小説 | ナノ
スコ育4
※スコ育。スコールが10歳くらいの頃の話。


「今日はここまでです。課題は来週の授業で提出するように」

教官がそう言ったのにあわせて、俺は急いで教本を片付け始めた。
早くしないと、またサイファーがうるさく絡んでくる。
今日はそんなのの相手をしている暇なんてない。

手早く荷物をまとめると、俺は席を立った。
けれどちょっと遅かったのか後ろで風神と雷神を従えたサイファーが立っていた。

「よお、甘えんぼスコール!お早いお帰りだなぁ」
「……別にいいだろ」
「今日はティーダさんが帰還する日だからな。早く飛びつきたいってか?」

にやにやしながらそんなことを言うサイファーをぎらりと睨みつける。
けれどそんなのに怯むサイファーでもないから、相変わらず人をからかう目だ。

「……用がないならどいてくれ」
「なんだよつれないな」

肩を竦めてそういうサイファーに苛立ちを感じる。
サイファーが突っかかる理由は分かる。

それは、ティーダが俺をかまうからだろう。
ティーダは年少組をよくかまってくれるが、その中では俺は特別だ。
自分でもそう思うくらいに、ティーダに甘やかされてる。

理由はずっとティーダと一緒にいたからだ。
いつからいたのかとかは……あんまり覚えてないけど、とにかくずっと一緒にいた。
ティーダは俺の兄みたいなもんだと自称しているし、俺だってティーダと一緒にいたい。

けど、ティーダはバラムガーデンを代表するSeeDだ。
バラムガーデンが設立された翌年にSeeDとなった第一期のSeeDだ。
SeeDが誕生して4年経つが、世にSeeDが認められているのはティーダたち第一期のメンバーの功績だろう。
つまりティーダはSeeD黎明期を支える存在であり、バラムガーデンではもっとも尊敬される立場といえるものたちの一人だ。

そんなティーダはその人好きする性格ゆえに、皆に慕われてる。
俺という知り合いが年少組にいるせいか、よく年少組に気を遣ってくれるのだ。

そんな尊敬されるSeeDが頻繁に来れば、そしてかまってくれるとしたら、年少組の連中は皆ティーダに夢中だ。
格好良いと憧れると尊敬のまなざしでティーダを見て、そして俺に嫉妬の目を向ける。

悪かったな。
ティーダに特別に可愛がられていて。

俺はサイファーがぐちぐち言うのを素通りして教室を出た。
早く教本を部屋においてきて、エントランスに行こう。
時間からすれば、そろそろ帰ってくるはずなんだ。

声は掛けられなくても、姿は見られるかもしれない。

そう思って俺は急いで部屋に戻ろうとロビーを歩いていたら前方が騒がしいのに気づいた。
どうやらもう帰ってきていたらしい。

俺は階段のほうに移動すると、SeeDたちの帰還を見ようとする年少組の姿が多かった。
ここに混じるのは嫌だと思ったけれど、仕方がないと諦めた。

階段からエントランスの方を見ていたら、SeeD達が入ってきた。
人数は5人で、真ん中にティーダがいる。

なにやら書類を見ながら難しい顔をして、すぐにそれを隣の女に渡すと大きな息をついた。

その様子に、なにか大変なことでもあったのだろうかと周りがひそひそ話しているが、
ティーダを除くメンバー達の表情は明るいものなのでそうじゃないと俺は思った。

単純に報告書を書くのが面倒だなーとかそんなことだろう。
ティーダは剣技も状況判断も抜きん出ていて、第一期メンバーの中の中心人物だ。

つまり、SeeD全体における中心人物。
そんなティーダが報告書とか筆記とか苦手だなんて知ってる奴はあそこにいるSeeD達に以外にどれほどいるだろうか。

そんな優越感を感じながら、俺はティーダの姿を見る。
帰還したのだから、しばらくはこのバラムガーデンにいるだろうか。

それなら手ほどきして欲しいとか、カードで一緒に遊んで欲しいとか色々と考える。
けど、もしかしたらまたすぐに任務でいなくなるかもという考えもある。

なにしろ忙しいんだ。
SeeDの数はまだ少ない。
少しずつ増えているとはいえ、重要任務には優秀な信頼されるSeeDが求められるから……自然とティーダの任務は重要かつ長期にわたるものが多い。

