はらり、はらりと零れる滴に心臓を鷲掴まれたような感覚に陥った。
ぎりぎりと痛み、苦しい。
はらりはらりと流れていく滴をなんとかして止めたいが、いい案は浮かばない。
そもそもが自分の言葉が引き金になったのだ。
どうしてあんなことを言ってしまったのか。
今更ながらそう思うが、一度出てしまった言葉は取り消せない。
しーんと静まり返ってしまった場に、重苦しさと悲しみが降り注いでいる。
はらりはらりと、涙を流す様をもう見ていられなくて……ティーダは意を決して口を開いた。
「せ、セシル!」
呼び掛けた人物は、じっと静かに涙を流している。
けれど呼び掛けからややしてからゆっくりと、ティーダに視線を向けた。
セシルは静かにはらりはらりと泣いている。
そしてティーダを見た瞬間に、ぐにゃっと顔を歪めると肩を震わせて苦しげに呻いた。
激しくなった涙に、ティーダもじわりと目の奥が熱くなった。
周りで見守る、バッツたち三人はこの状況におろおろとしている。
「セシル……ごめん……」
ティーダは上着をぐっと握ると数分前の自分を呪った。
ほんの出来心だった。
本当に、ちょっと思っただけなのだ。
それをなにも考えずに口にして、セシルがどう思うかとか傷つくとか全く考えつかなかったのだ。
「ごめん…本当にごめん……!!」
食事も終わって、一部のメンバーで火を囲っていた。
バッツとジタンとスコールの三人組と、セシルとティーダだった。
クラウドとフリオニールは水を汲みに行っていていない。
ティナとオニオンナイトは早々に引き上げてしまっている。
ウォーリアはコスモスのところへ。
そんな中で、バッツたちとの会話の中でちょっと思ったことがあっただけなのだ。
本当に、ささやかな疑問だった。
でもそれは、セシルを不意に傷つけるもので……。
はらりはらりと流れる涙。
ティーダは唇を噛むと自身もほろりと涙を流した。
「セシル……な、泣かないで欲しいッス。お、俺が悪かったから……」
ティーダの言葉にセシルは首をふり、『ティーダのせいじゃない』と小さく紡いだ。
その声は涙に濡れていて、ティーダの心をさらに揺さぶる。
ティーダはもう涙を堪えることはできず、ひっくとしゃくりあげた。
そして鎧がちょっと痛いのも無視してぎゅうぎゅうとセシルに抱きついた。
「ごめん!お、俺……、セシルがそんなに嫌がるとは思わなかったんだ!も、もう絶対にあんなこと言わないから!」
だから、泣かないでというティーダにセシルは苦しげに顔を歪めて身体中の息を吐き出すように言った。
「ティーダ……いいんだ。いいんだよ。君は何も悪くない。ただ僕が愚かだっただけなんだよ。君に過剰な期待を勝手に寄せていただけなんだ。君は、自由でおいで。僕は自由に生きて、太陽のように笑う君が好きなんだから」
セシルは全ての悲しみを知ってしまった賢者のように、弱々しく微笑む。
その悲しみに満ちた微笑みを見たティーダはさらにぐすぐすと涙を流して首を振った。
「せ、セシルが泣いたら……お、俺は笑えないッス!セシルを悲しませたくなんか……そんなの嫌だぁ!だ、だから、お、俺は……もう、あんなこと絶対言わないッス!」
ボロボロと泣きながら、全身で親愛を伝えてくるティーダにセシルは胸が裂かれたかと思うほどの衝撃と、感激を感じた。
ここまで己を想ってくれるティーダ。
罪深いのは自分なのに、悲しまないでと涙を溢すティーダ。
「ティーダ……!」
セシルは壊れ物を扱うように、優しくティーダを抱きしめた。
改めて、今誓おう。
僕は、僕らの太陽を何があっても守ることを。
今、もう一度、強く誓おう。
抱き締めあう、セシルとティーダ。
その姿をスコールはしばし見つめ、瞬きをゆっくりと一回すると、腰かけていた岩から立ち上がった。
バッツとジタンも、二人を見て、そしてスコールに続きその場を後にする。
三人は自分達に宛がわれたテントへと足を向け、ゆっくりと星空のしたを歩く。
常ならばバッツとジタンははしゃぎまわっているというのに、今日に限って静かなのは、やはりさきほどのティーダとセシルのことで思うことがあるんだろう。
「……なんか、悪いことしちまったな」
「……そうだな」
「……」
バッツがぽつりと言葉を溢し、ジタンは同意した。
スコールも言葉にはしなかったが、自分が浅慮ではなければ、セシルもティーダも辛い目にあわなかったのではなかったのかと思った。
三人は一つ、ため息をつくと揃って空を見上げ、輝く星空の下で、三人はティーダの言葉を思い出す。
「……ティーダ、猥談しません宣言しちまったな」
「もう、ドキ☆男だけの猥談大会には呼べねえな」
バッツとジタンの言葉に、スコールは視線を落とす。
あの時自分が、『セシルがいるんだから今は止めておけ』とバッツとジタンを止めていたら、ティーダは年頃の青少年らしさを失わずに済んだかもしれないし、ティーダを天使かなんかと考えていたセシルが傷つくこともなかったのかもしれない。
「俺、猥談しないとか……そんなの辛いなぁ」
しみじみとそう言ったバッツに、ジタンとスコールは後ろを振り返った。
さっきまでいた焚き火の傍では、ティーダがセシルに頭を撫でれながら涙を拭っているところで……遠くから(これまたティーダを天使かなんかと思ってるであろう)フリオニールとクラウドが歩いてきていた。
「俺、ジタンとスコールとチームで良かったよ」
「俺も。バッツとスコールで良かった」
その言葉に、スコールも同意見ではあったが、きっと自分達は最初からあそこにいてもティーダと同じようには扱われなかっただろう。
スコールは頬を掠める風に乗せて、ため息を一つ落とした。
バッツとジタンとティーダとする猥談は楽しかったのに。
スコールのため息は、風にとけて消えた。
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ティーダは天使だから猥談なんかしないよ!
そんな247のお話。(2と7はいないけど)