小説 | ナノ
Life1
※ACC後の7の世界に10が来ちゃう話。


その日は俺の退院した日だった。
あれからもう三年が経ち、改めて礼でもしようと思ったのは何でだったのだろうか。
三年前の旅の仲間たちと久々に会ったからか。
それとも……臼ぼんやりとだけれど知らない仲間たちと戦う夢をみたからだから。
見知らぬ仲間の内の一人の少年は言った。

言いたいことは言っちゃえよ

その言葉がなんとなく残って、朝起きたら天気もよくて、そういえば今日は俺の退院日だったと思い出して。
まだ眠っている仲間に書き置きだけ残して愛用のフェンリルにまたがり飛び出した。

衝動的に行動するのも悪くない。
そう思うのは夢の少年……というか青年か?
とかく、彼が衝動を原動力にする部分があったからだ。
衝動は本能だ。それを理性で押さえつけることもできるが、彼は感じるままを大事にする奴だった。

いや、夢の話なんだけどな。
俺はいったい何を考えているのか。

そんな風に思っていても、なんとなく口角があがってしまうのは止められなかった。
なんだこれは、思った以上に俺は受かれてるのか。

でも、悪い気はしない。

そう思いながらフェンリルを飛ばして、目的地であるミディールに着いたのは昼過ぎだった。

そのまま病院へと思ってフェンリルを止めたのだが、街が騒がしいのに気がついてなにかあったかと眉を少しだけ細める。


戸惑う声と、医者が奥に走っていく様に、俺は騒ぎの中心部へと寄っていった。
そこは人混みが酷くて、しかし……一定の距離があるようだった。
無理もない。どうやら騒ぎは吹き出したライフストリームのせいのようだったからだ。

浅瀬を漂う、ライフストリームを幾人かの医者たちがじりじりと近づいては中を伺っている。
その医者の中に、治療が終わってから紹介されたかつての自分の主治医の姿を見つけて、俺はさらに騒ぎの中心部に近づいた。


ライフストリームを離れて囲むように人がいるのに対し、ライフストリーム自体に近づく人は少ない。
だから、俺はすぐに医者たちに見つかり、俺の元主治医は少し驚いた様子を見せた。

「おお、君か。体調はどうだい」
「……特になにも。あの時は世話になりました」
「いや、元気そうで何よりだよ」
「……この騒ぎは何ですか?」

心配されるのが少しだけ気恥ずかしく、つい話題をそらすかにように聞いてしまった。
けれど医者は困った顔をすると、怪しい光を放つライフストリームを見下ろした。
俺も医者にさらに近づき、光沢を放つライフストリームを見る。
結構な大きさだ。池くらいの広さがあるか。

「実は、この中を少年が泳いでいるらしい」
「は?泳いでいる?」


非常識な言葉に驚いて、俺は医者を見て、ライフストリームを見た。
この中を泳ごうとする奴がいるのか?まさか魔晄中毒者か?

「人伝に聞いて、慌ててやって来たんだ。……だが、顔を見せない。もう沈んでしまったのかもしれないな」

医者の溜め息に、それも充分あり得ることだと思う。
この中に落ちて、意識を持っていかれたら溺れるだろう。
そして、混濁した意識で陸に上がろうとは思わず、中で死ぬ。
下手したら俺もそうだったかもしれない。

そんな風に思いながらライフストリームを見ていたら、ごぼりと気泡が生まれたのに俺は僅かに目を見開いた。

そして、次の瞬間に―――。

「ぷっはぁ!………あーもう!見つからないッス!!」

ライフストリームから勢いよく飛び出した少年はがしがしと頭を掻いている。
周りはいきなり騒然となり、音がさらに煩くなったが、俺の頭の中は凪いだように静かだった。

目の前にいる少年が、俺の忘れてしまっていた異世界の記憶を呼び覚ます。

終焉を迎えゆく世界。

神々の闘争。

共に戦った仲間たち。

……そして、別れ。

二度と会えないと思っていたか奴らの一人が目の前にいることに俺の血は煮えたぎり、脈拍はどくどくと米神を激しく打ち鳴らしている。

目の前に――――。

「……っ……ティーダ!!」

からからの喉から絞り出した声でも静かなこの場には充分に響いた。
ライフストリームの中心で顔をだしているあいつも呼ばれたのに気がついて、俺の方を見る。

目があった。
その瞬間にあいつの……ティーダの顔が喜色に染まる。

「クラウド!!なんでクラウドがいるんスか!?」

ティーダはそう言って手を振っている。ティーダが手を振るたびに、ライフストリームがばしゃりと音をたてる。
俺はその事実にはっと気づくと慌てて叫んだ。

「ティーダ!!早くそこから上がれ!!」

ティーダがいるのはライフストリームの中だ。
浸かれば、素養がないものは魔晄中毒になる。
素養があっても長時間浸かれば中毒になる。
そうなれば、中毒症状から回復するには相当な訓練が必要だ。

そう思って俺は上がれと言ったのに、ティーダはきょとりとした顔をしてから人好きするあの笑顔を見せた。

「うーんと、もうちょっとだけ」
「なっ……!」

何を言っているんだと言う前に、ティーダはまたとぷんとライフストリームに潜ってしまった。
人の話を聞けとか、それはただの水場じゃないとか色々言いたいことはあったけど、言うべき相手がいま目の前にいない。

ライフストリームに潜ってまた同じところに戻れるとは限らない。
俺はもう本能的にライフストリームに突っ込もうとしたが、がしりと腕が捕まれて踏みとどまった。

腕を掴んでいたのは俺の元主治医で、酷く驚いた顔をしていた。
その驚きは俺にたいしてなのか、ティーダにたいしてなのか。

どちらにしても腕を捕まれてはここまま進めない。
ここ医者の力じゃ俺を引き留めることなんてできないけど、引きずってライフストリームに入るのは憚れる。

振りほどかなければ。
ティーダをあのままにできない。

そう思って医者の手を振りほどこうとしたら、後ろからばしゃりと大きな音が聞こえた。

「あったー!」

そう言って、掲げられた手には青い刀身をした剣が握られていた。
笑顔を見せて、俺の名前を呼んでいるティーダに脱力する。

「フラタニティ、落としちゃったんスよね」

そう笑ってライフストリームから上がってきたティーダに呆然とする。
お前、笑ってるけどその泉みたいのは危険な代物なんだぞ。

「えーっと、クラウド?」
「……なんだ?」
「ちょっと老けた?」


ああ。ティーダだ。
やっぱりティーダが目の前にいる。

場違いな発言に、俺はがくりと力が抜けた。

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10が7の世界にきたら、7は幸せになれる気がする。
bkm
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