小説 | ナノ
バージョンB

「もう耐えられないッス!!」

その鳴き混じりの悲痛な叫びが、エスタ大統領邸で響いた。
けれどそれはもう、日常の一部であった。



□□□□□


短期の任務を三つこなし、報告書を含む雑務を終え、それなりの期間の休み(といっても数日だが)をもぎ取ったスコールはゆっくり休むこともなくバラムからエスタへと飛んだ。

最近のスコールは立て続けに任務をして、幾分かの休みを取ってエスタへ赴くというのが恒常化していた。
最初こそ、仲間たちに『スコールでも親孝行する気になるんだな!』なんて酷い言われを受けたが次第に慣れたのか、休みを申請する前に『いつも通りに休み取っておいたから』と先に処理されてしまうようになってしまった。

スコールは人が溢れたエスタの街の中を、もうすっかり慣れた足取りで大統領邸に向かう。今は昼間のため、間違いなく家の主・・・・・・エスタ大統領は職場にいるだろうけれど、別に大統領に会いに来たわけではないので構わない。

「もう!どこ行っちゃったの!」

スコールが大統領邸の玄関をくぐると、そんな声が聞こえてきた。
玄関から続く廊下で、スコールに背を向けたままきょろきょろとあたりを見渡している女性がいる。

「・・・・・・エルオーネ」
「あらスコール。いらっしゃい!」

振り向いた女性はスコールににこやかに笑った。
そしてその手には、エルオーネにはサイズが合わないであろう女性ものの洋服がある。

そのエルオーネの姿に、スコールは今この家で起こっていることが容易に理解できた。
そして先ほどエルオーネが漏らしていた言葉も、誰に向けた言葉かも理解できた。
そしてさらにさらに、スコールが目的にしてきた人物はどうやら隠れてしまっていてすぐに会えそうにないことも・・・・・・理解できた。

「・・・・・・またティーダを着せ替え人形にしてるのか?」
「着せかえ人形だなんて!ティーダに似合いそうな洋服を着てもらってるだだわ!」

それは着せかえ人形とどう違うのかスコールには分からなかったが、エルオーネが今手に持っているような洋服をティーダに着せたいという欲求が抑えられないのは分かった。

スコールはエルオーネに促されるまま邸にあがると、『散らかってるけど』と通されたリビングにぎょっとした。
そこにはこれでもかというほどのレースやフリル、リボンがあしらわれた洋服がソファにいくつも置かれている。

こんなの誰が着るんだ。

そんな風に思うけれど、過剰なのとまあ・・・・・・ややフェミニンなものとが混じり合っているので、着れないこともないだろうというのもちゃんとあった。
そして誰が着るんだとスコールは思ったが、前述のやりとりを考えても誰のために用意されたかは分かっている。

「・・・・・・ティーダはこういうのは着ないだろう」
「そんなことないわよ!だって可愛いもの!」

スコールは胸にリボンの着いた白いワンピースを手に取った。肩が露出するタイプのそのワンピースは清楚さがありながらもきちんと今の流行を意識しているらしい。

けれど、ティーダは別にこういうものを好むわけではないはずだ。
だって、元が男だから。

その言葉を言ってしまいたい気にもなったが、スコールはぐっと飲み込んだ。この世界にティーダがいて、しかもなぜか少女になってしまったことはスコールとティーダだけの秘密だ。

スコールは結局、訳あってこの少女を預かってほしいというそれだけの言葉でティーダをエスタ大統領・・・・・・父親に預けたのだ。
何か聞かれたらどう返事をすればいいのかスコール自身も困っていたのだが、ラグナはスコールに詳しいことを聞くこともなく、自分を頼ってきたことが嬉しかったのか二つ返事で了承してくれた。

結果として、ティーダを預かることでスコールがエスタに来る頻度がぐんとあがったのだからラグナとしては文句はないだろう。
しかもある程度の日数をエスタで過ごすのだ。仕事を急いで終わらせて帰宅すれば、ちゃんと家にスコールが居て夕食も一緒にできる。
そのことが励みになるのか、スコールが休みを取ったからエスタに来るという連絡が入ればその前後の期間、非常に仕事がはかどって助かると、大統領の右腕たちも感謝することはあれど、ティーダがエスタにいることに不満などはありはしない。

