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スコ育(進撃の誕生日)1


※ティーダ14歳、スコール6歳くらいの話です。


ガンッとフラタニティに当たった衝撃は随分と軽いものだった。踏み込みが甘いために、切っ先が掠めただけだったのだ。
ティーダはそれを軽くいなすと、ソードを振り下げたために脇に大きな隙ができたクラスメイトの腹を楽々と蹴り上げた。

「踏み込みが甘いっつーの!!」

そう怒鳴りつけると相手はびくりと肩を震わしたが、次に入ったティーダの蹴りに後ろに吹き飛ぶ。それを俊敏な動きで追撃すると、ティーダは倒れ込むクラスメイトの首をめがけてフラタニティを突き立てた。

「これで、死んだッス」

息をあげ、見上げてくるクラスメイトを馬乗りに近い状態で見下ろした。フラタニティは相手の首の真横に突き立っている。下手な奴がやっていたら、間違えて刺していたかもしれないようなギリギリさだった。
ティーダはフラタニティを抜くと、クラスメイトの上から退いてやった。けれどクラスメイトは倒れ込んだまま起きあがらない。

「えーと・・・・・・大丈夫ッスか?」

ティーダは困ったように笑うと、手を指しだしてやった。クラスメイトはそこでようやく体が動くようになったのか、ぶるぶると震える手をティーダに伸ばしてくる。

「ほいよっ・・・っと!」

ぐいっと引っ張り起こしてやれば、クラスメイトの・・・・・・少女はぼろりと涙をこぼした。体勢を崩す目的だけだったから、さほど力を入れて蹴ってはいない。(本気を出したら、ティーダならば骨を砕くくらいは簡単にできるからだ)だから多少痛みはあっても、泣くようなことではないのに。

「・・・・・・どっか痛いんスか?」

ティーダがそう聞いてやれば、少女はふるりと頭を振る。そして小さな声で呟いた。

「・・・どうしよう」

その言葉は大変広がりを持つことができる言葉であったが、ティーダは少女が何を気にしてないているのかはなんとなく分かった。
バラムガーデンが設立されて、一年。まだSeedは世にいない。けれど一年の歳月を掛けて、ようやっとSeedという存在が生まれようとしている。

バラムガーデンの中で特に優秀とされる生徒たちが第一期のSeedとなるのだ。
正直、時期尚早だとティーダは思っている。この世界に来て、体の年齢はおそらく十四、五歳だと思われるが(一応、体面上としては十四歳にしてある)経験上はおそらく一八歳か十九歳だ。それに、これでも世界を二度救った経験もあるし、一度は死んだに近い状態になったこともある。
ここの生徒たちよりは幾分かは死線もくぐっているし、謀略や策略の中を駆け抜けてきたこともある。

「どうしよう・・・ティーダ・・・あたし、あたし・・・」

ぐすりと少女が泣く。少女はこの世界で十五歳となる少女だった。別の孤児院からやってきたという身寄りのない少女で、ティーダと同様に行く宛もなく、生活能力もない哀れな少女だった。
衣食住と学問の門戸が開かれているガーデンではあるが、まだガーデンそのものを支えるはずのSeedが機能していない。手探り状態で、しっちゃかめっちゃかで教師と呼ばれる存在がいないわけではないが、さほど役にも立っていない。
教師陣は元・軍人らしいが剣など技術に関してはティーダにも及ばない。ただ上から意味もなく叱りつけるばかりの連中で、それならば軍から持ち込まれた戦術書やサバイバル技術の本の方がよほどいい教師だった。

嗚咽で言葉を詰まらせながら泣く少女に、ティーダは頭を掻いた。少女はバラムガーデンの中で才女と呼ばれる少女だった。戦う技術も、ガーデンの中では悪くはなかった。
その二つの理由から、この少女はもうすぐ・・・・・・いや、来週には第一期のSeedとなる。前例もないそもそも、魔物とすら禄に戦った経験はないのに傭兵としてSeedとして、バラムガーデンを背負って戦わなければならないのだ。

少女は身寄りがないからここに来たのだろう。成績がいいのは、自分の生きていくための力を欲したからだろう。その結果、なんの庇護も手引書もない第一期のSeedにならなければならない。

Seedの育成を目指すバラムガーデンは理論に乗っ取ったカリキュラムがあり、必要な技術を一つ一つ修得できる。他の国では、子供は全員ガーデンで学ぶのを義務づけられている。
そんな話をティーダは思い出した。異世界で出会った、伝説のSeedとなった男にSeedとはどんなものなのか、ガーデンとはどういうものなのかと尋ねたときに教えてもらったことだ。
その男の言ったガーデンは、今この世にはない。きっとこれから徐々にそんな場所へとなっていくのだろう。というよりも、きっと自分たちがそういう場所にしていかなければならないのだ。今は正直最低な場所だが。