寂しいと思わなくもない。
けど、そんなこと言っていたらいけない。

もっと一緒にいたいと思うけど……今の自分にはそれは無理だ。

「……早く強くなりたい」

思わず漏れた言葉に慌てて口を押さえたが、誰も聞いていなかったようだ。
良かった。格好悪いからな。

そう思っていたらふいにティーダが俺のいる方向を見た。
そしてにっと満面の笑みを浮かべると軽く手を振る。

その笑顔は確実に俺に向けられているもので、こんな雑踏に紛れ込んでいる俺を良く見つけられるなとか、
恥ずかしいからやめて欲しいとか、色々思った。

結局なにもティーダに反応してやることなく、ティーダは達は学園長室の方へと行ってしまった。
SeeDたちがいなくなれば、立ち止まっていたものたちも散り始める。

「調子乗ってんじゃねーよ」

すれ違い様に言われた言葉に、俺は鼻を軽くならした。
こんな陰口のようなことは言われ慣れてる。
なんとでも言えばいい。



□□□□□


「スコール!ただいまッスーーー!」

だらしない顔で飛びついてくる18歳の男を、スコールは可愛いと思った。
皆はティーダを格好いいと言うが、スコールは可愛いと思っていた。

俺を喜ばせようと必死になる姿とか、俺といると凄く嬉しそうでにこにこしている様とか。
8つも年上の、しかも立派なSeeDに対してなにをと思わなくもないし、ティーダが格好いいとも思うけれど……。

「会いたかったッスよスコール!寂しかったッス!!」
「……俺も、ちょっとだけ寂しかった」
「……スコール……!嬉しいッス!」

感動といった様子で俺にしがみついてくるティーダの頭を撫でる。
染めているのになぜかふわふわしているその髪。
ティーダの髪の柔らかさを知ってる奴ってどれほどいるんだろうなとか思って、俺だけじゃないかと優越感に浸る。

「任務、どうだったんだ?」
「んー?任務ッスか?成功成功。なーんも心配いらないッスよ」

へらりと笑ったティーダのいつも通りの返答に少しばかり苛っとした。
ティーダはいつだって、任務のことは何も言わない。
まあ、SeeDとしては当然だと思うけれど、ティーダがどんな任務についているのかとかも全く知らないのが何となく嫌だった。

仕方ないとは思う。
自分はまだ学生で、ティーダはSeeDだ。

8歳も違うのだから仕方ないと思うけれど、どうしてこんなに歳が違うのかと考えてしまう。

「なーなースコール。明日さ、バラム行こうな。久しぶりに外で食事しよう」

にこにこしながらそう言うティーダに、頷いた。
きっと休日のバラムはガーデンの生徒もたくさんいるだろう。

俺がティーダと一緒にいるのを見られたら、またティーダの知らないところで嫌がらせを受けるんだ。
だけど別にいい。
その程度のことでティーダから離れるなんて嫌だ。
一緒にいたい。

「あとで手ほどきしてくれ。あと、課題がでたんだ」
「……手ほどきはいいけど、課題は自分でやって欲しいッス。俺、筆記自信ないからさ」
「年少組の課題だぞ」
「俺の時代は筆記とか殆どなくて、ほぼ実地だったんスよ。スコールの時と時代が違うッス」

その言葉に、やっぱり第一期メンバーは違うのかと感じる。
第一期メンバーはがむしゃらにSeeDとして任務をしてきている。
ある意味、極限状態を生き抜いてきた者たちだ。

自分達みたいに安全の中で少しずつ技量を積む奴等となにかが違う。

「俺も早く、SeeDになりたい」
「なれるなれる。絶対なれるッスよ」

『俺でもなれたんだからさ』と笑うティーダに、俺は溜息をついた。

ああ、本当に早くSeeDになりたい。
早くSeeDになって、ティーダと肩を並べたい。

そうしたらもう、誰も俺とティーダが一緒にいることを不満げに言わないのに。
不釣合いだなんて、評価されることもなくなるのに。



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ティーダがSeeDになったら凄く人気がありそうです。
前向きで、諦めないし明るいし。
絶対に傭兵向きじゃないけど、
アーロンは僧兵だったしちょっとはアーロンを意識しながら任務をするかもしれないですね。
でも、傭兵きっと向かない。
bkm
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