そして、部屋の様子を見る限り、スコールが姉と慕うエルオーネも存分に妹として可愛がっているのだろう。

「・・・・・・はぁ」
「あ、スコール。ティーダ探してきてくれる?お茶とお菓子を用意しておくから」

エルオーネは広げていた服を片づけながらそう言った。
スコールは仕方ないとリビングを出るが、そもそもティーダに会いに来たのだ。

スコールはきょろりと邸を見渡して、ティーダがどこにいるかを考えた。
日々、エルオーネと隠れん坊をしているらしく段々とその隠れ場所がトリッキーになっているらしい。

とりあえず自室にはいないだろう。
あと、人の部屋にも隠れはしない。
となれば客室か、それとも・・・・・・。

スコールは今日は気候が暖かく、風も気持ちがいいことを思い出して外へと向かった。
大統領邸というだけはあり、庭はそれなりに広い。隠れるところはいくらでもあるだろうし、広いぶんだけあって追ってこられてもこっそりと逃げ出すのも容易だろう。

「・・・・・・ティーダ」

スコールは庭にでて静かな声でそう呼んだ。
そうすれば、庭の隅にある木がぎしりと軋む音を立てる。
風に揺らいだ音ではない、その不自然さにスコールは目敏く気づくと、まっすぐにその木へと向かい、下から見上げた。

(こんなところに、そんな格好で・・・・・・)

見上げた先、木の枝に腰を下ろしてぶーたれた顔をしている、ひらひらとしたミニワンピースをきた少女にスコールは呆れた。

少女・・・・・・というか、ティーダなのだがティーダはスコールを睨みつけると、すぐにへにゃりと様相を崩した。

「スコール、久しぶり・・・・・・」
「・・・・・・ああ。降りてこないのか?」
「え?ああ、降りるッスよ」

スコールが一歩後ろに下がれば、木の上にいたティーダはひらりと飛び降りた。その拍子に当然、ミニワンピースは捲れあがり、スコールの眼前にこれまた真っ白なレースがあしらわれたショーツが現れたが、身につけている当人は全く気にした様子はない。

それは元がというか、中身が男だからだろう。
体が男であった頃は、半裸でうろうろするような奴だったのだ。
自分の露出も、女性の過度な露出もさほど気にならない文化で育ったのもあるらしく、少女になっても露出を気にしない。

やめてほしいとスコールがいくら思っても、男勝りな(男だからしょうがないのだが)振る舞いはいっこうに止まない。

「はぁ・・・・・・エルオーネ探してたッスか?」
「ああ。また逃げたんだろう?」
「だって!だって・・・・・・」

しおしおとうなだれるティーダを、少しだけ哀れに思う。
スコールはティーダとどういう経緯で知り合ったとか、子細を説明していないのだ。だから当然、誰もティーダの中身が男だとは知らない。
男勝りなのは生活から知られてはいるだろうが、いかんせんスコールと仲睦まじく、ティーダ自身がスコールを『大好きッス!』と声高に言うために、外見、中身ともに可愛らしい少女と思われている。

「嫌なら着なきゃいいだろう。お前が中途半端に着たりするからだ」
「だって・・・」

そう、ティーダは中途半端なのだ。
嫌ならば着なければいいのに、エルオーネが差し出す服を着たり、着なかったりをする。
女物を着たくないのなら、一貫して着なければいいのに・・・・・・スコールにはよく分からないが、ティーダは結構女物を着たりしている。
少なくとも、エスタにきたスコールを出迎えるとき、ティーダはいつだって女物のそれも可愛らしい服を着ている。
エルオーネに遠慮しているのだろうかと思うが、エルオーネだって真剣に嫌がる相手に服を着せようと押しつけることもなかろう。

ティーダが中途半端なせいで、ティーダが着たくないと言った服は、単純に好みの問題だと思っているかもしれない。

「うう・・・・・・だってさぁ・・・・・・」

ティーダはミニワンピース姿でよろよろとスコールに近づくと、ぎゅうと腰に抱きついてきた。
男の時は後ろに飛びついてくることが多かったが、少女の姿になってからは見かけ的に暑苦しくないし、奇異な目では見られないからと正面から抱きつくことが増えた。

スコールはまろやか肩を撫でてやりながら、随分と可愛らしい外見になってしまったなと幾度も思ったことを考えながら、ティーダを見つめる。

「エルオーネが、『可愛い格好でスコールを出迎えてあげたら、きっと悦ぶよ』って俺を乗せてくるんスよ・・・・・・。乗っかる俺も俺だけどさぁ」

ううっ・・・と呻いてスコールの腹に頬を押しつけてくるティーダにスコールは固まった。

外見どころか、中身も随分と可愛らしい。
いや、それは元からだったかもしれないけれど。

スコールは肩を撫でていた手をそろりと腰に回して抱きしめる。
ぎゅうっと抱きしめ返してくる細い腕を愛しく思いながら、今回の休暇をどうティーダと過ごすかを考え始めた。


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ロリコーン!Fooooooo!!

bkm
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