか」
「・・・・・・うるさい」
「え?もしかしてお前の身体を見せたくないーとか・・・「違う」

照れもせずに真顔で否定され、ティーダはぶすりと頬を膨らませた。『メイドになりきるなら正統派で』というのがスコールの主張だが、高校のお祭り騒ぎの中のメイド喫茶だ。きっとみんな凄い服装になっているだろうに。

「それにしても・・・・・・スコールはずるいッスよ〜。一人だけ女装免除とかなんだよ〜」
ティーダは唸りながらそう言ったが、スコールは全く悔しそうにもせず、晴れやかな様子で『仕方がないだろう』と言い放つ。それがティーダには余計に腹立たしい。
「任務が入ったんだ」
「学生なのに任務とかなんなんスか〜!」
 ティーダは頭を抱えたまま後ろにあるベッドへと倒れ込んだ。少し大きめのベッドのスプリングが大きく揺れる。
 そこは何度も身体を重ねた場所であり、シーツの感触すらもしっかりと覚えている場所だった。
「いい機会だからどうだと誘われたんだ。断れるわけないだろう」
 スコールは研修での成績が良かったから、学生であっても希望すれば任務の参加が可能だと言われたらしい。当然、そんなチャンスがあるならばとスコールが二つ返事で了承するのはティーダも分かっていたし、するべきだと思っている。
(俺だって、試合にでれるって言うなら間違いなくOKだすだろーしな。・・・・・・あーでもなあああ!!)
 ティーダはごろりと体勢を変えると、わずかに丸まって目を閉じた。ぎゅうと瞑ってみるが、もやもやとした気持ちは失せない。
(クリスマス・イブの前日に出発で、早くても年末に戻るっていうのがなー)
 スコールは任務の都合で学祭に出ないため、本来なら女子が担当している衣装班に回されたのだ。せめてもの参加という形だが、ティーダとしては不服だ。
なにが悲しくて恋人の作ったメイド服なんて物を着て、恋人のいない学祭で恥を晒さなければならないのか。しかもその恥が終わった後にも恋人は遠い地で任務ときている。
(学生最後のクリスマスなんだから、一緒に過ごしたかったなー)
 来年からはティーダはクリスマスはできないことが確信しているからだ。スコールの任務の都合もあるだろうし、なにしろティーダ自身がクリスマスのイベントに参加できないからだ。ティーダが入るチームは、毎年クリスマスにエキシビジョンマッチを行うのが慣例で、世のブリッツボールファンのための場を提供するのだ。
 仕方ない、仕方ないとなんとか納得しようとティーダが自分相手に格闘していると、ふっと視界が暗くなった気がして目を開けた。いつの間にかスコールが多い被さり、ティーダの表情をのぞき込んでいる。
「・・・・・・なんスか?」
「・・・・・・いや」
 スコールは口を噤んだまま、そろりとティーダの頬を撫でた。くすぐるようなその動きとそうするスコールの申し訳なさそうな表情にティーダはささくれ立っていた気持ちが凪いでいくのを感じた。
 それをなんとか伝えようと、けれど寂しかっただけなんて口でいうには恥ずかしくて、ティーダも態度で示そうと撫でてくるスコールの手のひらにすり寄ってみせた。
 スコールは僅かに驚いたのか、一瞬だけ手を止めたがすぐに撫でるのを再開させた。つい最近まではティーダに試合があり、一緒にいられる時間が少なかったからこうした些細なやりとりも久しぶりだった。
「・・・・・・悪い」
「・・・・・・なにがッスか?」
「一緒にいてやれない」
 はっきりとした言葉でそう言われ、ティーダはそれでもう納得することにした。もう決まってしまったことであるし、ここでぐずぐずとしていたら、クリスマスどころか今一緒にいる時間すらなくしてしまいそうだったからだ。
 イベント類を一緒に過ごせないのは寂しいが、それでスコールを嫌いになれるわけはない。一緒にいる時間が少なくても、スコールの特別の中で特別な人間として過ごせる時間が多ければそれでいい。

「別に怒ってないッスよ。そんなことより、ちゃんと無事に帰ってくるんスよ?」
「わかっている」
 ティーダは飛び起きると、スコールへとぎゅうと抱きついた。女の子みたいに柔らかい体ではないが、それでも全くかまわないし、むしろこうでなくては思うのだから相当にスコールに入れ込んでいる。
「おい。服、皺になるぞ」
「んー。もうちょい・・・後少しだけ」
「いいからもう脱げ。それから思う存分つきあってやる」
「ええー。脱げって、スコールのえっちー」
 ティーダの言葉にスコールは呆れ笑顔だったが、それすらも愛しくてティーダはカラカラと笑った。けれど確かに脱がなければ折角のメイド服が皺になるのも分かっていた。
 脱いだら思う存分つきあってくれるというのだからと、ティーダはスコールに抱きついていたのをやめようとして・・・・・・はたと気づいた。
「スコール」
「・・・なんだ?」
「今なら、メイドさんごっこができるッスね」
「・・・・・・・・・・・・は?」

 ティーダは唐突に気づいたのだ。男のロマンとも言える、メイドさんとのあんなことやそんなことプレイができるのだ。(残念なことはメイドの格好をしているのが自分なことだ)
「メイドさごっこッスよ!」
「メイドごっこ?」
「そうッスよ!お帰りなさいませご主人様!ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも俺ーッスよ!」
 ティーダはどんっとスコールを引き倒すと腹の上に馬乗りになった。虚を突かれたらしいスコールはあっさりとベッドの上に仰向けになっている。それはティーダが最初にスコールを襲った時と同じような状態で、どうにもスコールはベッドの上のバトルは弱いなとティーダはしみじみと思った。
「おいっ!ティーダ、なにする気だ!」
「メイドさんごっこッスよ。へっへっへー!ご主人様、ごほーしするッスよ!仲良くしましょー!」

 時間はまだまだ宵の口だ。ティーダはたっぷりしっかり、クリスマスの分も楽しませていただくことにした。キスして煽ってしまえば、スコールはなんとでもなることをティーダは知っている。


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テーマは『クリスマスにスコールに任務が入って不機嫌なティーダによるご奉仕が始まっちゃう(性に)明るい(ティーダ)の話』でした。
これは酷い(;´Д`)

bkm
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