「・・・・・・ティーダは・・・怖くない?・・・・・・敵にやられて・・・死んじゃうかもしれないんだよ?」

ぐすりと鼻をすする少女にティーダはにっと笑った。そしてその頭をぽんぽんと撫でてやる。

「大丈夫ッス。敵は俺が倒すからさ。まずは、自分を守ることを考えろよ。ちゃんと無事に帰ってくるのも、Seedの仕事の内だろ?」

第一期生は戦場やクライアントとのやり取りの知識を持ち帰り、後続となる生徒たちにフィードバックするのも重要な任務の一つだった。
むしろ第一期生は人柱だ。いろんな場所へ行き、知識を持って帰ってくる。それを元に、次のSeedをよりプロフェッショナルとする。

まあ、仕方ない。それが任命されたときに第一任務として課せられたことなのだから。

ティーダは少女がゆっくりと頷いたのを見届けてから訓練所をでた。少女にもでようと誘ったが、少女はまだ少し訓練をすると言ったため先に失礼することにしたのだ。
今は、何かをしていないと不安になるのだろう。来週にもなれば生死も分からぬ世界へと走り出さなければならないのだ。無理もない。

ティーダは訓練所から抜け出ると、長い廊下を歩いた。もう夜だ。動いて腹が空いたけれど・・・・・・あいにく食堂はしまっている。シャワーを浴びて眠ってしまうのがいいだろう。
ティーダは自室に入ると部屋の明かりもつけずにシャワーへと向かおうとした。

けれど、部屋の中にある気配に足を止めて眉を顰めた。
ティーダはバラムガーデンの中で実技トップのため、やや優遇されていて、一人部屋だ。だから自分以外の気配が部屋にあるのはおかしい。
ペットだって飼ってはいない。
ティーダはがしがしと頭を掻くと、盛大に溜息をついて壁にあるスイッチを押した。パッと明るくなった室内で、ごそごそとベッドのシーツがうごめいている。

「・・・・・・スコール!」

ティーダが僅かに声を大きくしてその名を呼べば、シーツの中からアッシュブラウンの髪が覗いた。くりくりと大きな目が、不安げに揺れながらティーダをじっと見つめてくる。
その頼りない様子にティーダは弱いものいじめをしているような気持ちになったが、ここはしっかりと言い聞かせねばとぐらつく気持ちを叱咤した。

「・・・俺の部屋で何してんの?スコールはもう、一人で寝れるようになったんじゃなかったんスか?」
「・・・・・・」

黙ったままじっと見上げてくるだけのスコール。スコールの腕の中には持ってきたのだろう、自分の枕がある。完全にここで寝るつもりのようだが・・・・・・そうはいかない。

「自分の部屋で寝るッス。ほら、起きて起きて」
「・・・・・・やだ」
「スコール!」
「やだ!」

スコールはそう言ってばふっとシーツをかぶってしまった。ティーダは手のひらで顔を覆うと、くそうと一人ごちる。
それは『ああ、もう。甘やかしすぎたのか?』という気持ちと、『ああくっそ!スコールめっちゃ可愛い!!』という相反していると言ってもおかしくない気持ちからだった。

バラムガーデンに入ってから、『おねえちゃん』と慕ったエルオーネがいなくなった反動からか、スコールは前以上にティーダにべったりとくっついていた。年少クラスはまだ数が少ないため、からかうのはサイファーくらいらしく、いじめられもしないだろうと時間が合れば一緒にいて構ってやっていた結果がこれだ。
夜も一人じゃ眠れない(年少クラスは数が少ないから、スコールはルームメイトがいないのだ)と部屋にやってくるスコールの可愛さにやられて甘やかした結果がこれだ。

スコールは一年経っても、六歳になっても一人寝ができない子になってしまった。

(・・・・・・このまま行くと、スコールどんな子になっちゃうんだろう)

ティーダは異世界で出会ったスコールと目の前のスコールを比べ、未来を憂える。
このままではいけない。せめて一人で寝れるようにならなければと心を鬼にしたのが先週の話だ。

ティーダももう、Seedとしてやっていかなければならない。
次はいつガーデンに戻れるのかも分からないのだ。
スコールはスコールでしっかりと自分で立って成長しなければ。
来るアルティミシア戦はどうなるというのか。

