小説 | ナノ
温度差のあるキス

そっと落とされるキスに不満を感じるのは自分だけなのだろうか。
ティーダはふっとそう思いながらも、額に触れた乾いた柔らかさに胸がぎゅーっと熱く、痛くなるのを感じた。
同時に頬を熱さに今の自分はきっと赤いのだろうということも分かる。

額にキスをされたというだけなのに、これほどまでに体中が熱くなりいてもたってもいられなくなり叫んで走り出しそうになる(実際にはしないけれど。明らかにおかしいし、もっと先を期待しているために我慢している)ような自分だから、額にキスしかないのだろうか。

ティーダは離れていくクラウドをほんの少しだけ顎をあげて見つめる。
顎をあげるのは、クラウドの身長がティーダよりも大きいからだ。
もの凄く身長差があるわけではないが、それでも幾分かの差が存在する。

クラウドは見上げるティーダに対して優しげに微笑むとくしゃくしゃと頭を撫でてきた。
その仕草が本当に子供に対してするような、慈しみのような感じでティーダはむぅと唇を尖らせる。
けれどクラウドにティーダの不満は通じなかったようで、仕上げというかのようにぽんっぽんっとティーダの額に軽く手を置き、促すように歩き始める。

酷い。こんなのってないッス。

ティーダは数歩先を歩く男・・・・・・もとい、四つ年上の恋人を睨みつけた。
恋仲となってそれなりに経つ気がするのだが、恋人であるクラウドは何も変わらない。
想いを伝える前と同じようにティーダに接し、ひたすら優しい。

確かに恋人同士になる前、ただの仲間だった頃は額へのキスすらなかったが・・・・・・それでも唇にしてくれるキスもほんの時たまなんて酷いんじゃないだろうか。
自分はもっともっと、べたべたいちゃいちゃしたいのに。
ティーダはそう思うけれど、思うだけだ。自分の性格上、バビュッと行っちゃえと思わなくもないけれど、どうにもうまく行かない。
クラウドを前にすると普段の自分らしいと思っている行動が取れない。
積極的すぎて嫌がられないかなとか、引かれたりしたらとかそんなことをつらつらと考えて足が動かないのだ。

「ティーダ?どうした?」

振り返ってそう言うクラウドの声音は、いつも通りの抑揚のない声だ。
けれどその瞳に心配という色が含まれているのを見つけ、ティーダは堪まらなく嬉しい気持ちと、情けないく悔しい気持ちがない交ぜになった。

「なんでもないッスよ!」

そう言って飛びつくようにしてクラウドの腕に自分の手を絡ませた。
自分とは太さがまるでちがう、がっしりとした腕にときめきを感じながら、『ふりほどかれないかな?』なんてことを思い、クラウドを見上げる。

「ならいい」

見上げたティーダの目に映ったのは、微かな微笑みを湛えたクラウドだ。
手を振り払うこともせず、ティーダの好きなようにさせている四つ年上の恋人。

ああ、悔しい。けど、好き。

ティーダはぐっとつま先立ちになると、自分よりもずっとずっと白いその頬にこれでもかというくらいの愛と恋しさを込めて、ちゅっと軽いリップ音をたてた。



□□□□□



頬を軽く吸われた感触に、柄にもなく目眩がしそうだ。

自分からそうしたというのに頬を赤らめ、けれどどうだと言わんばかりに目を輝かせて見上げてくる四つ年下の恋人に、クラウドはぶるりと震えそうになるのを堪えた。

恐怖なんかではない。
その震えは嬉しさとか幸せとか、あとは言葉にできない衝動であった。
まだ十七歳なんていう子供すぎるわけでもなく、かといって大人にもちっともなりきれていない中途半端な年頃の可愛い可愛い恋人。

自分の中にある衝動を野放しにしたら、壊すほどに傷つけてしまうかもしれないという点に関しては恐怖かもしれないがクラウドの今押さえているのは単なる恐怖ではなかった。

可愛い。可愛い。

それこそ、可愛いところを全部上げろと言われたら延々と上げ続けられるか、それこそ『全て』の一言で終わってしまうくらいにティーダは可愛い。

頬に贈られた口づけの感謝を表すつもりでティーダの頬を撫でた。
そうした途端、ティーダはむぅと頬を軽く膨らませて不満を表現した。
それは意識的に表現しているのか、それとも無意識か。そのどちらでも大変に可愛らしいことだ。

物足りないと、そう訴えているのは分かっていたが今よりももう一歩踏み込むことはクラウドには中々難しいことだった。

ほんの時たま、その柔らかい唇を食むことがあるがあれも本当に危険なのだ。

その触れ合わさった瞬間の柔らかさと間近に感じる甘い匂いにそれこそ理性が焼け落ちてしまいそうで。
もしそんなことになったら、この何処も彼処も柔らかそうでいい匂いのしそうな体を隅々まで暴いてしまうだろう。
暴くだけでは飽きたらず、きっと触れて舌を這わせて・・・・・・それこそ嫌だと言われたってもう止まらないだろう自信がある。

そうなってしまいたいという気持ちも、全て衝動のままに振る舞いたい欲求がクラウドにないわけではない。

けれど自分を見上げてくる四つ年下の恋人の眼が、自分を見る眼がキラキラと輝きすぎているためにクラウドはそんなことができやしないのだ。

ティーダの『好き』と言ってくれた言葉も、気持ちも疑ってない。
ただ、クラウドとティーダの間に横たわる四年の年月が気持ちに差分を生んでいる。
ティーダの眼が、クラウドを見つめるその眼差しが『憧れ』をまだたぶんに含んでいる。
綺麗な綺麗な『憧れ』がクラウドに向けられているのだ。

それはまだティーダ自身が、それこそ理性が吹き飛んでしまうかのようにクラウドを求めているのではないということを表している。

ティーダの欲求はクラウドよりもまだまだ幼いのだ。

それが悪いことだと、クラウドはちっとも思ってない。
気持ちと欲の熟成には個人差があるだろう。
ただ単に、クラウドはティーダと違って軽いキスやペッティング、それこそ一緒にいられるだけでいいだなんて綺麗な恋ができないだけだ。

もっともっと、深くまで求め合いたい欲望が渦巻いていて・・・・・・それの引き金になってしまいそうな触れあいすら、禁じなければならないのだ。

クラウドはそう思いながら、不満そうにしている四つ年下の綺麗で可愛い可愛い恋人にほんの少しだけ触れる口づけをした。

触れ合わさった唇の柔らかさにやっぱり理性が焼け焦げそうになるがそれはぐっと堪え直して、目の前で口づけをされたことに恥ずかしさと嬉しさを感じているらしい、頬を薔薇色に染めた恋人を目を細めて見つめる。

「ほら。もう拠点に戻るぞ」

「・・・・・・ん」

ふわふわと嬉しそうにしている可愛いティーダに、クラウドはどこまで我慢できるだろうかと一抹の不安を感じていた。


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春コミにて配布した無料配布の710です。
お題はこちらからお借りしました。(恋したくなるお題
まぁ……いつもの通り、ティーダを過剰に可愛がるクラウドの話でした。
このパターン好きですね。兄と弟っていうのが好きです。ハァハァ。
bkm
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