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にんにん

※時代劇パロで、10が忍者で8が主君の子供設定?

『お前はどうしようもないな』

ティーダは昼間、そう言われた言葉を思い出した。
懐から団子を取り出すと、甘い垂れがついたそれを口に一つ頬張る。
齧れば甘さが舌の上に広がり、時間が僅かに経っているからが固くなっていたが十分に美味い。

それは昼間、ティーダがスコールに強請って買ってもらったものだ。
スコールは『お前、幾つだ』と呆れ顔をしながらもティーダが好きなみたらしを3つ買ってくれた。
それを一本食し、『美味しい』と言えばクラウドは笑っていた。

スコールとクラウドは甘いものを求めたりはしないから、その団子はティーダだけのもの。
夕餉もあるのだから、食いすぎるなよと言われて、ティーダは何本だっていけると返した。

『お前はどうしようもないな』

そう言ったスコールは穏やかな表情で、僅かに肩の力を抜いたようだった。

いつだって命を狙われて、気を張って。
ご苦労なことだ。
スコールに対してそう思う。

ティーダはむしゃりと串からみたらし団子を剥ぎ取ると、眼下にいる男達をみた。
そいつらは非常に厄介な存在で、まあ……平たく言えばスコールの命を狙うやつらなんだが。

(お仕事始めるとしましょうか〜)

ティーダはみたらし団子を綺麗に串から剥ぎ取り終わると、よく噛んで咀嚼した。
口に広がる甘さと、若干の甘い香りが心地よい。

本当は忍びが匂いの付く物を好んではいけないのだが……。
こういう人間味のあるようなものも好んでおかないと、人の中に上手く溶け込めないだろう。

ティーダは口元の布あげ、串を持つと屋根の上から音もさせずに眼下へと降りた。
男達はティーダに背を向け、小言で話をしている。
これからスコールの屋敷に忍び込む算段についてだろう。

馬鹿な奴等だ。
そんな無駄話が今生の最後の言葉とするなんて。

ティーダは一人の男の背後に一瞬で近づくと、持っていた団子の串で首の裏を一突きした。
『ぐっ』という鈍い声と、突然のことに驚いた顔をした男達が振り返ったが、
反対の手で持っていたクナイで喉仏を掻き切り、叫び声もでないようにする。

血はすぐ傍にある川で落とせばいい。
死体は川にある船に乗せて流してしまおう。

そんな風に思いながら、自分に僅かに掛かった血に眉間を顰めた。

(やばっ。スコールに似ちゃうッス)

ティーダは覆面の下で笑い、すっかり物言わぬ躯になった男達を担ぎ上げた。
三人の男を船に乗せ、誰もいないことを確認しつつ懐を漁る。

でてきたのは……やはり同じ国の印が入った通行手形で、差し向けたのがどこの所属か分かる。

「馬鹿じゃないッスかねー……。まぁ、スコールを狙う時点で馬鹿なのはわかりきってるけど」

他にも身元が分かりそうなものを全て引き抜き、用なしとなった躯を乗せた船を流した。
筵がかぶせてあるが、下流の方で見つかるだろう。
まあ、でもどうってことはない。

ある程度の見せしめにもなる。

「お仕事完了ッスー」

ティーダはそう言うと、血のついた串を川に投げ捨てた。
クナイはまあ仕方がない。
適当に水で漱いで、スコールとクラウドが剣術の鍛錬でもしているころに研ぐとしよう。

ティーダは覆面も、血のついた服も剥ぎ取るとそれを川に浸した。
布は水を吸って重くなる。
ぐいっと引き上げれば、確かな重さに面倒くさいなという気持ちが沸き起こる。

なんでこんな風に、隠さなければならないのか。
そんな風に思うけど、主君の命なのだから仕方あるまい。

スコールには、知られないこと。
あの子に汚いものは見せたくないんだ。

そんな風に言った主君に溜息をついた。
あれが父親というものだろうか。父の愛というものだろうか。

いずれはスコールも、跡継ぎとなるのだからいま隠してなんになるのかとティーダは思うが……命令だから仕方ない。
隠すのは面倒だ。
昼間はなるべく笑って、どうしようもないやつを装って。

(面倒くさい……)

ゆっくりと歩き出し、屋敷の敷地内に入れば僅かに動く気配がして。
その気配がまた、知ったものだと気づいてティーダは溜息をつく。

また勝手にと思い、ティーダは水に濡れた上着を屋敷の屋根に放ると、廊下を歩いていた主君の息子の背後にたった。

「スコール!どうしたんスか?」

声を掛ければ振り向いた、箱入り息子。
箱入り息子なスコールは現れたティーダを振り返って、まじまじと見てる。

まあ、分からなくもない。
ティーダの今の格好は上着がない腹掛けの状態だからだ。さぞかし奇異であろう。

「なんだその格好は」
「なーんか暑くってさ」

ティーダがそう言えば、スコールはちらちらとティーダを見て、溜息をついた。
なんだよその反応は。

「今までどこにいたんだ?」
「ん?ああ。上で月見してたッス。昼間の団子もあったしさ」
「月見……。お前そんなことで忍びが務まるのか?」
「へへへっ。まーいいじゃんか。なんもないんだしさ」

そう言えば、スコールは『困った奴だな』と言った顔をした。

俺からしたらお前が困った奴だよ。
こんな嘘に騙されて、どんだけお優しいんスか。将来が心配ッスよ。

ティーダのその心の声は、スコールには届かないし心外なものだろう。なにしろスコールはティーダと違ってお綺麗な存在だからだ。

「ところスコールはどこ行くんスか?一人でふらふらは行けないッスよ」
「……どこにも行かない。もう部屋に戻って寝る」
「ふーん?んじゃ、お供するッス」

歩き出すスコールの後ろにティーダはついていく。
時たまスコールはこうして一人で夜に廊下をふらふらする。
最初はなにしてんだこいつと思ったそれは、いつもティーダがスコールの傍を離れているときで。

ああ、こいつ俺を探してるのかと思えば随分と可愛らしいことだとティーダは思った。

あーあ。
可愛すぎて困っちゃうッスよ。
忍びのなんたるかも知らない、跡継ぎのお坊ちゃま。

俺が忍びとしてどうしようもないなんて信じて、『お前は忍びとして優しすぎる』なんて真面目な顔で言ったりするから可愛い。

「スコール。眠れないなら、添い寝してやろうか?」
「結構だ」

おや可愛くない。
本当は、寂しくて俺を探していたくせにさ。

ティーダはくすりと笑うと寝所に入ったお坊ちゃまに恭しげに頭を垂れた。
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なんか発掘しました。2011年6月19日に書いたものです。
一年近くお蔵入りしていたらしい産物。
なんぞこれ。これ、きっと多分、某お方の日記にある時代劇てきなやつに感化されたんだろうものです。
多分。うん、多分。

bkm
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