「スコール!約束しただろう?これからはちゃんと一人で寝るって!」
「・・・・・・ここで一人で寝る」
「こらー!俺はどこで寝ろっていうんスか!!」

ティーダはがっしとシーツを掴むとそのまま勢いよく引っ剥がした。
途中スコールが引きはがされまいと抵抗をみせたがそんな六歳児の抵抗なんて何のそのだ。

「・・・・・・なに泣いてるんスか」

シーツをはがして現れたスコールは、べそべそと涙を流していた。頭を乗せているティーダの枕がすでにびしょびしょだ。

「なにー?そんなに一人で寝るのが怖いんスか?んー?」

ティーダは軽くため息をつくと、がしがしとスコールの頭を撫でた。スコールは相変わらず黙ったままで、べそべそと涙を流している。

「スコール。喋らないとなんにも伝わらないッスよー?」

ティーダはスコールの脇に手を差し入れると、そのまま抱き起こした。
自然と伸びてくる手は、枕を放り投げてティーダの首に絡まり付く。
去年よりも確かに大きくなったスコールは去年と変わりなく甘えん坊だ。
よっこらせと抱き上げてやれば黙って泣いていたスコールから『うわーん』と鳴き声が漏れた。

「どーしたんスか?なんかあったの?」

いくら一人で寝たくないと言ってもこんなにびーびーと泣くスコールは珍しい。
ティーダはその背中を叩きながら問いてやると、スコールは嗚咽で言葉をつかえさせながらぽつりと言った。

「・・・・・・ティ・・・ダ・・・死んじ・・・ゃうの?」

その言葉にティーダはぎょっとし、そして眉をしかめた。なんて物騒なことをと思わなくもないが、スコールがそう言い出す理由は十分にある。
なにしろ自分は、来週には正式なSeedとなるのだから。
けれどスコールはまだ死という概念からは遠いはずだ。

Seedになるということはスコールにもちゃんと伝えたが、死ぬなんて連想させるようなことは何もいっていない。

「まさか!死なないッスよ?誰がそんな縁起でもないこと言ってた?」
「・・・・・・さっき、訓練所で・・・・・・お姉さんが言ってた。ティーダも、一緒にいた・・・・・・」
「・・・・・・スコール。訓練所は危ないから、遊びに来ちゃだめだってなんども言ったスよね?」
「・・・・・・」

ちくりと咎めたが、スコールは顔をティーダの肩に埋めてしまったために何も答えなかった。
なのに離すまいと言わんばかりにしがみついてくるスコールにティーダはどうしたものかと思う。
さきほどのクラスメイトの不安をスコールも聞いていたらしい。あそこは魔物の気配もまざるから、スコールがいることに気づかなかった。

「大丈夫ッスよ。Seedの任務は確かに危険なこともあるらしいけどさ。俺は大丈夫ッス!ちゃんと無事に帰ってくるからさ!」

そう言って背中を叩くと、スコールはちらりと顔をこちらに見せた。
その目の奥にある猜疑の色にスコールはエルオーネがいなくなったことをまだ引きずっているのだと分かる。

「・・・・・・本当?」
「本当」
「うそつかない?」
「嘘つかない!エースだからな!」

スコールはティーダの肩にもたれかけていた顔を上げると、すんと鼻を啜ってようやくにこっと笑った。
ティーダはスコールのその可愛らしさにでれでれしながらも、『あのスコールが・・・』なんていう笑いを堪える。

「・・・・・・じゃあ、約束」
「うん?」
「帰ってきたらこうやって抱っこして」
「いいッスよ!ぎゅーってハグだな!」

ぎゅーっと抱きしめてやれば、スコールもおかえしとばかりにぎゅーっと抱きしめ返してくる。
その子供特有の温かさにほっこりとしながらも、ティーダは心の中で息を一つ吐いた。

バラムガーデンはまだ、発展途上だ。
スコールが話したような場所ではまだない。
変えなくてはいけない。スコールたちがちゃんと、Seedとして戦っていける技術を学べる場所にしなくてはいけない。

(怖くない。俺、ちゃんと帰ってくるし。俺、スコールを立派なSeedにするんだから)

人を殺すのなんて**い。
人間同士の戦いなんて**い。

ティーダはスコールをぎゅうと抱きしめ、『**い』という気持ちに蓋をした。

今はその感情は、スコールを守るのに邪魔なだけだ。

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友人の誕生日プレゼントとして書きましたスコ育全5話です。
これは1話目です。掲載許可をもらったので、順次上げてきます。
ちょっとずつティーダとスコールの年齢が上がっていきます。
お誕生日おめでとーう!
bkm
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