小説 | ナノ
スコ育(進撃の誕生日)3

※ティーダ20歳、スコール12歳くらいの話です。



ひゅっと息が詰まり、ティーダはバッと目を開けた。
白い天井が視界に入り、『はて?』と思うが鈍い痛みを伝えてくる腕に『ああ』と納得した。

そうだそうだ。
命辛々、ガーデンに帰ってきたのだった。

ティーダはひょいと手を翳してみたが、帰ってきたときよりも断然に良い体調にどうやら寝ている間に手当されたことを理解する。けれど疲れている体はだるく、動くことを嫌がっているようだった。起きあがるのすら億劫で、『歳をとったもんだ』と一人ぼんやりと思った。

今年で、この世界でとりあえず二十歳を迎えた。
二十なんていったらまだまだ若い部類だろうけれど、Seedとしては高齢だ。というか、Seedは二十歳までしかできないから、今年が最後ということになる。

なんだかあっという間だった。
そのくせ、死にそうなことは何度もあったし、仲間は何人も死んでいった。今のSeedは随分とよく教育も統率もされているから死亡率は下がっているが、最初の頃は酷いものだった。生き残るのが目標みたいなところもあった。

気づけば初期の班の仲間は一人しかいない。
他のメンバーは、三年前の大規模任務で死んでしまった。

自分も死んでしまいそうだったけれど、死にたくない一心で仲間の死も振り切って戻ってきた。

絶望的な状況下で、一人任務をこなして戻ってきた自分をみんなはなぜか英雄だと称えたが・・・・・・実際は生き汚いだけのことだ。生きているのか死んでいるのかもどっちつかずな存在の癖にどうしても帰ってきたかっただけだ。

ティーダははぁとため息をつくとごろりと寝返りを打つ。そこで初めて、自分のべっどの縁に誰かがいることに気がついた。

(あ。スコール)

ティーダはぱちりと瞬くと、ベッドの縁に頭を乗せて眠ってしまっているスコールを見つめる。どうやらしばらく会っていない間に、また頬がこけて身長が伸びたようだ。
どんどんと子供らしさを失っていくスコールに、ティーダは確実に時間が経っているのだということを感じた。

自分は姿形が三年前から変わらない。
十七までは成長していたのに、そこからとんと変わらない。

成長が止まった・・・・・・というだけなら、少々身長が低いのは不満だが仕方がないことで納得も幾分できただろうし悩みもしなかっただろう。
けれど、成長が止まると老化が止まるでは随分と意味合いが違う。

というか、老化どころか髪すら伸びなくなってしまった。かっちりと姿が決まってしまったかのように一七から変化のない自分に不気味さを感じるが、『まあ、俺って夢だからなぁ』とその一言は魔法のようなもので。それだけで疑問は万事解決してしまうのは嫌なものだ。

ティーダはすくすくと大きくなっていくスコールを見つめて、再びため息をついた。

そろそろ潮時かもしれない。
そんな風に思う。

自分は祈り子の夢なのにどうしてここにいるのかとか、しかもどうしてスコールの過去の世界なのかとか、いつまでこうしていられるのかとか考えないこともなかった。

けれどいつだって、なるようになるだろうと楽観的に構えてきたのだ。その理由としてはどうせ考えたって分からないことだったからだ。
だからいつだって、ティーダは自分のしたいようにしてきた。別にSeedになりたかったわけではないが、スコールの傍にはなるべくいたかったし(とはいえ、いつも忙しくてガーデンになんていられなかった)頼れる場所も結局なかったのだ。

けれどそろそろ本気で色々と進路を考えねばなるまい。
気がつけばあっという間にガーデンにいられる最後の年になっている。就職するのか否か。するにしてもどこにするのか。

正直、引き手数多だ。
シド学園長にも誘いが至るところから(主に軍関係だけれど)来ていると
言われているし、Seedとしてあちこち走り回った結果、名指しで指名してくるクライアントも多くいる。Seedを辞めたら、是非来て欲しいと腐るほど声もかかっている。

行く宛には困らない。
けれど、どこにいけるのだろうか。

老化もしない自分をどれだけ隠していけるのか。同じ場所には長くとどまれないだろう。ずっと変わらない人間なんて、人間じゃない。どうすればいいだろうか。

「・・・・・・バッツみたいに、宛のない旅をするっつーのもいいかもしれないッスね」
「バッツって誰だ?」

ぽつりとこぼした言葉に返事があって、ティーダはぎょっとした。随分とぼんやりしていたらしい。いつの間にかスコールが目を覚まして頬杖を突いていた。

「うわっ!びっくりしたッス!スコールいつの間に起きてたんスか?」
「ちょっと前からだ。・・・・・・現役Seedがそんなんでいいのか?・・・まあ、そんなんだから負傷して戻ってくるんだろうけどな」
「酷っ!ちゃんと任務はこなしたッスよ!」
「当たり前だ」

むっすりとした表情でそう言うスコールにティーダはくつりと笑った。大きくなってはいるが、まだまだ子供らしい姿であるスコールが、まるで大人のような口振りで話すのがアンバランスでおもしろい。

しかしスコールはそんなティーダの反応がおもしろくないのだろう。不機嫌そうに眉をしかめるとぎろりと睨んでくる。しわが寄った眉間に、かつての同い歳のスコールを思い出し、ティーダはますます笑った。

「・・・・・・はぁ。で?バッツって誰だ?」
「んー?ああ。昔の仲間ッスよ。チョコボと風と宛のない旅が好きな仲間ッス」

スコールは『ふぅん』という風に言ってちらりと視線をさ迷わせる。『昔の仲間』とティーダが表現したためにもしかしたら地雷を踏んだのだろうかとスコールは考えているのだが、ティーダにはそんなことは通じない。
そわそわとしだしたスコールに首を傾げながら、だる重い体をゆっくりと起こした。

「よっこらせ。はぁー、しんどい」
「・・・・・・おっさんか」
「どうせスコールと比べたらおっさんスよー。くたくたッス。もう任務に行きたくないッスー」

だらりと大げさにうなだれて見せたが、いつものように呆れた溜息も聞こえなければ呆れた叱咤も返ってこずティーダは『はて?』とさらに首を傾げた。

スコールのほうを振り返れば、スコールはじっとシーツの皺を睨みつけていて、ティーダの方をちっとも見ていない。唐突に不機嫌・・・・・・というか、不安がっているというか。だてにスコールを可愛がってきたわけではないのだ。ティーダは様子がどう見てもおかしいスコールに、丁寧に体の向きを変えるとうつむき気味の顔をのぞき込んだ。

「どうしたんスか?」
「・・・・・・別に」
「嘘つくなって。スコールのことならよーく分かってるッスよ。何年一緒にいたと思ってるんスか?」
「・・・日数数えたら、何年もいないだろ」
「うわっ!痛いところ突いてくるッスね・・・・・・」

ティーダは『あはは』と苦笑しながら髪を掻いたが、スコールは一向に顔をあげない。いつもならばこんな時は溜息とともにほんのすこし笑ってくれるのに。
「本当にどうしたんスか?」
「・・・・・・」
「悩みとか、心配事があるなら聞くッスよ?」
「・・・・・・」
「スコールー!ほらほら〜。どうしたんスかぁ?」
 
自分よりもまだ幾分か小さい肩をゆさゆさと揺らすと、それに従うようにスコールの頭がぐらぐらと揺れる。いつもならば、踏ん張るところも踏ん張ろうとしてないようで、これは本格的になにかあるらしい。ティーダは揺すっていた腕をゆっくりと止めると、じっとスコールを見つめた。

「・・・・・・なぁ」
「ん?」

どれくらい待っただろうか。大きくなったスコールを見つめるのはいろいろなことを思い出すからティーダとしては退屈しないのだ。時間なんて分からない。
しかしティーダが見つめ続けた結果、ようやくスコールは口を開く気になったらしい。俯かせていた顔をそろりと上げると、小さな声でぽつりと言葉を落とした。

「ガーデンを出て行くのか?」

置いてかないで。

ティーダはそんな言葉が聞こえた気がした。
その言葉は音としては生まれていなかったけれど、自分を見つめてくるスコールの顔が・・・・・・無表情な癖にそう、雄弁に語ってきていた。

小さい頃から一緒にいたのだ。
時間的には過ごした時間は少なくても、ティーダはそれこそスコールの成長を見守るためにこの世界で生き続けていたのだ。それぐらい分からなくて、なにが自称保護者だ。

「・・・・・・いかないッスよ」
「もうすぐ、二十歳だろ」
「そうッスね。でも、出てかない。教員免許取るつもりッスから」

ティーダがまさに今決めた進路を口に出せば、スコールはどこかほっとしたような顔をして『・・・・・・そうか』と言った。

どんどん大きくなって、なんでだかは分からないがどんどん可愛げのなくなってきたスコールだが、時折見せる甘えたな様子にティーダはでれでれと笑う。

(スコール、かーわいーい)

確実に自らを追いつめているような気はしている。
さっきまで考えていた潮時うんぬんはどうしたというのか。

けれどティーダはやっぱり、スコールの成長をじっと見ていたいと思うのだ。自分の欲求には勝てない。

(スコールが、Seedになるまで。うーん、アルティミシアと戦うときまで。・・・・・・いや、また後で考えればいいか)

「・・・・・・教員免許取るって言っても、試験受かるのか?」
「なっ!受かるッスよ!大丈夫ッスよ!」
「筆記あるだろ?」
「・・・・・・なんとかなるって!」

くつりと上機嫌で笑うスコールに、ティーダも笑った。なんとかなるっていう気持ちは正直な自分の考えでもあり、願いでもあり、期待だった。


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友人の誕生日プレゼントとして書き(ry

bkm
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